第169話 二回戦、その後
二回戦を終えた東鶴間高校野球部は、再びいつもの練習の日々へ戻っていた。
県大会を勝ち進んでいるとはいえ、浮かれている者はいない。
三回戦は、もう目前まで迫っていた。
そんな中――。
グラウンド脇で休憩していた一年生投手陣、白石広志、夏目海、伯方歩夢の三人は、先日の試合について話していた。
話題はもちろん、二回戦で完封勝利を飾った、天宮真十郎と高橋雪夜のバッテリーについてだった。
「天宮先輩と雪夜さん……すごかったです」
歩夢が、ぽつりと呟く。
その表情には、純粋な憧れが浮かんでいた。
「確かに、完封はすごかったな」
海も腕を組みながら頷く。
「本当に、すごいとしか言えないよ」
広志も苦笑しながら言った。
七回コールド。
しかも完封。
あの試合は、東鶴間高校野球部にとって、大きな意味を持つ勝利だった。
「……私も、雪夜さんとバッテリーを組みたいなぁ……」
歩夢が、少し羨ましそうに言う。
「僕もかな」
海も素直に頷いた。
「僕もだよ」
広志も笑っていた。
三人とも、同じ気持ちだった。
高橋雪夜のリード。
あの安心感。
投げてみたいと思わない投手はいない。
歩夢は、少し考えるようにして言った。
「……次は、天宮先輩は投げられないと思うから……」
「次は誰が先発か……ってことだよな」
海が言う。
すると、広志は少し遠慮がちに答えた。
「多分……田中先輩だと思うよ」
「広志、言うならタダなんだから、僕も先発したい……って言えばいいのに……」
海が笑いながら言う。
だが、広志は首を横に振った。
「確かに先発はしたいけど……田中先輩と天宮先輩を差し置いて、そんなこと言えないよ」
その言葉には、先輩たちへの敬意が込められていた。
すると、歩夢がのんびりとした口調で言った。
「私は〜……雪夜さんとバッテリーを組めるなら、どこでもいいですよ」
「本当に、歩夢は雪夜さんが好きなんだな」
海が苦笑する。
歩夢は悪びれることなく頷いた。
「……私は、雪夜さんとバッテリーを組みたいから、東鶴間に来ました」
「僕も、雪夜さんがいるから東鶴間に入学したんだ」
広志も続ける。
「僕は、姉に誘われたのと……雪夜さんがいるから……」
海も照れくさそうに言った。
それを聞いた広志が、思わず吹き出す。
「なんだ……みんな同じか」
三人は顔を見合わせ、笑っていた。
そんな一年生投手陣の様子を、少し離れた場所で見ていた中山太郎が、ぽつりと呟く。
「なあ、田中……みんな、高橋のこと好きなんだな」
隣にいた田中三郎は、肩をすくめながら笑った。
「安心しろ。俺は中山のこと、好きだぜ」
「気持ち悪いこと言うな」
中山は呆れたように返したが、その表情はどこか柔らかかった。
笑い声が響くグラウンド。
そんな日々を重ねながら――。
東鶴間高校野球部は、次なる戦いへ向かっていく。
三回戦は、もうすぐそこまで迫っていた。




