第166話 一回戦、その後
一回戦を終えた東鶴間高校野球部は、すぐに次の戦いへ向けて動き始めていた。
二回戦に備え、今日もグラウンドには掛け声が響いている。
ノック。
バッティング。
投内連携。
一回戦を勝利したことで、チームの空気は少し明るくなっていた。
だが――。
その中で、一人だけ浮かない表情をしている者がいた。
正捕手、中山太郎だった。
中山はベンチに座りながら、自分のグラブを見つめていた。
(俺は、正捕手なのに……八失点もさせた……)
一回戦の乱打戦。
勝ちはした。
だが、内容は決して良くなかった。
(俺は……肩以外は、高橋より劣っているのか……?)
雪夜がマスクを被った九回。
白石広志を完璧にリードし、最後を三振で締めた姿が頭から離れない。
配球。
試合運び。
投手への声掛け。
どれを見ても、自分より上に見えてしまう。
中山は静かに拳を握っていた。
一方――。
監督の九条咲と高橋雪夜は、部室で話をしていた。
「雪夜……二回戦は、天宮と雪夜のバッテリーでいこうと思っている」
咲の言葉に、雪夜は少し驚いたような顔をした。
「それは、いいと思うのですが……」
雪夜は少し考えながら言う。
「天宮を使うのが、早いと思います」
天宮真十郎は、東鶴間のエース。
本来なら、もっと後の試合で温存したい存在だった。
だが咲は静かに首を横に振る。
「私もそう思う……だが、天宮と雪夜のバッテリーも試しておきたい。それが理由だ」
その言葉に、雪夜は理解したように頷いた。
県大会は長い。
勝ち進むなら、複数の形を作っておかなければならない。
そして何より――。
天宮と雪夜のバッテリーが、どこまで通用するのか。
それを確認したいのだ。
「……分かりました」
雪夜は真っ直ぐ咲を見る。
「監督の期待にこたえるために、全力で頑張ります」
その言葉に、咲は少しだけ笑った。
「ああ……期待している」
咲は自然にそう言っていた。
雪夜なら、なんとかしてくれる。
そんな信頼が、いつの間にか心の中に根付いていた。
そして――。
二回戦が、少しずつ近づいていた。




