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第164話 一回戦、前半

 一回戦が始まった。


 だが――。


 東鶴間高校の先発、田中三郎は緊張していた。


 無理もない。


 去年の躍進で、周囲から期待されるようになった。


 今年は「去年のまぐれではない」と証明しなければならない。


 その重圧が、田中の身体を硬くしていた。


 一回表。


 田中は制球が定まらず、連打を浴びる。


 気づけば、東鶴間は二点を先制されていた。


 ベンチには、嫌な空気が流れる。


 だが――。


 一回裏。


 東鶴間高校の反撃が始まる。


 一番、高柳龍二郎。


 打席へ向かう龍二郎を見ながら、監督の九条咲は二番の高橋雪夜へ声をかけた。


「雪夜……二点リードされている」


 雪夜は静かに振り返る。


「高柳が二塁打なら、送りバントはしなくていい。打ってこい」


 その言葉に、雪夜は小さく頷いた。


「……はい」


 そして――。


 高柳龍二郎は期待に応えた。


 鋭く振り抜いた打球は外野を破り、二塁打。


 いきなり得点圏へ走者を進める。


 続く二番、高橋雪夜。


 雪夜は、咲の言葉通り送りバントを選ばなかった。


(ここは……攻める)


 初球から積極的に振り抜く。


 打球は右中間へ飛び、タイムリー二塁打。


 東鶴間は一点を返した。


 九条咲の采配は、見事に当たっていた。


 さらに勢いは止まらない。


 三番、新井元気がヒット。


 四番、天宮真十郎が二塁打。


 五番、浮田総二もヒット。


 連打、連打、また連打。


 東鶴間高校は一気に逆転し、スコアは3対2となった。


 ベンチの空気が変わる。


「よしっ!」


「行けるぞ!」


 去年までの東鶴間なら、二点差をつけられた時点で崩れていた。


 だが今の東鶴間は違う。


 打ち返せる。


 逆転できる。


 そんな自信が、少しずつ芽生えていた。


 二回以降――。


 田中三郎も立て直した。


 緊張がほぐれたのか、低めに球が集まり始める。


 中山太郎とのバッテリーも落ち着きを取り戻し、相手打線を無失点に抑えていった。


 その間にも、東鶴間打線は追加点を奪う。


 少しずつリードを広げていった。


 だが――。


 試合は簡単には終わらない。


 五回表。


 再び田中が捕まった。


 連打を浴び、一点差まで詰め寄られる。


 スコアは5対6。


 東鶴間ベンチにも緊張が走った。


 それでも――。


 五回裏。


 東鶴間打線が再び奮起した。


 泥臭く繋ぎ、追加点を奪う。


 スコアは5対7。


 なんとか二点差に戻した。


 そして六回。


 監督の九条咲は動いた。


「海、行けるか」


 呼ばれた夏目海は、静かに頷く。


「はい」


 マウンドへ向かう海。


 ここから先は、後半戦。


 東鶴間高校野球部の総力戦が、始まろうとしていた。

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