第163話 県大会、試合前
県大会当日――。
東鶴間高校野球部の面々は、朝からどこか落ち着かない様子だった。
それも無理はない。
去年、一回戦を勝利するまで――。
東鶴間高校野球部は、“万年一回戦負け”が当たり前のチームだったのだから。
勝つことより、負けることに慣れていた。
期待されることもなかった。
だが去年、その東鶴間は県大会四回戦まで進出した。
そして――。
桜桜花高校に、5対17。
五回コールド負け。
あまりにも大きな現実を突きつけられた。
だからこそ、今年は違った。
一回戦で負けるわけにはいかない。
去年は“奇跡”だったと言われたくない。
そんな想いが、選手たちの胸に重くのしかかっていた。
球場に到着した東鶴間高校野球部は、静かにベンチへ入る。
スパイクの音。
グラブを叩く音。
誰も大声を出さない。
緊張しているのは、誰の目にも明らかだった。
そんな中――。
監督の九条咲が、選手たちの前に立った。
「みんな……今日から県大会が始まる」
部員たちは、静かに顔を上げる。
「去年は四回戦まで進んだ……だが、気にするな」
咲は、一人一人を見るように続けた。
「お前たちの力や、練習の日々を見てきたから言える」
その声は、静かだった。
だが、力強かった。
「お前たちは、強くなっている」
その言葉に、部員たちの表情が少し変わる。
すると咲は、進藤竜也へ視線を向けた。
「進藤。キャプテンのお前からも、一言言ってみるか」
進藤は立ち上がり、仲間たちを見渡した。
「みんな、今日が僕たちの初陣となる」
その言葉に、全員が耳を傾ける。
「やれるだけのことはしてきた……後悔しないように、頑張ろう」
一瞬の静寂。
そして――。
「「おうっ!!」」
東鶴間高校野球部の声が、ベンチに響いた。
もう、“万年一回戦負け”のチームではない。
弱小と笑われ続けた東鶴間高校は――。
今、自分たちの力で前へ進もうとしていた。
こうして。
東鶴間高校野球部の、新たな戦いが始まろうとしていた。




