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第16話 打撃投手

 久しぶりに、野球部監督の九条咲がグラウンドに姿を見せていた。


 だが――

 彼女は指導らしい指導をすることもなく、ベンチ脇に立ったまま、黙って練習を眺めているだけだった。


 内心では、すでに結論を出していた。


 ――このチームは、今年も一回戦負けだろうな。


 そう思いながら、淡々と視線を走らせる。


 その一方で、当の部員たちは、そんな評価など気にも留めていなかった。


 グラウンドの一角で、高橋雪夜と高柳龍二郎が並んで練習をしている。


 雪夜がマウンド代わりの位置に立ち、ボールを投げていた。


 ――実は、雪夜は小学生の頃、投手経験があった。


 今日は、高柳の打撃感覚を取り戻すための、特別な打撃練習だった。


「悪いね、高柳」


 雪夜が、申し訳なさそうに言う。


「僕の球、遅くてさ」


「いや」


 高柳は、バットを肩に担いだまま首を振った。


「俺のために投げてくれているんだ。助かるよ」


 そして、少し間を置いて続ける。


「次は……変化球も混ぜてくれ」


「分かった」


 雪夜は頷いた。


「じゃあ、球種を教えるね。

 スライダーと、シュートと、シンカーと……それから――」


「ちょっと待て!」


 高柳が思わず声を上げる。


「球種、多すぎだろ!」


 思わず二人で笑ってしまう。


 その様子を、九条は遠くから見ていた。


 ――あいつら……。


 無意識のうちに、視線が釘付けになる。


 ――本気で、一回戦を突破しようとしているのか。


 胸の奥に、わずかな違和感が芽生えた。


 それは、期待にも、戸惑いにも似た感情だった。


 そして――

 数日後。


 東鶴間高校野球部に、とんでもない報せが舞い込んでくる。

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