第158話 県大会に備えて
今日も、東鶴間高校野球部は練習に励んでいた。
県大会を目前に控え、九条咲は実戦を想定した守備練習を行っていた。
テーマは――中山太郎が捕手の時の守備陣形である。
まず決まったのは内野だった。
ファーストに浮田総二。
セカンドに高橋雪夜。
サードに進藤竜也。
ショートに六条遊人。
ここまでは、比較的すんなり決まった。
問題は、外野だった。
試しに、
レフト・高柳龍二郎。
センター・早田士郎。
ライト・新井元気。
という布陣にしてみる。
九条咲はバットを持ち、次々とノックを放っていった。
高く上がるフライ。
鋭い打球。
外野の間を抜けそうな当たり。
だが、高柳龍二郎は、それら全てに食らいついていく。
「ナイスキャッチ!」
部員たちの声が飛ぶ。
守備範囲は広い。
打球判断もいい。
捕球も安定している。
足も速い。
レフトとしての能力だけを見れば、十分すぎるほどだった。
――しかし。
問題は、その後だった。
龍二郎の返球は、大きく山なりになった。
決して暴投ではない。
だが、球威が足りない。
中継へ返すまでに、どうしても時間がかかってしまう。
九条咲は、その様子を黙って見ていた。
六条遊人も、レフトから龍二郎の返球をカバーするように動いていた。
練習終了後。
野球部の面々は部室へ集まり、九条咲の話を聞いていた。
咲は少し考えるように目を閉じた後、静かに口を開いた。
「いろいろ考えてみたが……高柳をレフトで使うことにした」
部室は静かだった。
だが、誰一人として反対する者はいない。
それだけ、高柳龍二郎という選手の打撃力が突出していることを、全員が理解していた。
すると、六条遊人が手を挙げた。
「高柳の返球は、僕がカバーします」
その言葉に、咲は頷く。
「頼むぞ、六条」
「はい」
六条は真剣な表情で答えた。
肩の弱さ。
それは確かに弱点だった。
だが、それを仲間が補う。
東鶴間高校野球部は、そういうチームになり始めていた。
こうして――。
中山太郎を捕手にした時の布陣も、ついに形になった。
そして今年もまた、県大会が近づこうとしていた。




