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第154話 小山唯

 監督の九条咲から、マネージャー勧誘の話が出た翌日――。


 放課後となり、生徒たちが帰り支度を始める中、高橋雪夜は静かに席を立った。


 向かった先は、窓際の席。


 そこには、幼馴染の小山唯がいた。


「唯、少し話があるんだ」


 雪夜が声をかけると、唯は不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの? そんな真剣な顔をして」


 雪夜は少しだけ苦笑しながら、東鶴間高校野球部の現状を説明した。


 マネージャーが夏目真衣一人しかいないこと。


 選手が増えたことで、負担が大きくなっていること。


 そして、新しくマネージャーを募集していることを。


 話を聞き終えた唯は、小さく頷いた。


「なるほど……」


 雪夜は少しだけ緊張しながら言った。


「と、いうわけなんだ……唯がよければ、野球部のマネージャーになってくれないかな」


 すると唯は、あっさりと言った。


「うん。マネージャーになってもいいよ」


「……えっ?」


 あまりにも即答だったので、雪夜は少し驚いていた。


「本当に……ありがとう、唯」


 雪夜が安心したように笑った、その時だった。


 ガラッ――。


 教室の扉が勢いよく開いた。


「ちょっと待った!」


 大きな声と共に入ってきたのは、新井元気だった。


 元気は雪夜と唯を交互に見ながら言った。


「唯ちゃんをこき使うのは、オイラは反対だよ!」


 雪夜は呆れたように言った。


「別に、こき使うつもりなんてないけど……」


 だが、元気は真剣だった。


「それに、唯ちゃんはオイラの彼女だよ。他の奴らに口説かれたら、嫌でやんす」


「そんな奴がいたら、僕が止めに入るよ」


 雪夜はさらっと答える。


 だが元気は、むしろ不安そうな顔をした。


「どうかなぁ……唯ちゃん、可愛いから、他の奴に狙われないか心配になるんだよ」


 唯は苦笑しながら言った。


「元ちゃん、私は大丈夫だよ」


「でもなぁ……」


 まだ納得していない元気。


 そんな彼を見た唯は、優しく微笑みながら言った。


「私は、元ちゃんと雪夜の力になりたいの。……駄目かな?」


 その言葉に、元気は一瞬黙り込んだ。


 そして、少し照れくさそうに頭を掻く。


「……オイラのために、ならいいよ」


 唯は嬉しそうに笑った。


 雪夜もまた、どこか安心したように息を吐く。


「まぁ……とにかく、決まりだね。唯、これからよろしく」


「うん。よろしくね、雪夜」


 幼馴染らしい、自然な笑顔だった。


 そして――。


 東鶴間高校野球部に、新たなマネージャー候補がもう一人加わることになったのだった。

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