第14話 監督
高橋雪夜と高柳龍二郎が握手を交わした、その時だった。
「いいねぇ……男同士の友情って」
背後から聞こえた声に、雪夜は思わず肩を跳ねさせた。
「わっ……な、夏目さん」
いつの間にか、夏目真衣がすぐ近くに立っていた。
「高柳君」
夏目は、柔らかく微笑んで言った。
「野球部に入ってくれて、ありがとう」
「……夏目」
高柳は、少し気まずそうに視線を逸らす。
「この前は……悪かったな。話を聞こうとしなくて」
「いいの」
夏目は首を振った。
「こうして、野球部に入ってくれたんだもの。それで十分だよ」
「……そう言ってもらえると、助かる」
高柳はそう言ってから、ふと周囲を見渡した。
「ところでさ……監督の姿が見えないけど」
「……確かに」
雪夜も気づいて、辺りを見回した。
「そういえば、今日もいないね。
夏目さん、何か知ってる?」
夏目は、一瞬だけ言い淀んだあと、静かに答えた。
「……実はね」
少し声を落とす。
「うちの監督、やる気がないの」
「やる気が……ない?」
雪夜は思わず聞き返した。
「どういうこと?」
「うちの野球部、万年一回戦負けでしょう?」
夏目は続ける。
「先生が監督になったのも、押しつけられたからなの。
だから、野球にも興味がなくて……やる気もないの」
胸の奥が、じくりと痛んだ。
「それで、練習も見に来ない……ってこと?」
「……うん」
少し沈んだ声で、夏目は頷いた。
「でも」
雪夜は、はっきりと言った。
「だからって、練習を見に来ない理由にはならないよ」
二人を見る。
「僕、監督と話をしてくるよ」
「雪夜君……」
「夏目さん、監督がどこにいるか分かるかな?」
「たぶん……職員室にいると思うけど」
「分かった」
雪夜は、すぐに踵を返した。
「今から行ってくる。
高柳、悪いけど、練習を続けていてくれ」
「お、おう……」
高柳は少し驚きながらも、頷いた。
「高橋も……大変だな」
「行こう、夏目さん」
雪夜はそう言って、夏目と並んで歩き出した。
向かう先は――職員室。
野球部に残された、
もう一つの大きな問題と向き合うために。




