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第135話 桜桜花戦、五回裏

 五回裏――

 桜桜花高校の攻撃。


 一番・神谷光彦。


 ここまでノーヒット。


 捕手・中山太郎は、静かに思っていた。


(……大丈夫だ。ここまでは抑えている。打ち取れる)


 マウンドの田中三郎は、サインに頷く。


 初球。


 低め、ストレート。


 だが――


 神谷は、三打席目だった。


 読みが合う。


 振り抜いた打球は、鋭く前へ。


 ヒット。


 出塁。


 二番・市原圭一。


 中山は警戒を強める。


(こいつは……粘る。際どいところでいい)


 ボール気味の配球を選ぶ。


 その一球目。


 田中が投げた瞬間――


 一塁ランナー・神谷がスタートを切る。


 盗塁。


 中山はすぐさま送球体勢に入るが――


 間に合わない。


 セーフ。


 二塁。


 二球目。


 外角低め、チェンジアップ。


 タイミングを外す。


 だが――


 市原はバットを引かなかった。


 送りバント。


 転がる。


 処理して、一塁送球。


 アウト。


 だが――


 ランナーは三塁へ。


 ワンアウト三塁。


 そして――


 三番・金村好郎。


 バッターボックスに入る。


 一点で勝ち越し。


 グラウンドの空気が、一段と張り詰める。


 その時だった。


 ベンチの高橋雪夜が、静かに声をかける。


「海……いつでも行けるように、気持ちを作っておいてくれ」


 夏目海は、何も言わず頷いた。


 その目は、すでに戦う者のものだった。


 五回裏――

 ワンアウト三塁。


 三番・金村好郎。


 捕手・中山太郎は、冷静に状況を整理していた。


(……こいつは当ててくるタイプだ。

1点は仕方ない……だが、それ以上はやらせない)


 マウンドの田中三郎にサインを送る。


 初球――


 外れる。


 ボール。


(……?)


 中山の胸に、嫌な感覚がよぎる。


(まさか……もうスタミナが……)


 その予感は、外れなかった。


 田中の球は、明らかに力を失っていた。


 なんとか腕を振る。


 だが――


 ボール。


 ファウル。


 ボール。


 カウントは、ツーストライク・スリーボール。


 好郎は、じっと見ていた。


(ストライクを取りに来たところを叩く)


 だが――


 投じられた一球は、外れる。


 フォアボール。


 一塁・三塁。


 ここで、ベンチが動く。


 東鶴間高校監督・九条咲。


 投手交代。


 田中に代わり――


 夏目海。


 マウンドへ。


 田中は、肩で息をしながら海に言った。


「……すまない。あとは頼む」


 海は静かに頷く。


 初登板。


 その最初の相手は――


 四番・金村歳郎。


 初球。


 外角ストレート。


 ストライク。


 歳郎は見逃す。


(……速くはないが……伸びている)


 そう感じていた。


 二球目。


 外角低め、カーブ。


 ボール。


 三球目。


 内角低め、スクリュー。


 引っ張る。


 打球は伸びるが――


 ファウル。


 ツーストライク・ワンボール。


 四球目。


 外角高め、ストレート。


 外れる。


 五球目。


 低め、フォーク。


 また外れる。


 フルカウント。


 そして――


 六球目。


 高め、ストレート。


 ――外れた。


 フォアボール。


 満塁。


 グラウンドの空気が、一変する。


 東鶴間、最大のピンチ。


 その時だった。


 捕手・中山太郎が、タイムを取る。


 そして――


 ベンチへ向かう。


 九条咲の前に立つ。


「……監督」


「どうした、中山」


 一瞬の沈黙。


 そして――


「俺を……代えてください」


 ざわめきが走る。


「俺のリードより……高橋の方が、海の良さを引き出せると思います」


 九条咲は、静かに目を細めた。


 そして――


 視線を移す。


「……雪夜、行けるか」


 高橋雪夜は、一歩前に出る。


「……はい。行きます」


 その声に迷いはなかった。


 捕手交代。


 高橋雪夜、出場。


 満塁。


 試合は、再び動き出そうとしていた――


 五回裏――

 満塁。


 高橋雪夜は、マウンドへ歩み寄った。


「海……落ち着いていこう」


 短い言葉。


 だが、その声には確かな落ち着きがあった。


 夏目海は、ただ黙って頷く。


 五番・谷本智由。


 右打席。


 初球。


 内角低め、ストレート。


 見逃し――ストライク。


 二球目。


 同じコース。


 わずかに外れているように見えたが――


 判定はストライク。


 ツーストライク。


 追い込む。


 三球目。


 外角低め、フォーク。


 タイミングは外した。


 だが――


 谷本は食らいつく。


 バットの先で拾い上げる。


 打球はセンターへ。


 犠牲フライ。


 三塁ランナーが還る。


 6対5。


 桜桜花、勝ち越し。


 ツーアウト。


 ランナー二塁・一塁。


 六番・宮本草太郎。


 左打席。


 初球。


 外角ストレート。


 見逃し。


 ワンストライク。


 二球目。


 外角低め、カーブ。


 これも見逃し――ストライク。


 ツーストライク。


 追い込んだ。


 雪夜は、ゆっくりとサインを出す。


 ――高め。


 だが、ボールになるコース。


 海は頷く。


 振りかぶる。


 投げた。


 ストレート。


 ノビる。


 宮本は、振りにいく。


 だが――


 届かない。


 空振り。


 三振。


 チェンジ。


 雪夜は、軽く息を吐いた。


「海、ナイスピッチング」


 海は、まだ少し硬い表情で答える。


「……でも、1点取られました」


 雪夜は首を振る。


「仕方ないよ。満塁だったんだ。

 1点で止まったと思おう」


 その言葉に、海は小さく頷いた。


「……はい」


 ベンチ。


 夏目真衣は、静かにグラウンドを見つめていた。


(……海……ナイスピッチング)


 声には出さない。


 だが、その目は、確かに弟を誇っていた。


 そして――


 六回表。


 再び、東鶴間の攻撃が始まろうとしていた。

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