第130話 桜桜花戦、二回表
二回表――
東鶴間高校の攻撃。
八番・中山太郎。
右打席。
マウンドの金村歳郎は、すでに先ほどまでとは別人のような顔つきになっていた。
初球。
内角へ鋭く食い込む高速スライダー。
中山は思わずのけぞる。
――だが、ストライク。
二球目。
高めのストレート。
振るも、空振り。
ツーストライク。
三球目。
内角低め、緩いスローカーブ。
タイミングを完全に外され――空振り三振。
ワンアウト。
続く九番・田中三郎。
だが――
本気になった金村兄弟の前では、手も足も出なかった。
三球三振。
ツーアウト。
そして――
一番・高柳龍二郎。
再び打席に立つ。
捕手・金村好郎がサインを出す。
外角。
――首を振る。
真ん中付近。
――またも首を振る。
(まさか……兄さん……)
(内角に、行きたいのか……?)
好郎は一瞬迷い――
内角低め、高速スライダーのサイン。
歳郎は頷いた。
初球。
内角低め。
龍二郎は詰まりながらも当て、ファウル。
ワンストライク。
そして二球目。
内角高めのストレート――
だが。
ボールはすっぽ抜けた。
一直線に――龍二郎の顔付近へ。
「っ!」
龍二郎はとっさに体を反らし、かわす。
ざわつくグラウンド。
審判が一歩前に出る。
警告を出そうとした、その時だった。
「……構わねえよ」
低い声が響いた。
「投げさせろ」
龍二郎の一言。
その威圧に、好郎は息を呑んだ。
もう――内角のサインは出せない。
歳郎も帽子を取り、頭を下げる。
そして。
好郎は外角のサインを出す。
――だが、首を振る。
わずかな沈黙の後、低めのチェンジアップ。
歳郎は、ようやく頷いた。
投じられた一球。
だが――
その瞬間。
高柳龍二郎の中で、何かが変わっていた。
(……ふざけるなよ)
振り抜いた。
打球は凄まじい音を響かせ、一直線に空へと突き刺さる。
誰もが見上げる。
ボールは――
消えた。
ホームラン。
二打席連続。
龍二郎は静かにベースを回る。
(あの野郎……コントロールが甘いくせに、内角攻めなんてしてきやがって……)
スコアは、4対0。
二番・六条遊人は三振に倒れるも、この回、東鶴間はさらに一点を追加した。
ベンチへ戻った龍二郎に、雪夜が声をかける。
「龍二郎、大丈夫かい」
「ああ……大丈夫だ」
短く答えた後、吐き捨てるように言った。
「あの野郎……内角攻めしておいて、すっぽ抜けかよ……」
その言葉に、怒りが滲んでいた。
一方――
桜桜花ベンチ。
金村兄弟が向き合う。
「兄さん、もう内角攻めはやめようよ」
好郎の言葉。
だが、歳郎は言い返す。
「ぶつけてないだろう」
そのやり取りを見ていた九条神楽は、心の中で呟いた。
(……後で……咲ちゃんに謝らないといけないわね……)
そして――
二回裏。
四番・金村歳郎の打席。
試合は、さらに激しさを増していく。




