第131話 桜桜花戦、二回裏
二回裏――
桜桜花高校の攻撃。
四番・金村歳郎。
左打席に入る。
マウンドには田中三郎。
捕手・中山太郎のサインに、静かに頷く。
初球。
低めのカーブ。
歳郎は微動だにせず見送り――ストライク。
(弱小なんかに……)
(四点も取られるなんて……)
歳郎の内側で、感情が渦巻いていた。
二球目。
外角高めのストレート。
その瞬間――
歳郎の目が変わる。
振り抜いた。
乾いた音が、グラウンドに響く。
打球は一直線にセンターへ――
伸びる。
伸びる。
そして――
スタンドへ突き刺さった。
ホームラン。
一点返す。
4対1。
桜桜花ベンチが、一気に沸き上がる。
「ナイスバッティング!」
「さすが歳郎!」
歳郎は何も言わず、ゆっくりとベースを回った。
だが、その表情には、先ほどまでの迷いはなかった。
ベンチに戻ると、好郎が声をかける。
「兄さん、さすがだよ」
歳郎は軽く笑った。
「そりゃあ、そうだよ」
「僕が本気を出せば、こうなるよ」
その一言で――
桜桜花高校の空気が変わる。
反撃の狼煙。
試合はまだ、終わっていない。
ここから――
桜桜花高校の反撃が、始まろうとしていた。
金村歳郎の一発で――
試合は、終わっていなかった。
桜桜花高校は、流れを渡さない。
五番・谷本智由。
右打席。
田中三郎が投じたのは、外角低めのスライダー。
谷本は逆らわず、軽く流した。
打球はライト前へ――ヒット。
続く六番・宮本草太郎。
左打席に入る。
初球。
外角低めのカーブ。
見逃し――ストライク。
二球目。
内角へ投じたストレート。
その瞬間だった。
宮本の体が、迷いなく反応する。
(来た)
振り抜いた打球は――
高く、鋭く、ライト方向へ。
誰もが見上げる。
そして――
スタンドへ。
ホームラン。
一気に二点。
スコアは、4対3。
わずか、一点差。
グラウンドの空気が、一変する。
「くっ……!」
東鶴間ベンチに、緊張が走る。
中山太郎が、すぐにタイムをかけた。
マウンドへ向かう。
「すまん、田中……俺の配球がまずかった……」
だが、田中は首を振った。
「いや……あいつらがすごいだけだ。気にするな」
その一言で、中山の表情が少しだけ和らぐ。
再開。
七番・上田荘二郎。
アウト。
八番・安藤涼一郎。
アウト。
九番・後藤大和。
アウト。
三者連続で打ち取り――
なんとか、この回を終わらせた。
だが。
完全に流れは、変わりかけていた。
ベンチでは、九条咲が静かに動いていた。
「……海、肩を作っておいてくれ」
夏目海が小さく頷く。
一方――
桜桜花ベンチ。
空気は、明らかに変わっていた。
「兄さん……ここからが本番だよ」
金村好郎が言う。
歳郎は、ゆっくりと頷いた。
「ああ……ここから全力で行くよ」
追い上げた者と、追い詰められた者。
その差は、紙一重。
そして――
三回表。
試合は、新たな局面へと入ろうとしていた。




