第122話 桜桜花の金村歳郎
一方その頃――
東鶴間高校との練習試合を控えた桜桜花高校野球部も、練習に励んでいた。
部室に、全員が集められる。
監督・九条神楽が口を開いた。
「みんな、東鶴間との練習試合にそなえて、練習頑張っているわね」
キャプテンの立塚尚文が答える。
「そりゃあ、そうですよ監督。東鶴間には負けるわけにはいきませんから」
市原圭一が言った。
「東鶴間って、去年の四回戦でうちと当たった……監督の妹さんが野球部の監督をしているところですよね」
神楽は微笑んだ。
「そうよ。今年はいい子が入ったから、お互いの戦力がどれぐらいか……確認出来るでしょう」
立塚は少し驚いた。
「東鶴間って、そんなにいい選手が入ったんですか。うちもウカウカしてられないですね」
神楽は肩をすくめた。
「そうねぇ……うちも、秀一君たちが抜けたから、どうなるか分からないわぁ」
斉藤秀一――
桜桜花高校野球部の創設者。
三年目で全国大会優勝。
決勝で完全試合を達成した男。
今はプロ野球選手となった、その名前に、立塚尚文、神谷光彦、宮本草太郎、市原圭一たち元優勝メンバーは、懐かしそうな表情を浮かべた。
その時だった。
「大丈夫ですよ、監督……僕が投げるのですから」
金村歳郎だった。
神楽は目を細める。
「あらあら、歳郎君……すごい自信ねぇ……」
「自信はありますよ。僕が負けるわけがないんですから」
神楽は意味深に言った。
「そこまで言うなら、あの約束は果たせそうねぇ」
歳郎は笑った。
「僕が東鶴間との練習試合で、完封したら……エースナンバーをくれるって話……忘れてなかったんですね」
「それはそうでしょう。あれだけ大見得を切ったんですもの……憶えているわよぉ」
立塚が口を挟む。
「監督。俺は中継ぎ待機でいいんすよね」
「ええ……あなたは中継ぎで、歳郎君がもたなかった時にそなえてちょうだいねぇ」
立塚は歳郎に向かって言った。
「歳郎、俺に出番をまわすなよ」
歳郎は自信満々に答えた。
「大丈夫ですよ。東鶴間なんて、弱小ですから」
その時――
双子の弟、金村好郎が静かに言った。
「兄さん。油断は禁物だよ」
歳郎は笑った。
「大丈夫だって……僕は、県内ナンバーワン投手なんだからさ」
神楽は内心で思った。
(……この油断……打たれるわね……)
いくら県内ナンバーワン投手とはいえ、まだ一年生。
そして歳郎は知らなかった。
東鶴間には――
高柳龍二郎がいることを。
斉藤秀一からホームランを打った、唯一の選手。
その存在を――
東鶴間高校対桜桜花高校。
運命の練習試合が、近づいていた。




