第120話 雪夜の本心
最後まで残っていた進藤竜也、六条遊人、高橋雪夜、夏目真衣の四人は、監督・九条咲の車でそれぞれの家まで送られることになった。
夜の車内は、静かだった。
その沈黙を破ったのは、雪夜だった。
「監督……僕を外すのはどうでしょうか」
その言葉に、車内の空気が変わった。
進藤も六条も真衣も、驚いた顔をしている。
九条がハンドルを握ったまま言った。
「雪夜……理由はなんだい?」
雪夜は少し間を置いて答えた。
「理由は……今のチームが試合をしたらどうなるのか、作戦参謀として見たくなったのと……」
小さく笑う。
「みんなが試合に出たいと言ってくれて、正直嬉しかったことです」
九条は静かに言った。
「そうか……分かった、考えておこう」
車は順に止まり、
夏目真衣、六条遊人、進藤竜也が降りていった。
最後に残ったのは、雪夜だった。
雪夜の家まで送る途中……
九条は静かに言った。
「雪夜……本当にいいのか?」
雪夜は迷わず答えた。
「はい。今のチームの実力を知るために、作戦参謀として見なければいけないと思ったんです」
九条は少しだけ声を落とした。
「雪夜……すまんな、お前に負担をかけてしまって……」
雪夜は首を横に振った。
「いいんですよ……僕は、監督がやる気になってくれただけで、嬉しかったんです」
その言葉に、九条は何も言えなかった。
一年前――
県大会一回戦。
「負けたら一生指図しない」
「勝ったら、練習を見る」
あの約束。
そして勝利。
あの日から、すべてが動き始めた。
二人は、同じ記憶を思い出していた。
雪夜を送り届けた九条は、車を走らせた。
夜道を進みながら自宅に向かう途中で、姉・九条神楽の言葉を思い出す。
――もしかして、雪夜君のこと、気になるんじゃない?
九条は小さく呟いた。
「そんなわけ、ないじゃない……雪夜は、私の可愛い教え子なのに……」
夜の道路に、エンジン音だけが響いていた。
こうして――
東鶴間高校野球部の、長い一日が終わろうとしていた。




