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第116話 桜桜花、再び

 桜桜花高校から練習試合を申し込まれた――

 その事実を聞いた東鶴間高校野球部の面々は、戸惑っていた。


(なんで……うちのような弱小野球部に……)


 そんな空気が部室に漂っていた。


 九条咲は続けた。


「実はな……試合をするかどうか、まだ返答はしていないんだ」


 進藤竜也がすぐに口を開いた。


「監督、いい機会じゃないですか。なにを悩んでいるんですか」


 九条は少し間を置いた。


「それがな……今年の桜桜花の一年生に、すごいのが入ったそうだぞ」


 進藤は眉をひそめた。


「すごいのが……ですか」


「ああ……県内ナンバーワン投手の、金村歳郎が入部したそうだ」


 部室がざわついた。


 白石広志が思わず言った。


「金村歳郎が……桜桜花に……ですか」


 九条が驚く。


「知っているのか、白石」


「ええ……中学三年の時に、140キロを投げたそうです……しかも、左投げです」


 その言葉に、部員たちは衝撃を受けた。


 中学三年生で――

 左投げで140キロ。


 ほとんど聞いたことがない存在だった。


 九条は続ける。


「うちに練習試合を申し込んできた理由が、その金村の実戦テストらしいんだ」


 部員たちの中に、別の疑問が浮かぶ。


 進藤が聞いた。


「そんなにすごい選手なら、他の強豪校からスカウトとかあったんじゃないですか」


 九条は首をかしげた。


「理由は分からんが……今年の桜桜花の一年生は、金村以外もかなりいいのが入ったらしいぞ」


 斉藤秀一たちが引退した後も、桜桜花高校は弱体化していない。


 それどころか――

 さらに強くなっているかもしれなかった。


 九条は部員たちを見渡した。


「さて……ここからが本題だが」


 少し声を落とす。


「率直に聞くが……お前たち、この試合……どうする」


 進藤は迷いなく答えた。


「受けましょうよ、監督。せっかく相手から試合を申し込んできたのですから」


 九条は静かに言った。


「忘れたのか……うちは去年、桜桜花と戦った時……どうなったのかを……」


 二年生と三年生は思い出した。


 県大会四回戦。


 5対17。


 五回コールド負け。


 あの悔しさを――


 九条は続けた。


「とは言ったものの、試合をしたい者もいるだろう……」


「そこで、わが野球部恒例の多数決で決めようと思う」


 部室に投票箱が置かれた。


 部員たちは、一人ずつ票を入れていく。


 迷いながら入れる者。

 すぐに入れる者。

 目を閉じてから入れる者。


 果たして――


 結果はどうなるのか。


 誰にも分からなかった。

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