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第107話 過去の話のその後

 翌日。


 雪が溶けて、なんとか外で練習が出来るようになった。


 東鶴間高校野球部は、いつも通り練習を行っていた。


空気はまだ冷たい。


 だが、どこか春の気配も混じり始めていた。


 その中で――


 高橋雪夜の動きは、明らかに軽かった。


 キャッチャーとしての動きも、声も、判断も。


 迷いが消えていた。


 ボールを受ける音が、はっきりと響く。


「ナイスボール!」


 その声も、昨日までより力があった。


 そこへ、高柳龍二郎が近づいてきた。


「雪夜、調子はどうだ」


 雪夜は振り向き、笑った。


「うん、調子はいいよ、龍二郎」


 その表情は、すっきりしていた。


 龍二郎は少しだけ頷いた。


「それと……昨日は悪かったな」


 雪夜は首を傾げる。


「何がだい」


「うちの両親に、根掘り葉掘り聞かれて……」


 雪夜は、思わず笑った。


「そんなことないよ」


 少し懐かしそうに言う。


「むしろ、楽しかったよ」


 龍二郎は、安心したように息を吐いた。


「そうか……それならいいんだ」


 雪夜は、少し空を見上げた。


「それに……」


 小さく言う。


「いつまでも過去を引きずるのは、なんだかね……」


 龍二郎も頷いた。


「それもそうだな」


 その時だった。


「なになに、何の話?」


 元気な声が割り込んできた。


 新井元気だった。


 龍二郎は、すぐに答えた。


「なに、雪夜は中学時代、大変だったんだなって話をしていただけだ」


 元気は大きく頷いた。


「ああ、確かに雪夜は大変だったよなぁ」


 懐かしそうに笑う。


「佐藤と鈴木と一ノ瀬の球受けてたからね」


「あの三人は天才だったもんなぁ」


 龍二郎は、それ以上何も言わなかった。


 小山唯の話には、触れなかった。


 雪夜は、その様子を見ていた。


 龍二郎が話をそらしてくれたことに、気づいていた。


 そして――


 内心、嬉しかった。


 グラウンドには、ボールの音が響く。


 冬の空気は、まだ残っている。


 だが、確実に。


 季節は、動いていた。


 こうして――


 冬の時間は過ぎていき、


 春の季節が、近づいていた。


 ふと、雪夜は思い返していた。


 元気の一言で、中学時代の仲間たちを、思い出した。


 鈴木草助と、一ノ瀬京次郎は、元気にしているのかどうか……


 中学卒業後、それぞれ別の進路を選んだ。


 鈴木草助とはよく、喧嘩をしていた。


 一ノ瀬京次郎とは、仲が良かった。


 そして、佐藤秋一郎と鈴木草助と一ノ瀬京次郎の三人で……


 天才投手たち。


 そう呼ばれていた、あの頃のことを、雪夜は思い出していた。


 自分が届かなかった、天才たちの領域。


 雪夜には、あの三人が眩しく感じていた。


 投手としての天才たち、そして捕手として肩が弱い自分、その差はうまることはないと……

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