第105話 雪夜の恋
雪夜の言葉が、部屋の中に静かに落ちた。
小山唯。
その名前を聞いた瞬間、龍二郎も冬美も、何も言えなかった。
高橋雪夜は、少しだけ視線を落としたまま続けた。
「……ショックだったよ」
小さく、笑う。
「唯の好きな人が、僕と同じ幼馴染の元気だって知って」
龍二郎は短く答えた。
「それは……そうだろうな」
雪夜は、ゆっくりと息を吐いた。
「その後のことは……あまり覚えてないんだ」
窓の外を見た。
雪はまだ降っている。
「でも……僕は、唯に本当のことが言えなかった」
少し間を置く。
「唯のことが……好きだって……言えなかった」
龍二郎は静かに言った。
「……まあ、言いづらいだろうな」
雪夜は首を横に振った。
「僕は……元気が唯のことを好きだって、知ってたんだ」
「だから……二人は両想いだって……分かってしまった」
部屋の空気が、さらに静かになる。
龍二郎が聞いた。
「……それで、どうなったんだ」
雪夜は、少しだけ目を閉じた。
「……クリスマスイブの日だった」
声が、少しだけ震える。
「元気が唯に告白して……」
小さく息を吐く。
「二人は、結ばれた」
龍二郎は、しばらく黙っていたが、やがて言った。
「……雪夜は、告白しなかったのか」
雪夜は、静かに首を振った。
「……出来なかった」
「告白したら……困らせることになるから」
そして、小さく言った。
「唯の悲しい顔は……見たくなかったんだ」
龍二郎は、ゆっくり頷いた。
「そうか……恋愛より、幼馴染の絆を取ったんだな」
その時だった。
「……」
冬美が、涙を流していた。
龍二郎が呆れたように言う。
「なんでお前が泣いてるんだ」
冬美は目元を拭いながら言った。
「だって……」
「唯さんは元気さんが好きなんですよね」
「雪夜さんが告白しなかったのは……優しさなんだと思うよ」
龍二郎は腕を組んだ。
「俺には幼馴染がいないから、よく分からん」
その言葉に、雪夜は小さく笑った。
「そんなんじゃないんだ」
静かに言う。
「ただ……唯に振られるのが……怖かったんだ」
その一言で、空気が変わった。
優しさだけではない。
弱さも、そこにあった。
龍二郎も冬美も、何も言えなかった。
しばらくして、雪夜が言った。
「ごめん」
少しだけ、晴れた顔だった。
「でも……誰かに話すって、気持ちが晴れるね」
龍二郎は短く答えた。
「そうか……それならいい」
冬美も頷く。
「私も……雪夜さんの気持ちが晴れたなら、それでいいと思います」
雪夜は、二人を見た。
「……二人とも、ありがとう」
雪は、静かに降り続いていた。
こうして――
雪夜の昔の話は、終わりを告げた。




