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第104話 雪夜の中学時代

 部屋の中は、静かだった。


 湯のみから立ち上る湯気だけが、わずかに揺れている。


 外では、雪が降り続いていた。


 高橋雪夜は、ゆっくりと語り続ける。


「それから……中学に入って」


 少しだけ、懐かしそうに目を細めた。


「その子は、遊撃手として頑張っていたんだ」


 龍二郎は黙って聞いている。


「最初はさ……“女の子が野球部にいるなんて”って言う人もいたよ」


 苦笑する。


「でも、実力で黙らせたんだ」


 その言葉には、誇りがあった。


「僕も……その子と野球をしていたかったから」


 少しだけ、視線を落とす。


「結果的に、良かったけどね」


 龍二郎は、小さく息を吐いた。


「……まあ、そんな偏見を持つ奴もいるか」


 雪夜は、ゆっくり頷く。


「いろいろあったよ」


 少しだけ、楽しそうに笑った。


「佐藤秋一郎にはライバル視されたり」


「天才投手たちがいたり」


「なんやかんやで……」


 そして、静かに言った。


「楽しかった」


 その一言は、確かな実感だった。


 龍二郎は、短く返す。


「そうか……」


 雪夜は、再び視線を窓の外へ向けた。


 雪は、まだ降っている。


「そんな日々が過ぎていって……」


 少しだけ、声が低くなる。


「二年の冬」


「ちょうど……今日みたいに、雪が降っていた日だった」


 冬美も、言葉を挟まずに聞いている。


「その日……その子と、二人で帰ることになったんだ」


 記憶をなぞるように、ゆっくりと。


「僕が部室で、いろいろ考えていた時……」


「その子が、待っていてくれて」


 小さく、息を吐く。


「だから、二人で帰ったんだ」


 しばらくの沈黙。


 そして――


「その帰り道で」


 言葉が、少しだけ重くなる。


「その子から……好きな人がいるって話になったんだ」


 龍二郎が、わずかに目を動かす。


「……そうか」


「相手から、その話になったのか……」


 雪夜は、頷いた。


「うん……」


 一瞬、言葉を詰まらせる。


 だが、逃げなかった。


「その子が好きな相手が……」


 静かに、口にする。


「僕と同じ幼馴染の……新井元気だったんだ」


 部屋の空気が、少しだけ変わった。


 龍二郎の視線が、雪夜に向く。


「……まさか……」


 その先を、確かめるように。


 雪夜は、ゆっくりと答えた。


「うん」


 そして、はっきりと言う。


「その子は……僕と元気の幼馴染の……小山唯なんだ」


 その名前が、静かに響いた。


 雪の音だけが、続いている。


 誰も、すぐには言葉を発さなかった。


 雪夜の過去は――


 終わりへと、近づいていた。

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