21.月王国の崩壊
月へ戻った王女ネーナと王子キサラギは王テドーロスと神殿の神官から厳しい叱責を受けた。
「お前達は何をしているのだ?狂ったのか?」
兄弟からも非難を浴びた。
月の神の逆鱗に触れた王女ネーナは、王籍から抜けるよう王命が下った。
愚妹を止められなかったキサラギ王子も当面謹慎処分となった。
「なんですって?!どうして私が······!」
「本来ならば処刑するところである。命まで取られなかったのはせめてもの慈悲と思え」
王女ネーナは護衛も世話人も無し、愛玩用アンドロイドも取り上げられ、王宮から追放された。
哀れに思った心優しき民達は、ネーナを特別待遇でもてなした。密かに王妃から手配された侍女までも付けられた。
王家から追放された者とは到底思えぬほど傍若無人に振る舞う反省なき元王女ネーナに、月の神は激怒した。
『愚姫一人諌められぬ愚か者達め。オットメーを崇め奉れとは言わぬ。だが、かの者を尊重すらせず、時の巻き戻しを無かったことにし栄耀栄華を極めようなどと、決して許せぬ』
月の神は月の時を巻き戻した後に、地球とは違い忘却という措置を取らなかったのは、王家や民の出方を見るためだった。
疫病で絶えた者らの甦りはどうなって行くのか、どう立ち回るかを試していたのだ。
王家も神殿もオットメーの存在を無き者にした。その上、地球に転生した乙女に禁じた接触をしたばかりか、拉致までしようとするなど、許しがたい。
月の神は何か相応の罰が無いか思案した。
『ふむ、これは滅するしかなかろう』
神殿の巫女は月の神の怒気に震え上がった。
『有り余る時を無為にするそなたらには、千年もの長い寿命は必要なかろう。短い寿命でも知恵を絞り出して懸命に生きる地球を見習うがよい』
神官らの必死の懇願には、臍を曲げた月の神は応じなかった。
この時より月の王家及び民は千年の時を生きる寿命は奪われ、地球人並みの短命となった。
巫女が受けた神託を伝える間も無く、月の神は疫病が蔓延した頃に、再び月の時を戻した。
『許せ、オットメー。そなたの犠牲を無にして済まぬな。そなたが妾の写身となるのはもう少し先に延ばすとしよう。今は人としての幸福をゆっくり味わって欲しい』
月の神は小夜子に対しても月の王の子ができぬように細工した。
月の窮地を救う筈の王の血に連なる子供は誕生しなくなったが、オットメーの加工した疫病避けの免疫力を高める薬草は残した。
それでも無策な月の王家と神殿は滅びた。
新たな王に選ばれたのは、疫病に有効な薬草を見つけ生き延びた民だった。
月は半数以上の民を失い、短命種となって懸命に生きることを余儀なくされた。
長いスパンの妊娠も是正され必死に繁殖するしかなくなっていった。
アデュ·キーⅢは応戦中に機能停止を起こして、その後の彼の行方はもう誰も知る者はいなかった。
***
月の神によって時を戻されて疫病が蔓延することを回避した地球も、再び時を戻されることになった。
二度も時が戻ったことは、地球にも多大なる影響を及ぼした。
月の神は地球へは再び忘却という措置を施していたが、時が戻ったというよりも世界線が変わったのではないかという者達が現れて、混乱と論争を生むようになった。
地球が再び時が戻されたことを、乙女にすらも知らされることはなかった。
その日、地球はほぼ全員が軽い眩暈を経験した後、それぞれの時を戻したのだった。




