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夢見る星で待っていて  作者:
第2章
19/22

19.再会

礼拝堂へ向かう途中、シスターに出くわした。アルバニア出身の日本語が堪能なまだ若い人だ。


「どうしましたか?下校の時間ですよ」

「忘れ物を取りに来ました」

「明日ではだめなのですか?」


シスターは探るような視線を向けてきた。


「······はい、大切なものなので」

「そう、では気をつけて帰るのですよ」

「はい」


シスター·テレサは静かに微笑むと去って行った。


「はあ······、ドキドキする」


シスターに嘘もついてしまったし、本当に小夜子が待っているのだろうかと緊張してきた。


ドアの前で一旦呼吸を整えると、慎重に扉を開けた。


祭壇近くの席に黒髪の女性が座っていた。


入る前に辺りを見回し、他に誰かが潜んでいないか確認した。その女性以外は見当たらなかった。


「······小夜子さんですか?」


私は一歩だけ前に進んだ。本当に小夜子なのかを確認できるまでは距離を詰めないでいようと身構えた。


黒髪の女性は立ち上がると、こちらに向かって歩きながらウイッグを外した。

礼拝用の椅子が途切れるところで、金髪に紫眼の彼は止まった。


「······アデュ、いえ、ファラーさん」


なぜ彼がここに?


私は再会した喜びよりも、絶望的な気持ちに支配された。

彼は王族に仕えているのだから、キサラギ殿下の部下のようなものなのだ。ファラー自身が自分の意志でここへ来たわけではないのだろう。


「朏乙女さんですね?どうしてあなたは私をアデュと呼ぶのですか?」

「······申し訳ありません、以後気をつけます」

「あなたはまだお小さいのに、大人のような口ぶりなのですね」


ファラーになってもアデュの声帯のままなのか、穏やかな懐かしい声だった。


「ご用は何でしょうか」

「月へ一緒にお越し願いませんか?」


端正な顔立ちの愛想笑いが寒々しい。


「理由は何ですか?」

「キサラギ殿下があなたをご所望なのです」

「お断りする自由は私にはないのですか?私はオットメーだった過去はありますが、名前が同じだとしても今は全く違います。私はただの地球人です。どうかそっとしておいていただきたいのです」


ファラーの美しい眉根にほんの少しばかり皺が寄せられた。


王子殿下は八歳の子供に何の用なのか。前世はストーカーで、今世はまさかのロリコン?!

ご所望なんて気持ち悪い。それに用があるなら自分で来なさいよ!

先触れすら出さずに直接連れ出しに来るなんてどうかしているわ。

それに私はまだ保護者が必要な年齢なのよ。会いたいなら保護者に話を通すのが筋でしょ。


「登下校中に拉致しようとしたり、偽名を使って子供を呼び出すのが王家のやり方なのですか?それで王族として恥ずかしくはないんですか?」


八歳児の私も怒りの沸点は低そうだ。


「致し方ありませんので」


素っ気ないアデュの表情とは比べ物にならないくらいファラーは冷淡だった。

これは本当に似て非なる別人だ。


「地球人を連れ去ったら、月と戦争になるわ。そんなこともあの王子殿下はわからないの?」

「バレなければ問題はありません」

「子供一人ぐらいどうとでもなると?」

「察しが良い子は好きですよ」


いくら王族に仕えるアンドロイドだからといって、アデュの顔と声でこんなことを聞かされるのは嫌だ。


「あなたはもう黙って!話にならないわ」


私は悔し涙が込み上げた。月の王族はあまりにも勝手だ。


「どうして月の王族はそんなにいつも勝手なの?地球人を何だと思ってるのよ!巻き戻る前から何も変わっていないじゃない!······こんなことなら、月なんか助けなければ良かった······!」


怒りながら嗚咽を漏らす自分の声が、幼い子供のものでしかなく、頼りなげ過ぎて私を萎えさせた。


この声でいくら怒っても伝わらないのでは?


「······巻き戻ったとは?」

「月は疫病で滅亡寸前だったの。それをオットメーが月の神に頼んで時を巻き戻したのよ。月の王族はそれさえももう忘れたの?」

「存じ上げません」


ファラーは神妙そうな顔をしたが、それは振りでしかないのだろう。

リニューアルして、より細やかで美しい表情を作れるようになったようだけれど、それがかえって白々しく感じてしまう。


今はもう嫌悪感しかない。

ファラーはアデュじゃない。私の知るアデュはもうどこにもいないのだ。


「ねえ、あなたは自分がかつてアデュ·キーⅢだったことを、本当に知らされていないの?」

「全く、知りませんでした」


ファラーは驚きもしないでいる。彼にとってそんなことはどうでもいいのだろう。


やはり過去の記憶は引き継いではいないのね。


「そんな王家に忠誠を誓えるものなの?」

「私は王家に仕えているのではなく、ネーナ王女の下僕です。あなたに接触できないキサラギ殿下の代わりに、ネーナ様があなたをお連れするように命じたのです」


ファラーはきっぱりと答えた。


「王女殿下が!?」

「はい、良い余興になるからと申しております」


王女殿下は地球人を暇潰しの道具くらいにしか思っていないのね。

そうだとしても、地球人の子供を無理矢理連れて来させようとするなんて、あまりにも浅慮過ぎでは?


こんな王族達が千年も生きるなんて、他の星からしたら災厄でしかないわ。



初等部の下校時刻を告げるベルが鳴った。



「そういうことですので、ご同行下さいますように」


ファラーは私の腕を掴もうとして、式神さんに瞬時に撃退された。

彼はほんの少し怯んだようだ。


「私、月には二度と行きません。月なんて大嫌い!」


私は式神さんと瞬間移動でその場を去った。 けれど、ファラーも瞬間移動でどこまでも追って来た。


私は自分にチートがないことを悔いた。今撃退できる力があったら、かつてアデュだったアンドロイドを完膚なきまでに打ちのめしていただろう。

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