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夢見る星で待っていて  作者:
第2章
17/22

17.寂しい月

「乙女ちゃん、大丈夫?」

「······はい」


しばらく惚けていた私を須磨子さんが心配してくれたようだ。


「なんだ、あのイケメンのアンドロイドは?あれは反則だろ」


伊織さんがムッとしながらもおどけている。


地球でもヒト型アンドロイドは増えて来たけれど、一目で人とアンドロイドの区別がつく。マネキンのような美形アンドロイドはまだ少ない。

違和感が少なく馴染みやすいという理由で、特に日本では標準的な見た目のボディが好まれている。


月のヒト型アンドロイドは一見では人とアンドロイドの区別がつかないものが多い。

以前のアデュもそうだったけれど、リニューアルしたアデュは更に見分けがつかなそうだ。


愛玩用アンドロイドは地球でも製造されているけど、動物型が主流だ。倫理的な問題がクリアできていないから、ヒト型の愛玩用はまだ流通していない。


「あのクオリティだと、地球でも売れそうだな」

「そうですね······」


アデュが愛玩用アンドロイドだと聞いて驚いたけれど、それがアデュの望んだことなら仕方ない。

兵士はもう嫌になったのかもしれないのだから。


私が記憶しているアデュは、きっともうどこにもいないのだ。



帰りの車内でも、王女殿下達の来訪が報じられていた。インタビューに受け答えをするネーナ王女達の姿がモニターに映し出されていた。


王女殿下は、十五歳にはとても思えない妖艶さがあった。その背後に立っているのはアデュだ。


「王女殿下は婚約はまだされないのですか?」

「ええ。アンドロイドとの結婚が可能になったら考えようと思います」


月では現在その法案の可決が待たれているのだということをインタヴュアーが説明した。


「お相手はどなたでしょうか?」


ネーナ王女はチラリと背後に目をやって意味深長に微笑んだ。

アデュは平然として表情を全く変えなかった。


その姿に以前のアデュが重なって、思わず笑いが込み上げた。


「ふふふっ······」

「どうしたの?」


隣に座っていた須磨子さんがハンカチを私の頬にそっとあてがった。どうやら私は知らないうちに涙を溢していたようだ。


「アデュに対しては、恋とかではないの······、でもなんだか、寂しいなあって···」


須磨子さんは何も言わずに頷いている。


そう、これは恋心とかではない。アデュが誰を好きになっても構わない。


だけど、大事な仲間を失ったような切なさで一杯になった。


以前のような関係には二度と戻れないのだ。 あの頃のアデュはいないと、わかってはいても、もう少しだけ彼と関わっていたかった。


こうなるようにしたのは私自身。月の時間を戻すことにしたのは私なのだから。


その事への後悔はない。巻き戻さない選択肢なんて、私の中にはなかった。


私は後部座席で鼻をすすった。


「八歳の女の子から恋なんて言葉が出るのは、流石におじさんは狼狽えるよ」


車を運転しながら、伊織さんが安定のおどけを繰り出す。


「あはは······」


アデュだけじゃない。

私は美月達と同じ時間を歩めない。伊織さんや豪さんとも歳がずっと離れてしまった。一緒にいると親子みたいなんだもの。


私だけが取り残されてしまったみたいで、 そのことが堪らなく寂しい。

熊討伐隊に参加した頃が懐かしい。その頃に戻れたなら······。


時の巻き戻しをせずに解決できたら良かったのに。


私は自分がそう思わないように、そう感じないようにずっと我慢して避けてきた。


──寂しいな。


どうにもできないから、余計に寂しい。



「伊織さん、私ね、毛深い人じゃなくてもいいの。訂正するの忘れてた」

「ええ!?どういう心境の変化?」

「だから、ツルツルでもOKだよ」

「ツ·····、それはおじさん達に微妙に刺さるから止めて欲しいな」

「あはははっ」


これから過去のことは意識して忘れて行くことにしよう。

もう、覚えている必要は無いから。


早く忘れよう。


忘れたら少しは楽になれる筈だ。


今の私は以前の朏乙女じゃなくて、新しい朏乙女なのだから。



画面にはインタビューを受けるキサラギ王子が映っていた。


「乙女ちゃん、キサラギ殿下と知り合いなの?」


須磨子さんが解せない素振りで聞いてきた。


「えっ?そんなわけありませんよ」

「うーん、それがねえ、この人、あなたに接触してきそうなのよね」

「どうして!?」


式神さんが『彼はおそらく、いつぞやのストーカーですよ』と答えた。


げっ······、まさか、あの如月君?


どおりでいないと思ったら、月に転生していたの?しかも今度は月の王族!?

王子殿下なんかだと断れないし、逃げられないのでは······、これって最悪じゃないの?


『私がお守り致しますので、問題ありません』


のっぺらぼうの式神さんは、いつになくドヤり顔だった。

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