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夢見る星で待っていて  作者:
第2章
16/22

16.月からの訪問者

月の巻き戻りに影響された地球でも一時的に混乱は起きた。でも、すぐにそのことをみんな忘れ去った。

月の神様が忘却という措置を取ったから、地球では時の巻き戻しはなかったことになっている。

月では忘却という措置を取らなかったようで、なぜかわからないけれど、きっとそれは月の神様の思惑があるのかもしれない。



私は八歳になった。前世の記憶があるというのは、実年齢よりも老けているような気がする。


二十歳まで生きた記憶があると、子どもであっても子どもではないような、まわりの大人達に冷めた反応をしてしまって、なんだか申し訳なくなる。

かといって、わざとらしく可愛い振りをするのも不自然だから、それもできずにいる。


「乙女ちゃんはレディなのよね」


須磨子さんは私を大人のように扱ってくれる。腰まで届くしなやかなワンレングスの黒髪と黒目がちな瞳を持つ彼女は古のお姫様みたいだ。

二児の父になった伊織さんは、すっかり私の保護者みたいになっている。


「明日、行ってみるかい?」


月と正式に星交を結んだ地球は、数年前から月の地球への訪問が行われるようになった。

ポータルからではなく、公式のルートで星間船でやって来る。

日本は星交が結ばれる際に、月から指名を受けた国でもあり、以来訪問の窓口となった。今年の二年ぶりの訪問も歓迎ムードに満ち溢れていた。


明日来訪するのは月の王族であるネーナ王女とその兄のキサラギ第二王子だ。

キサラギという名に日本的な響きを感じる。


ネーナ王女のアンドロイドの従者が随行して来るという。名前は違っているみたいだけれど、そのアンドロイドがあのアデュだと須磨子さんは言った。


本当にこんなに早くアデュに、しかも地球で会えるの?

私は来訪のニュースを知ってから感激で夜も眠れなくなってしまった。


アデュは私がわかるかな?私のことを覚えていてくれるだろうか······。


──もし覚えていなかったらどうしよう。


私はまだ子供の姿で、前は金髪だったし······、これじゃあ気がついてもらえないのでは。


それでも、アデュを近くで見ることができるかもしれないこんなチャンスは逃したくない。


「はい、行きたいです!どうか連れて行って下さい」


私は逸る思いで明日を待った。



***



タラップを降りてきた王子と王女に歓声が上がった。

空港内の大画面モニターに実況放送が映し出されている。

画面と窓の外の様子を交合に見た。

美男美女の兄妹の姿にどよめいた。

後方から連なって降りてくる見覚えのある青年が目に入った。


アデュ······?


長い金髪のその青年は、オッドアイではなく紫色の瞳をしていた。自分が覚えているアデュの雰囲気とは違っているようだ。


メンテナンスを受けて姿も少し変わったのだろうか。


元兵士だとはとても見えない。元々美麗な佇まいではあったけれど、より中性的に、まるで貴公子、貴族のような佇まいになっていた。


「きゃーっ、あの人も素敵!王子様みたいよね」

「ほんと、なんて名前なのかしら」


アデュを指差して女性達が黄色い悲鳴をあげている。まるでアイドルやスターへの反応だ。



「乙女ちゃん、あの人がそうなの?」

「う、うん、でもなんだか感じが違うみたい」

「そうかぁ、······彼も生まれ変わったのかもね」


私はなんてうっかりしていたのだろう。

アンドロイドだってリニューアル、改造されることもあるのに。

だからアデュはもう昔のアデュではなくても不思議ではない。


仮に会えたとしても、過去を覚えてはいない方が当たり前なのかも。


それに、以前は私が月の王の娘だったから世話人としてアデュと関われたけれど、今はただの地球の一般人なのだから、おいそれと会える相手ではないのだ。


アデュが生きていてくれた。それがわかっただけで、もう充分だ。



「きゃー!!」


また女性達の黄色い悲鳴が響いた。アデュが王女に手を差し伸べて送迎車へエスコートしている。

乗り込んだ王女はアデュの首に手を回し頬にキスをした。二人の絵になる睦まじい姿に女性達の溜め息が漏れた。


「王女殿下の愛玩用アンドロイドなんですって」

「恋人だと言われているみたいね」

「そうなのよ、悔しいけどお似合いよね」

「王女様は何人もの求婚者を袖にしたみたいよ」

「へーっ、でもなんだか、わざと見せつけるみたいで嫌な感じ。日本の皇族ならあんな真似はまずしないわよね」


王女殿下はまだ十五歳だ。今からこれでは先が大変そうだ。恋愛沙汰のゴシップの常連は大抵セレブではあるけれど、彼女もこれで仲間入りをするのだろうか。


なんせ、月の人達は千年越えて生きるのだから、どれだけネタにされることか。


千年生きるなんて、私には想像もつかない。



来訪で特別に設けられた防護ガラス越しに王女殿下とアデュが去って行くのを遠巻きに見送った。

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