15.月の王女
王女ネーナは月の時の戻しとオットメーなどには関心を全く持たなかった。
やり戻せて、みんな生きれているのに何の不足があるのか、滅亡を回避できたなら、もうそれでいいじゃないかと。
奇跡的なことだとしても、そんな神話のようなことはどうでもよく、それよりもアデュ·キーⅢの兵士とは思えない美しい見た目を一目で気に入った。
自分の従者にしたいと王女は王にねだり、アデュの過去の記憶を全て抹消させることを条件に承諾した。
アデュのボディは王女好みに改造された。
月では愛玩用の人型アンドロイドをペットや奴隷のように使役することが許されていたため、ネーナは自分を楽しませ喜ばせる愛玩用アンドロイドを欲した。
「アンドロイドは美しくなくちゃ嫌よ」
戦争や疫病の危険に晒されることが無くなった月では、余剰となった兵士型アンドロイドが一般用の使役アンドロイドに改造されることが増えていた。
王女すらアンドロイドを恋人のように連れまわしているのだからと、王女の真似をしたがる月の民のニーズに応えるように比較的安価な愛玩用アンドロイドが出回るようになって行った。
「姫様はアンドロイドの愛人に夢中だな」
「風呂に入れさせる世話とか、侍女のようなこともさせているようじゃないか」
「噂では閨の相手までさせているとか」
そんな噂など何のそのでいる王女に、王は眉をひそめた。
「あれは、早く嫁がせねば」
「まああなた、ネーナはまだ十五ですわ」
月人は長寿のため結婚はそれ程早く無い。王族も三十手前でようやく相手を決めるのが一般的で、男女ともに愛人を持つことも多い。
王にも王妃にもそれぞれ愛人がいる。嫡男を設けている場合、誰もそれを咎めることは無い。子ができぬように調整するので揉めることもほぼ無い。
「そのうちあの子も飽きますわよ。それまで見守りましょう」
「お兄様はまだ結婚なさらないの?」
ネーナは二十歳を過ぎたキサラギに恋人も婚約者もいないことを知っていた。
王位を継ぐ兄シラーには既に婚約者がおり、もう一人の兄フームスには複数の恋人達がいる。
三つ子でも三人三様なのだった。
「お前には関係は無いだろう」
憮然としたキサラギに、ネーナは囁いた。
「お兄様もアンドロイドを恋人にしたらいかが?愛しのオットメーに似た愛玩用アンドロイドでも作らせたら良いのではなくて」
ネーナは内心では愚かな兄だと侮蔑を向けていた。
「ば、馬鹿な!月の英雄を平然と瀆すお前と一緒にするなっ!」
「ふふ、英雄だから良いのですよ。英雄を自分の思い通りできるから楽しいのではないですか」
清楚な見た目とは裏腹な妹の醜悪さに、キサラギは反吐が出そうになった。
「アンドロイドは都合の良い奴隷では無い」
「アンドロイドに自我はありませんわ」
「お前はいずれファラーを捨てるだろう」
「当然ですわ。だって愛玩アンドロイドなんて使い捨てですもの」
ネーナは既に別のアンドロイドが欲しくなっていた。
それでもまだファラーは手元に置いておく。飽きてしまったとしても、雑用係りとしてまだ使える。
ファラーは有能な下僕だから。
美しいものは好き。それでもどんなに美しくても飽きてしまう日が来るものよ。
ファラーは私よりも美しい。そういう仕様にしたのは私自身だから。
だけどそれが時々むかつくこともある。そんな時は彼を傷つけてやりたくなるの。
アンドロイドのボディは頑丈だから、傷つくことは無いのよね。
この前、ファラーにもしも飽きたら、是非自分に譲って欲しいなんて言って来たのは宰相の娘だ。
「考えておくわ。でも期待はしないでね」
「もちろんでございます」
あの娘にはファラーは不釣り合いだ。
まだまだ楽しませてもらえるファラーは、誰にも渡さないわ。
手放す時は壊す。彼は私のために存在しているのだから。




