14.月の王子
第二章スタートです。週一更新予定です。
「キサラギ、何をしている?」
月の王テドーロスにはシラー、キサラギ、フームスの三人の王子がいる。
第二王子キサラギは幼少の頃より異様に地球に関心を示した。特に時を戻して月の危機を救ったという地球生まれのオットメーに対して並々ならぬ憧れ、崇拝に近い感情を抱いていた。
クリスタルに記録されていたオットメーの姿を、取り憑かれたかのように繰り返し再生しては閲覧しているのを父に咎められた。
「なぜそのようなものをしつこく見ておるのだ」
「オットメーは、僕らの異母姉妹だったのですよね?」
「そうだ。だが時を戻した時点で、そうでは無くなったのだ。私の子はお前達三王子と妹の王女のみだ」
王はオットメーの存在に対して、そして月が時を戻したという実感がまるでなく、半信半疑だった。
滅亡に瀕し、地球の女に子を生ませたという事実を受け入れることができなかった。
それは神託を降ろした神殿も同じだった。そのため王家と神殿だけの秘密となり、オットメーの存在と月が時を戻したことは月の民には知らせていなかった。
「キサラギ、この事はもう忘れるのだ。金輪際これは見てはならぬ」
「あっ······!」
王は息子の手からクリスタルを取り上げた。
「父上!」
存亡の危機になす術なく逝った情けない我が身、自分の恥を突きつけられるようで、王はオットメーの存在を消してしまいたかった。
(忌々しい。我が御代にこのような汚点があってなるものか)
「過去はどうあれ泰平の今、これは全て廃棄する」
王家と神殿のみが所持していたレコードキーパークリスタルを王命によって粉砕処分した。
オットメーの世話人だったアデュ·キーⅢのクリスタルも神殿が保管していたため、同じく粉砕された。
そして既にメンテナンスが完了していたアデュに対して更にリニューアルを施した。
王の娘ネーナに気に入られたアデュ·キーⅢは、王女専用のアンドロイドとして仕えることになった。
その際オッドアイは紫眼に、名前も刷新されファラーⅠと呼ばれるようになった。
「お前は、オットメーを覚えているのか?」
王子キサラギにそう問われると、ファラーは「存じ上げません」と答えた。
王女専用アンドロイドとして作り替えられたファラーⅠは、アデュ·キーⅢの時の記憶は全て抹消されてしまっていたからだ。
過去に兵士であったことすら記憶にはなく、朏乙女と朏小夜子の世話人だったこと、月が時を戻したことも全て消されていた。
彼は王女の愛玩用アンドロイドとしての記憶だけを注入されていたのだ。
オットメーの世話人として彼女を支え、月の防衛にも貢献した英雄と称えられても良い筈のアンドロイド。
──それなのに、王家のこの扱いは······。
キサラギにとって目の前のファラーⅠはただの脱け殻でしかなかった。
「そうか、覚えていないのか······」
かつての世話人ですらオットメーのことを忘れているとは。
忘れているというよりも、故意に記憶を抜き取られているのだから、オットメーの存在すらわからないということだ。
父上らも神殿もオットメーの存在を葬り去ろうとしている。
多くを混乱させた月の巻き戻りすらなかったことにしようとしているのだ。
なんと醜悪な。
だが、父上達がそうしたいならば、そうすればいい。
オットメーはこれで僕だけのものだ。
僕だけが忘れずに覚えていればいい。
金髪にオッドアイの娘。月の存亡の危機を回避するために時を戻して消えた娘······、名前の如く女神のような英断をしたにも関わらず、称えられもせずになきものにされた可哀想な義姉。
義姉上は僕のものだ。
オットメー、僕だけがずっと覚えていてあげるよ。
王子キサラギはオットメーの姿を瞼に焼き付けた。




