第82話 殺人カップルは秩序を失う
一言で表すなら、箍が外れたのであった。
自由とは恐ろしい概念である。
聞こえは良いので尚更に性質が悪い。
それを律することができなければ、無秩序へと変貌してしまう。
何にも縛られず、己の欲のままに生きるのは快感だ。
故にさらなる深みへとはまっていく。
抜け出すことはほとんど不可能だろう。
ましてや狂気に浸った殺人鬼など恰好の獲物である。
つまり私とジェシカは、過度の自由を楽しむあまり、どうしようもない無秩序に踏み込んでしまった。
帝国を滅亡させた我々は、いよいよ理性のブレーキが消滅した。
それから数日とかけずに王国領土の八割を焦土に変えた。
さらに我々は、英雄連合の本部に乗り込んだ。
刃物と銃火器だけで万単位の人間を虐殺した挙げ句、本部となっていた建物を消し炭にした。
これによって王国は崩壊し、実質的なリーダーであった先代国王の息子も死んだ。
英雄連合の瓦解は免れられないものとなったのである。
この間に魔王都市が聖国軍に攻撃された。
互いに大損害を受けて、せっかく発展しつつあった街が荒らされた。
ただ、当時の我々にとっては、もはやどうでもいいことだった。
事前の計画や努力も頭から抜け落ちていたのだ。
殺戮本能に呑まれてしまっていた。
損失分の兵士と物資と召喚して送っただけ温情があったと言えよう。
半ば孤立無援となった魔王都市は、我々が不在ながらも奮闘したそうだ。
どこかの英雄が放った大魔術の連打で滅びるまで、非戦闘員である市民までもが一丸となって生存を目指したという。
彼らが無惨な結果に終わったのは、間違いなく我々の責任放棄によるものだろう。
拠点を失った我々は、前進を選ぶのみとなった。
それを憂うことはない。
むしろ嬉々として死地に飛び込み、そして犠牲を増やしていった。
殺戮だけの毎日が積み重なってゆく。
無慈悲な暴力が様々な街を滅ぼし国を壊す。
進展するたびに記念として殺し、上手くいかなければ反省と練習を兼ねて殺し、眠気覚ましのために殺し、その日の安眠のために殺し、楽しくて殺し悲しくて殺し殺し殺し殺し殺し殺し尽くした。
気付けば大陸外の国々にまで手を出してしまい、それらも三日と経たずに滅亡した。
殺せば殺すほどペースは上がる。
我々はそれを止めようとしなかった。
そうして辿り着いた先にあったのは、滅び尽くした世界だ。
どこもかしこも滅亡しており、人類の生存余地がない。
ようやく冷静になった我々は、大いに焦った。
事の不味さをようやく知ったのである。
殺人鬼にとって、滅びた世界に存在価値はない。
獲物となる人間がいないのだから当然だ。
ここで発狂して死んでいれば、何とも平和的なバッドエンドだったろう。
しかし、追い詰められた我々がそこで打ったのは、最悪の一手だ。
滅亡した国々を召喚し、擬似的なやり直しを実現させてしまったのだった。