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5.この世界の仕組み

 考えることがたくさんあった。自分を呼んだ「光の女」や先導者アキート、そして超越者リーミア。理解できない点が多すぎる。

 晶人は眠りの中でも繰り返しそれらのことを考えていた。

「晶人、まだこんな所にいるの!」

 いつの間にか光が晶人の近くにある。まるで気づかなかった。

「やっと来たか。君には聞きたいことが山とある」

「助けて、晶人」

「話を聞けよ! 先ず一つ、君は誰だ。この世界の奴なのか? 教えてくれ!」

「この世界? 何の世界のこと? あたしのいる所は晶人のいる所からずっと遠い」

「・・君はこの世界の人間じゃないのか?」

「世界・・? どういう意味なの、全然わからないよ。とにかく、助けて!」

「ちょっと待て!」

 声は小さくなり、別の光が晶人の目の中に入り込んできた。


 次の朝、晶人はかなり早い時間に目を覚ましてしまった。

 しかし怪人達はすでに起きている。いったいいつ彼らは眠っているのだろうか。

 晶人は立ち上がって軽く体を動かした。もう腕はほぼ完治していた。後は皮膚ができ上がるだけである。

「出発しよう」

 晶人はいったん怪人達を見回し、すぐに合図を出した。

 買い物は昨日のうちに済ましていた。はじめの街で持ってきた食材は全て廃棄した。使い古しの衣類も捨てた。新たに手に入れた食材も隣町までの少量だ。荷物は軽くなりずいぶん楽になった。

 彼らはすぐに町外れまで来た。昨日はここで声を聞いたはずだ。

『・・!』

 何かが晶人の耳に聞こえてきた。しかし晶人は慌てない。

 晶人は振り返って皆に声をかける。

「今日は絶対に町を出よう!」

 エレサとフリーミーの顔にわずかながら動揺の色が浮かぶ。

〈大丈夫だ。確かに心は揺らぐが、皆残りたいというわけではない〉

 晶人はうなずいて先に進んだ。

 この程度の妨害で先に進めなくなるようではとうていリーミアの住む町には着けないだろう。

 怪人達は黙って晶人について歩いた。


 彼らは町を出、砂漠を進んだ。

 相変わらず怪人達は会話をしなかったが、以前よりは雰囲気がいいように思える。少なくとも晶人はそう感じていた。

 そしてやはり昼を過ぎた頃になると、晶人はまた小さな声を聞き、同時に皆の足は遅くなった。

「この辺りが町の境か?」

 皆の先を歩いていた晶人が振り返る。

「ああ。だがこれはひどいな。おそらく一昨日以上だぜ」

 グラッズはそうして足を止めた。

「だったら一度足を止めると歩けなくなるぞ。どうしてもひどいようなら手を引いてやるよ。そのかわり引きちぎるなよ。もう腕がなくなるのはごめんだ・・と」

 言った途端にエレサが晶人の腕にしがみついた。もう限界らしい。

 グラッズがそれを見て笑う。

「いや、まだ止めておこう。何しろサモールとメイグが平気で歩いている」

 確かにサモールは一歩一歩を踏みしめて歩いていた。メイグもよろよろと飛んでいる。

 だが二人とも決して平気そうではなかった。歩く速度は地を這っているほどに遅い。

 晶人はサモールとメイグに先を進ませ、その後ろを歩いた。

 ふと振り返ると、フリーミーがかなり遅れている。

 仕方がなく晶人はフリーミーの所まで戻ろうとした。しかしエレサが手を強く握って放してくれない。

「エレサ、ちょっと放してくれよ」

「あんなの放っておいてもいいじゃないか」

「そうもいかないだろ」

 晶人はエレサの手を無理に解いて走り出した。そしてフリーミーの手を引いて戻ってくる。エレサはその間ずっと立ち止まっていた。

「あ、あの、もっとゆっくり、お願いいたします。あまりにも抵抗が強く、走れません」

 晶人はエレサの前まで来るとエレサの腕もつかみ、二人を両手に歩き出した。

 晶人の後ろで言い争いが始まる。

「迷惑な奴」

「あ、あなただって、アキヒト様に手を引いていただいているではありませんか。獣人グラッズや魔人サモールのように、一人でお歩きなさい」

 更に少し進むと前の二人、サモールとメイグが立ち止まっていた。

「どうしたんだ?」

 晶人が後ろから声をかける。

〈これ以上進むことは難しい〉

 めずらしくメイグが泣き言を言った。

「しょうがないな。グラッズ、お前サモールにつかまれ。サモールはメイグを捕まえていてくれ。俺が後ろからサモールを押すよ」

 彼らは言われたように繋がった。晶人は肩でサモールを押し始める。もちろんエレサとフリーミーの手は引いたままである。

 そのままゆっくり進み、やっと皆は普通に歩き出した。

 太陽は真上をすぎている。予想以上に時間がかかってしまった。

「もう大丈夫だ」

 サモールはそう言ってメイグを放した。グラッズもサモールの肩を放す。しかしサモールの肩には、しっかりとグラッズの爪痕が残っていた。あれが晶人の肩ならちぎられていただろう。

 晶人もエレサとフリーミーを放した。

「アキヒト、大丈夫? 痛くなかった?」

「え?」

 晶人が不思議に思って手を見てみると、エレサを引いていた手はやけどをしているし、フリーミーを引いていた手は凍りかけている。

 しかし痛みは少なく、意識してやっと感じる程度である。

「抑えてはいたんだけど。でも、大丈夫なんだね」

「なるほど」

 サモールの血は思わぬ効果を出しているらしい。もはや晶人の両腕は人間の物というより、怪人の物と言えそうである。

 晶人が顔を上げるとグラッズが言った。

「これで越えなくてはならない境界は後一つになったな」

 今入ったこの町を越えれば、次はリーミアの城のあるリーミアの町である。

〈そうだ。リーミアの許まではもうすぐだ〉

「だが、奴の所に近づくたびに境界がきつくなるぜ。最後の境界を越えるのはかなり大変だろうな」

「それでも行くしかない」

 サモールが一言答えた。

 晶人は合図を出した。

「いいか、出発するぞ。早く町に着いてしまいたいんだ」

 皆は再び砂の道を歩み始めた。


 旅自体はひどくあっさりとしたものだった。

 敵が出てくるわけでもないし、危険があるわけでもない。境界を越える時の怪人達の苦痛を除けば、いたって平穏な旅である。

 晶人には一日中歩き続けなくてはならないという苦痛があるが、それも慣れればどうという事はなかった。

 その日、彼らは早いうちに街に着き、寝る場所を確保した。

 晶人はそれからすぐ食べ物の補給や新しい衣類の仕入れをするため、一人街へ出た。

 晶人は怪人達に「自由にしていていい」と言っておいた。が、彼らの興味は戦いにしか向いていないらしく、街に出るつもりの者はいなかった。本当にいつ食べているのだろう。

 晶人は街で必要なものを仕入れ、服も物陰で着替えた。

 その後、晶人は何気なく街を見物し始めた。

 この世界に来て三つ目の町である。しかしどの町も変わり映えはしない。家並みも町の造りもほとんど同じだ。屋台の種類は台に乗っている物で推測できるようになった。

 食事系が半分、衣類系が半分。食事の種類はあまりなくて、屋台は多いのに置いてある物はほとんど同じだった。水だけがなくて困る。常にフルーツをかじっていなくてはならない。衣類系は置いてある素材が実は様々だった。今日作ってもらったシャツは昨日より肌触りが良い。

 道行く怪人達はいつも通り千差万別で数も多かった。町による怪人達の違いというものはないように思われる。

 見ていると食材を運び込む怪人達もいた。バケツのような入れ物を物を背負ってきておのおのの店に置いていく。

 気になったのはその中身で、どうにも生ものっぽい。肉なのか内臓なのかよく分からない物体だ。裏手で店の住人が加工するとちゃんと料理やフルーツとして店に並ぶ。

 衣類系の屋台に運ばれてくるのは瓦礫のように見えた。それ以外に動物の皮っぽい物や骨っぽい物も混ざっている。

 晶人は原料のことを考えないようにした。

 しばらく歩いて晶人は街の終わり、つまり砂漠の入り口まで来てしまった。どうやら町の規模すら同一らしい。

 晶人はそこから建物の裏手の方に回ってみた。昨日街中で怪人に襲われた為、大きな通りから外れることには勇気が必要だったが、冒険心の方が強かった。

 道の怪人達の数はぐんと少なくなった。

 晶人がそこを進んでいくと、予想通り《戦う場所》があった。

 人はいない。今日の戦いはもう終わったのだろう。

 晶人は更に裏の道を歩いていった。怪人達の姿は全く無くなった。

 先に死体置き場が見えてきた。あまり見たいような場所ではなかったが、何となく晶人は近づいてみる。他に見る場所がない。

 死体置き場には何人か動いている者がいた。

 晶人は不思議に思って更に近寄った。

 今ではなんとなく『作る者』と『壊す者』の区別が付く。彼らは『作る者』だろう。それならば危険は少ない。

 そこにいたのは二人の怪人だった。

 一人は手が六本もあり、ひどく大きな目玉が顔から飛び出して付いている。それ以外は赤い服を着た人間の男だった。

 彼は死体を手に持った刃物(ナイフ)で切断し、袋に詰め込んでいた。よく見ると刃物を持っているのではなく、手が刃物になっているようだ。袋の方も手と一体になっている。

 もう一人は、蟻のような印象を与える褐色肌の女性の怪人だった。

 身体は全体に細いが、胸や腰の凹凸がとてもはっきりしており、なかなか色っぽく感じられる。髪はなく、額から二本の触覚が生えていた。体にも毛は一切生えていない。

 しかし何よりも印象的なのは、おしりから出ている大きく膨らんだ蟻の胴のような尻尾と、怪人にしてはめずらしい一糸まとわぬその姿態である。

 晶人はその姿が目に入った途端、視線を下げてしまった。

「何だ、お前」

「えっ?」

 不思議なことに蟻の女性は晶人に話しかけてきた。道行く怪人が積極的に話しかけてくることは、今までほとんどなかった。あったとすれば『人を壊す者』が晶人に目を付けた、あの時だけである。

 晶人は少し驚いて顔を上げる。しかし隠されていない彼女のヌードが目に写り、晶人はまた慌てて顔を下げた。

 彼女はそんな晶人の様子を気にもせず、晶人の真ん前まで歩いて来ると、じっと晶人を見つめた。

 これではどうしても彼女の姿が目に入ってしまう。

 晶人は始めてこの世界の女性怪人の裸を見たが、どうやら彼女を『女性』と呼ぶのは少し難しいようだ。女性として機能する部分がない。もちろん、この世界の全ての女性怪人がそうであるとは言えないが。

「そんなにじろじろ見るな、変な奴だな。お前は私の知らぬ奴だが、『壊す者』か?」

「えっ、あっ、いや、違うと思う・・」

 彼女は首を傾げる。

「ならば『作る者』か。私が知らぬということは、ダイエかルビサーファが『作った』のだな」

 彼女は何か考え込んでいるようだった。晶人は顔を上げると彼女の顔だけを見て、身体は見ないように気を付けた。

「・・それより、あの、君は何で服を着てないの?」

「はぁ?」

 彼女はそれを聞いて妙な顔をした。しかし素直に答えてくれる。

「確かに服を着ける者は多いな。多分身を守るためであろうが。私も『壊す者』に殺されたいとは思わぬから、服は着けるべきなのかも知れん。が、守るとすれば・・」

 そして彼女は自分のおしりの先を見た。

「この腹になるだろう。腹は尻の先にあるからな。服を着けるのが面倒だ。だから着ないのだ」

「そ、そう・・」

 晶人は服が防御のためにあることを始めて知った。ただ、そうとは思えない奴がかなり多い。きっと彼女もなぜ服を着るのか分かっていないのだろう。

「私の質問には答えてくれんのか? お前は何を『作る者』で、誰に『作られた』?」

「さっき君は俺を知らないことについて不思議がってたけど、君はこの世界の住人のことを全て知っているの?」

 失礼だとは思いながらも、晶人は彼女の問いを全く無視して質問した。自分がここ以外の世界から来たと言ったところで、理解してもらえるとは思えない。自分の説明は後回しだ。

「? そんな分けはないだろう。私はただ自分の『作った』者を知っているにすぎん。だからあそこで死んでいるルガットや、屍を切っているロータンのことはもちろん知っているぞ。お前を『作った』のはダイエかルビサーファだろう。違うのか? 私はただ『人を作る者』として、お前が何者なのかを知りたかっただけだ。今ちょうど『作る者』を探していたからな」

 彼女は聞いたことに素直に答えてくれる。

 晶人は『人を作る』という彼女の言葉にとても興味を持った。

「君は『人を作る者』だったんだ。じゃあ、もう一つ教えてくれよ。『人を作る者』っていうのは何人くらいここにいて、君はどれだけの人を『作って』いるの? そしてここの怪人達はどういう方法で『作られて』いるんだい?」

 晶人がせかすと、彼女は笑い出した。

「君という名ではない。私はミュルメスだ。それにお前、一つ教えてくれと言ったではないか。そんなにたくさん、しかも誰でもわかるようなことを聞いてどうする。全く変わった奴だな。ともかく気に入ったぞ。この際お前がどこの誰かは気にせぬこととしよう」

 そして彼女は晶人を品定めでもするかのように、上から下まで見つめ直した。

「お前の質問についてだが、この街にいる『人を作る者』は三人だ。そして私はこの町の約半分の奴等を作った。ほら、今も私の『腹』の中に新たな奴ができているだろう」

 彼女は言いながら晶人に尻尾のような腹を見せ、腰を振った。確かに膨らんだその腹には人一人くらい入りそうである。

「今日もたくさん死んだから、たくさん作らなくてはならん。それから、『どういう方法で』と言っていたが、そんなもの簡単ではないか」

 彼女はいきなり晶人ににじり寄り、細い手で晶人の肩をつかんだ。そしてもう片方の手で晶人のへその下あたりをなぞり始める。

「私がこの手でお前のここから『部分』を取り出し、もう片方の手で女型の『部分』を取り出せばいい。そうすればそれらは私の中で融合し、新たな奴ができ上がるだろう。もちろん男型同士の『部分』とでも女型同士の『部分』とでも作れるが、それをやると私が疲れる。・・さてと、話は少し変わるがお前は私が嫌いか?」

 晶人は妖しく迫られてどぎまぎする。

 まさかこの怪人だらけの世界で、こんななまめかしいでき事が起こるとは思ってもみなかった。

「少なくとも嫌ってはおらぬな? 私はお前がとても気に入っておる。ならば『作れる』な。私も女型だ、『部分』は持っている」

「す、好きか嫌いかが、重要なの?」

「重要ではないが、反目している者同士から作るとやはり疲れるのだ。だから『壊す者』同士や『作る者』同士は難しい。反目していることが多いでな。大抵私は『作る者』と死んだ『壊す者』とを合わせている。そうすれば大して疲れることはないだろう。まぁ気にするな、私事に過ぎぬ。今、私の腹には二十人の芽ができている。後四、五人は作れそうだ。本来なら相手の素性を知った上で合わせる者を決めるのだが、今回はあえて考えまい。ここ最近、私の『部分』は使っておらんかったからな、たまにはそれを使うのもいいだろう。ふふふ、お前とならばやはり『作る者』を作った方がよいな。最近リーミア様は『人を壊す者』しか作ることを許して下さらんが、適性というものもある」

 途端に彼女の細い腕が服の上から晶人の腹に侵入した。彼女の言う『部分』というのが何かは知らないが、とにかく腹の中にある物らしい。

 彼女は手首まで晶人の腹に侵入させた。服や腹に穴を開けたわけではないらしく、晶人にまるで痛みはない。むしろ陶酔感のようなものがある。

 晶人はただ呆然として、蟻女ミュルメスにされるがままになっていた。内臓を直接触られているような奇妙な感覚もする。

「止めなさい!」

 いきなりリンとした声が辺りに響いた。

 ミュルメスは声のした方を見て、晶人の腹から手を抜いた。晶人も解放されてなんとかそちらを向く。

 そこには手のひらでバチバチと火花を鳴らしているエレサが立っていた。

「恐いな。やはり服は着ておくべきだったのかの。あの子も私の知らぬ奴だが『人を壊す者』だということはよくわかる」

「あなたアキヒトから『部分』を取ったのね。そういう余計なことはしないでもらいたかったわ!」

 エレサは恐い顔をして近寄ってくる。なぜエレサが怒っているのか、晶人にはよくわからなかった。『部分』を取るということには大きな害が伴うのだろうか。

「安心してくれ、まだ取ってはおらん。不思議なことにこいつの『部分』は見つかりにくかったのだ。後少しで取ることはできたが、その前にお前が止めた」

「そ、そう・・」

 いきなりエレサの険しい顔が収まった。それと同時に少し残念そうな表情が浮かぶ。

 ミュルメスは微笑んだ。

「なるほど、そうか。私は構わんぞ。お前とこの男型との『部分』で融合させてやろう。あまり生きている者同士ではやらぬのだが、『作る者』と『壊す者』を合わせるのだから、問題はないな。私もこの男型とで芽を作るつもりだったが、それは次の『部分』ができ上がるまで待つこととしよう」

 そしてミュルメスはまた晶人の腹の中に手を入れようとした。

「止めろって言ってるだろ!」

 エレサはまた怒り出し、ミュルメスに向かって電撃を撃とうとした。晶人が慌てて二人の間に入る。

「何考えているんだ。こいつは『作る者』だぞ、戦ってどうする」

 エレサはやむなく電撃を消した。

「ありがとう。助かった。どうせ死ぬのなら、今でき上がっている奴等を産んでからにしたい。そうでなければ意味がないからな」

「さっさと消えな。私とあんたじゃ、立場が全く逆だよ!」

 エレサが晶人ごしにミュルメスをにらんだ。ミュルメスは軽く肩をすくませる。

「それほど嫌うことはない。私は『壊す者』の『部分』から人を作っているのだ。逆とは言えぬだろう。むしろあのロータンの方が立場は逆ではないか? あいつはお前達がせっかく壊した物を解体し、食料を作る者や衣類を作る物に届けているのだ。そもそも町のほとんどの奴等は『人を壊す者』だろう。逆と言われて嫌われてはたまらん」

「私を怒らせたいの!」

 ミュルメスは穏やかに笑うと、晶人の肩を叩いた。

「アキヒトというのだな、お前は。私はお前のことが気に入っておる。いつか私の所に来て欲しいものだ。歓迎しよう」

 ミュルメスは軽い足どりで死体置き場を立ち去った。

 後には晶人とエレサが残される。もちろん後ろの死体置き場にはロータンと呼ばれた解体屋がいるが。

「帰ろう、アキヒト」

「ああ、でも『部分』て、なんのことだ。聞きそびれたんだけど」

 晶人はエレサの方に歩きながら尋ねる。しかしエレサはぷいと後ろを向いてしまった。

「あいつからいろいろ聞いたんでしょ。それにアキヒトには関係ないことのはずだよ」

「この世界についてもっと知りたいんだ。興味があるし、謎を解く手がかりになるかも知れない」

 エレサはさっさと歩き出した。晶人はその横に並んで歩きながらエレサの顔を覗いた。エレサは迷惑そうな顔をしていたが、諦めて答えてくれる。

「別に大したことじゃないよ。あいつは『人を作る者』。二人の『部分』を融合して新たな人の芽を作るんだ。できた芽は『成体を作る者』の許ででき上がる。私達はみんなそうやって生まれてきた」

「その『部分』って言うのは?」

「『部分』は『部分』。みんな持ってるじゃない」

 晶人にはわからなかい。しかし聞いても理解できることではないようだ。

「『部分』を取るっていう行為には大きなマイナスが伴うのかい? さっき『余計なこと』って言っていたけど」

 エレサは苦い顔をした。

「少しの間、力が弱くなる。それくらいだよ。でも今は少しでも力を失うわけにいかないだろ、だから『余計なこと』って言っちゃったんだ」

「そう。それであんなに怒っていたのか」

 するとエレサは少し間を置き、また口を開いた。

「確かにそう。・・でも本当は何となく、アキヒトと誰か別の奴が混じり合うのが嫌だったんだ。理由は全然わからないんだけど」

 晶人はエレサの表情と言葉に驚いて言葉に詰まった。今一瞬彼女が怪人ではなくただの人間のように感じられた。

 しかしそのことについて考えるのはすぐに止めた。よけい混乱しそうである。

「教えてくれてありがとう、エレサ」

 エレサはやはりあまりいい顔をしていなかった。

 二人は無言で家まで歩いた。


 晶人が家に着いても、他の怪人達は相変わらず黙って座っていた。晶人がここを出た時とまるで変わっていない。

 エレサが晶人の前に現れたのは「守らなくてはならない」からであって、エレサが自分から街を散歩していたのではないだろう。

 晶人は無言で床に横になり、またじっと考え始めた。

 この世界に性の概念はないらしい。それ自体に不思議はない。しかし、人の作られ方がどうも人間に似すぎている。

 二人の怪人から取り出された何かが合わさって、別の怪人ができる。

 地球の生物との違いは、それを第三者が媒介し、専門に子作りをするということだ。

 多種に渡る生物を作る上では二種以上の混合は不可欠だろうし、それについてはまだ納得できる。

 問題は『部分』の結合に感情が影響を与えているらしいということ、そして『男型』と『女型』の存在があるということである。

 男と女という分け方はこの仕組みでは必要ない。むしろそのような制限などない方がいいだろう。もちろん感情だって邪魔なだけだ。

 『部分』が取り出されると少しの間力が下がるというのも、何かを暗示しているようでいやらしく感じる。

 謎を解く鍵にするつもりで聞いたことが、また新たな謎を生んでしまい、晶人は頭を痛めた。

 そしてそのうち晶人は眠ってしまった。

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