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4.思わぬ足止め

 晶人が目を覚ました時、もう他の怪人達は起きあがっていた。慌てて晶人も体を起こそうとする。

 やはり体中が痛い。無理な体勢で寝ていたせいなのか、運動不足のせいなのかはわからないが。

「?」

 体を起こしてすぐ、晶人は動きを止めた。そこには不思議な物があった。

「俺達も驚いたんだぜ。だがお前の世界の奴等はゆっくり再生する性質なのか?」

「・・普通、俺達は再生なんかしないよ」

 晶人の両腕は奇怪なことに再生していた。もっとも完全にではない。まだ骨の回りに筋肉がついてきているといった程度である。だが昨日より見てくれはずっといい。きっとサモールの血の効果なのだろう。

「この分だと明日には完全に元に戻りそうだな。ありがとう、サモール」

 晶人に背中を向けていたサモールが振り返った。

「私の力というよりはアキヒトの力だろう」

 そんなわけはないのだが、晶人はそれ以上何も言わなかった。礼を言われることにきっと彼らは慣れていないのだ。

 それから少しして、彼らはまた出発した。リーミアの城までには後一つ町がある。できれば今日中に次の町に着いてしまいたかった。

 晶人が目を覚ましたのはかなり遅かったらしく、もう日は高く上がっていた。これではよほど急がなければ、日暮れまでに到着できない。

 晶人は道を急いだ。

 彼らが街を進んでいくと、町外れに大きな建物が見えてきた。ドーム型の運動場のように見える。

 晶人がそちらに目を向けていると、フリーミーが解説した。

「あれが、わたくしの使っております《戦う場所》です。特に毎日行く必要はございませんし、今日は先を急ぎましょう」

 そういえば晶人は外からこの《戦う場所》を見たことがない。知っているのは中だけである。もう二度と入りたくないが。

 晶人は皆を先導して先に進んだ。

 その途端晶人の頭に何か強烈な意志が伝わってきた。

『・・・!』

 晶人はびくんとして立ち止まる。

「どうした? アキヒト」

 後ろからグラッズが声をかけてきた。晶人は振り返って一人一人皆の顔を眺める。

 今の言葉は彼らのものじゃないようだ。皆の顔に変化はない。ならば、今の声は何だったのか。

 グラッズがそんな晶人を見ていぶかしげな顔をする。

「何かあったのか? まぁ、いい。それよりも今俺はひどく戦いたい気分だ。ちょっとあの《戦う場所》に行ってみないか。なぁに、大した時間はかからねぇさ」

「グラッズ、あんたもなの? 実は私もすごく《戦う場所》に行きたいんだ。今日くらいつぶしてもいいよね」

 晶人は慌てた。

「待てよ。いきなり何言い出すんだ。すぐにでもリーミアのいる所に行かなくちゃならないんだろ!」

「今日くらい、良いではありませんか。わたくし達は『人を壊す者』。戦いは役割でもあるのですから」

〈確かに急ぎたいが、戦いたいような気分もする。私はアキヒトの判断に任せよう〉

 しかし晶人が答える前にグラッズとエレサは走り出した。

「すぐ戻ってくる」

 晶人は呆然とそれを見送った。フリーミーもそっと二人の後を追い始めた。

「わかった。お前らの好きにしてくれ。俺は外で待ってる」

 すると怪人達は全員《戦う場所》へ走り出した。

 晶人はじっと彼らを見送っていたが、そのうち一人街に戻っていった。

 確かに今日は出発自体が遅い。それは自分のせいなのだから、皆を責めるわけにはいかない。考え方を変えれば今出発して夜の砂漠を歩くことになるよりも、行動を見合わせる方が賢い選択だっただろう。

 始め晶人は店を見て回ったり、足りない物を補給したりして時間をつぶすつもりだった。が、どうもさっきの声が気になって買い物に集中できなかった。

 何か嫌な予感がする。

 さっきの声は晶人だけに感じた物なのだろうか。皆の表情を見るとそう思える。しかしどこかおかしい。晶人には何かの言葉と感じたが、実際はもっと漠然としていた。言ってみれば、意志の込められた雑音である。

 あの雑音は何をと言いたかったのだろう。

 考え事をしながら歩いていると、いきなり晶人の前に一つ目の怪人が現れた。

 晶人はぶつかりそうになって慌てて立ち止まる。その一つ目怪人の後ろには三つ目の怪人がいた。どちらもかなり筋肉質の体をしている。

 一つ目の怪人は真っ赤な原色の体をしており、多少筋肉太りをしていた。

 三つ目の怪人の方は人間の肌のような体色であるが、手足は蹄になっていて体は引き締まっていた。

 彼らは晶人を囲むように立った。

「俺何だかこいつを殺したくなったぜ」

「俺もだ。今日は俺まだ誰も壊して(・・・)ないから、こいつを壊してもいいよな」

 晶人は反射的に走り出した。

 しかし彼らの反応も早い。すぐに三つ目が横に回り込むと、晶人を蹴飛ばして細道に押し込んだ。

 晶人は蹴り転ばされたまま、二人の怪人を見上げた。

 逃げられる状況ではなかった。両手すらまだ完治していないのだ。声を上げたかったが、とっさに言葉は出てこなかった。

 一つ目は晶人の胸ぐらをつかんで立たせると、どんどん道の奥に進んでいった。三つ目はその後ろを追いながら晶人を蹴りつける。

 どうなっている? 晶人の頭の中に疑問符が押し寄せた。

 死ぬのだろうか? 分けも分からずそう思った。

 かなり進んで一つ目は建物の中に入ろうとした。この中で晶人を壊そうというのだろう。

 しかしそこで後ろにいる三つ目の攻撃が止み、何かが砕ける音がした。

 一つ目は立ち止まって振り返ると、晶人を離した。

「てめぇ・・」

 晶人も後ろを見た。

「無事か」

 できすぎなくらいいいタイミングで現れたのはサモールだった。サモールは頭のつぶされた三つ目の体を踏み越えて晶人の前に出る。

「何だ貴様! お前から壊してやる!」

 一つ目はそう言って拳でサモールの顔を殴りつけた。しかしサモールの体は少しも動かない。

 今度はサモールが拳で一つ目の顔を殴った。一つ目の首はもげて通りのずっと奥まで飛ばされた。

 一つ目の体がゆらりと倒れてくる。その体をサモールは手刀で二つに切り裂いた。

 あっけない戦いが終わり、辺りは血の臭いに包まれる。

「助かったよ、サモール。でもどうして君だけ戻ってきたんだ?」

 晶人はサモールをじっと見た。

「お前を守らなくてはならない」

 晶人は納得する。確かに彼らにとって自分は必要な人物なのだ。

 晶人がこの細道にいることを知っていたという事は、晶人が一人になった時からずっと後を追ってきてくれたのだろう。

「まさか街で絡まれるとは思わなかったよ」

「『人を壊す物』は『人を壊す物』以外を壊すことを禁じられている」

「? でも俺は『人を壊す物』じゃないぞ」

 サモールは何も答えなかった。嫌な予感がする。

「みんなは?」

「今戦っている頃だ」

 胸騒ぎがした。さっき頭に響いた雑音と繋がっているような。

 ふと晶人は思いついた。

「サモール。《戦う場所》での対戦相手は、どうやって決められるんだ?」

「適当だ」

 晶人の顔が青ざめる。対戦が適当に決められるのならば、仲間同士が戦うことだってあり得るではないか。しかもあそこから出るには、勝ち残るか死ぬかしかない。

「戻ろう! サモール」

 晶人は《戦う場所》に向かって走り出した。


 《戦う場所》の入り口は一つしかなかった。しかし戦いが始まっているためかそこは硬く閉ざされていた。

「破っていくのか?」

 サモールがぼそっと言う。

 確かにそれが一番単純な手段だろう。だがここから入って戦いを止めればかなりの大騒ぎになるだろうし、無関係な奴等の戦いに水を差すことにもなる。そうなれば無駄に敵を作ることにもなりかねない。彼らは戦闘好きだし、不可抗力なら乱闘をしてもいいことになっているのだ。

「ようは仲間同士で戦わないようにすればいいんだ。それ以上のことをする必要はないな。とにかくメイグを見付けたい。どうにかならないだろうか?」

 するとサモールは黙って歩き出した。

 何か考えがあるらしい。晶人もついていく。

 《戦う場所》の周りをぐるりと回って裏側まで行くと、サモールは立ち止まった。

 そして正面の壁を拳で殴りつける。

 壁はあっさりと崩れた。そこはやはり牢屋の中だった。中ではメイグが漂っている。

〈どうした。アキヒト〉

 晶人は不思議に感じた。脳波をたどることができるのはメイグだけだと思っていた。それなのになぜサモールにはメイグの居場所が分かったのだろうか。

〈確かに不思議なことだ。私はサモールやグラッズ、エレサといつでも通信できるように彼らの位置をつかんでいる。もちろん今ではアキヒトやフリーミーの場所も確認している。だがサモールはその私の通信を逆にたどることができるらしい。これは私が意識的に通信を遮断しない限り続くだろう〉

「なるほど・・」

 晶人は思いだした。そんなことを話してくつろいでいる時ではない。

「そうだ、メイグ、今すぐにみんなに伝えてくれ。もし仲間同士で戦うことになっても、戦わないように。どんな手段を使ってもいいから戦いだけは避けるように。これは俺の命令だといってくれ。これを破った奴はリーミアのいる所まで連れて行かない!」

〈なかなか厳しいな。わかった、伝えよう〉

 メイグが言った途端、サモールが呟いた。

「お前の番だ」

 メイグの鉄格子の扉が開く。

〈すぐに片づけてくる。待っていたいのならここにいるといい〉

 メイグは闘場へと出ていった。


 メイグの相手は両手が鎌になったキツネの怪人だった。体は細長く足は極端に短かった。また、尻尾は長く棒状になっており、それで体を支えている。そうでなければ立っていられないだろう。

 メイグはすうっと鎌手キツネに近づいていった。

 鎌手キツネは手を振り回してメイグに鎌を投げつけた。それはメイグの耳元を通り、大きく回ってキツネの手に戻ってきた。あの手はそういう武器らしい。

「まずいんじゃないか。そもそもメイグってまともに戦えるのか?」

「メイグに飛び道具は当たらない」

「えっ?」

 サモールは腕を組んだまま晶人の後ろに立ち、それ以上何も言わなかった。

 鎌手キツネは次々と鎌を投げつけた。ちょうどブーメランのような物である。どうやら彼はこれしか武器を持っていないようだ。

 しかしサモールの言ったように、決してメイグには当たらなかった。メイグは少しも動いていないのに、キツネの鎌はメイグにかすりすらしない。

 そのうち鎌手キツネは鎌のコントロールを間違ったのか、片方の鎌を自分の胸に刺してしまった。

 キツネが驚愕の声を上げた途端、もう片方の鎌は鎌手キツネの首を薙いでいた。

 晶人はやっとわかった。メイグがあの鎌を操ったのだ。

 いや、鎌をと言うよりもキツネの脳をと言った方がいいだろう。そしてキツネの鎌のコントロールを自分のものにした。だからこそあの鎌はメイグに当たらなかったのだろうし、キツネは自分の鎌で死んだのだ。

 メイグが戻ってきた。

〈アキヒト、君の思った通りだ。これが私の戦い方なのだ〉

 晶人は少し苦い顔をした。ここまで考えを読まれているという事は、晶人が「まずいんじゃないか」と思ったことも知っているだろう。自分が一番強いと思っている彼らにとって、それは侮辱に違いない。

「アキヒト、目的を忘れるな」

 またサモールが一言言う。晶人もすぐに話題を変えた。

「そうだ。グラッズやエレサ、フリーミーは今何処にいる? 場所はわかるんだろ」

〈皆、バラバラになっている。どうする? 一人一人の所にいって注意してくるのか。さっきのメッセージならすでに伝えてある〉

 晶人も考えた。戦いたがっている彼らの戦いを中断させることは得策だろうか。

「後どれくらいかかるんだ?」

〈まだ私は二人しか倒していない。五人倒すまでには多少時間がかかるだろう〉

「うーん・・」

「ホールを見ろ」

 サモールが呟く。晶人がすぐに目を移すと闘場の真ん中には二人の怪人が立っていた。

 エレサとグラッズだった。

「やっぱりこういう対戦が来たか。本当に彼奴らわかっているんだろうな」

〈確認した。二人ともしぶしぶではあるがアキヒトに従うつもりのようだ〉

 試合は始まろうとしていた。


 闘場の中央では二人が向かい合っていた。

「アキヒトがまだ見てるってさ」

「ちっ、それじゃ下手なことはできねぇな。だがここまで来ちまった以上、どっちかが勝てどっちかが負けなくちゃいけねぇ」

「やだな。さっきの相手は大したこと無かったし、今度は『戦う振り』か。フリーミーとだってまだ満足に戦っていないんだよ!」

「仕方がねぇよ。さてそろそろ始めるか」

 グラッズが動き出した。エレサは後ろに跳ねて、そのまま宙に浮く。

 グラッズは足を伸ばしてぐっとエレサに迫った。

 そこにエレサが強烈な電撃を放つ。しかしグラッズは身をよじって器用にかわした。そして髪をわずかに震わせる。

 エレサがその途端電気を身にまとった。体の周りに電気の層ができる。

 グラッズが髪を震わせ続けている間中、エレサはその層を外さなかった。

 晶人は気づいた。晶人も以前牢の中で見たことがある。あれはグラッズが髪を飛ばしているに違いない。

 グラッズが元の姿に戻り、エレサも防御膜を解いて地上に降りた。

 今度はエレサが走り出す。グラッズが髪を震わせると、エレサは走りながら再び膜をまとった。

 エレサがグラッズに迫り、体に電気を帯びたまま体当たりしようとする。

 グラッズは髪を使うのを止め、今度は両手をドリルにしてエレサを貫こうとした。

 エレサはそれをすんでのところでよけ、また電気で弾いて一気にグラッズに迫る。

 エレサの体がグラッズにぶつかった途端、大きな音が鳴り響き激しい火花が散った。

 グラッズは飛ばされて倒れる。

 場が静まった。

 グラッズは倒れたまま動かなかった。

 エレサも立ったまま動かない。

 エレサの勝ちだろうか。それならばエレサは電気を調節してグラッズが死なないようにしたことになる。そうでなければ彼らは晶人の命令に逆らったことになるのだ。

 しかし戦いに熱中しすぎて、手加減を忘れた可能性だってないわけじゃない。

 晶人は緊張して成りゆきを見守った。

 そのうち、ゆっくりとグラッズが立ち上がった。

 晶人はほっと胸をなで下ろす。どうやらグラッズは無事のようだ。しかしそれならばまだ戦いは続くことになるだろう。

 ところがグラッズが立ち上がると同時に、今度はエレサがひざを付き、倒れた。

 何が起こったのか晶人には全くわからない。

 グラッズは少しの間エレサを見、そして自分の檻に帰っていった。

 と、エレサの姿は闘場からすっと消えた。

「?」

 なぜエレサは倒れたのか。なぜ姿が消えてしまったのか。

〈アキヒトも知っているだろう。ここから出られるのは、死ぬか生き残るかしたときだけだ。今、エレサは死んだ。だから自然と外に排出されたのだ〉

「死んだ! エレサが!」

 晶人は呆然とする。嫌な予感は当たってしまった。

〈アキヒトだってグラッズに殺されて外に出たのだろう〉

「・・えっ?」

 確かにそうだ。晶人は以前グラッズに殺された。

 実際は死んでいなかったが。

「だったらエレサは生きているんだな!」

〈死んだのだ。だからここから出された。グラッズの魔眼だ。よほど実力差がなければ効果が無いようだが、エレサは抵抗しなかった。エレサの電撃で仮死させるのは難しい。本当に死にかねない。グラッズの魔眼なら力を解除すれば次期に生き返る〉

 つまり今は仮死状態といったところだろうか。グラッズにはそういう能力があるらしい。

「じゃあ今何処にエレサはいるんだ?」

「付いてこい」

 突然サモールが言って歩き出した。メイグを見ると、彼はまっすぐ前を向いたまま次の試合を見ている。

 晶人は急いでサモールの姿を追っていった。


 サモールが案内したのは、街から少し離れた、どこかゴミ置き場を思わせるような場所だった。

 始めに晶人がゴミと思った物は怪人達の屍だった。しかし思っていたほど大量に死体があるわけではない。狭い場所に固まってあるのでそう感じるだけのようだ。

 サモールはその前まで来ると立ち止まった。

 晶人はサモールの横を通り、一人で中に入っていった。

 晶人の足元にはどろどろになった内臓が散らばっている。足の踏み場がないくらいだった。首や手足もたくさん転がっていた。鳥の頭、魚の頭、蟹の足、蛸の足。それの人間大のものが転がっている。

 先ほどメイグが倒した鎌手キツネの死体も

あった。

 以前の晶人なら悲鳴を上げるか、嘔吐するかしていただろう。しかし、今更晶人がこんな物に驚いたりするわけがない。

 晶人が先に進むと、エレサはすぐに見付かった。

 黒いレオタードスーツに包まれた小麦色の肌はよく目立つ。

 エレサはまるで眠っているかのように横たわっていた。肩を揺するとすぐにでも目を覚ましそうだった。

 晶人は骨に二回りほど筋肉が付いただけの腕で死体をかき分け、エレサを抱き上げた。

 筋肉むき出しの腕ではあるが、別にそれで物を触っても痛みは感じない。

 抱き上げてみるとエレサはひどく冷たかった。やはり死んでいるようだ。

 今までこの姿の彼女をじっくり見たことはなかったが、間近で見るエレサは美しかった。思わず見とれてしまう。

 晶人はエレサを抱えたままサモールのいる場所まで戻った。

「行くぞ」

「どこに?」

 すぐに歩き出すサモールに向かって晶人は尋ねた。彼は振り返らずに答える。

「フリーミーの家だ」

 晶人もうなずいた。それが一番正しい選択に違いない。

 日はもう傾き始めていた。今朝遅かったのが効いている。

 二人はエレサを連れてフリーミーの家に戻った。

 それから数分後。

 また晶人とサモールは死体置き場に行くことになった。

 メイグからの連絡があったのである。

 晶人とサモールが行ってみると、今度はフリーミーがそこに寝ていた。やはり無傷だ。今度もグラッズがやったらしい。

「次はグラッズ対メイグかな」

「いや、そろそろ戦いは終わる」

 二人は今度はフリーミーを連れ、家に帰っっていった。


 日が暮れる少し前、グラッズとメイグが帰ってきた。

「戦いはいいな。これがあればもう何もいらないぜ」

 部屋に入るなりグラッズが叫ぶ。

〈グラッズ、それよりも早く魔眼を解除するんだ。アキヒトがひどく心配している〉

 グラッズは眠ったままのエレサとフリーミーに気づいた。晶人が二人の間に座っている。

「おいおい、心配するなよ。アキヒトだって俺がこうやって出してやったんだぜ」

「とにかく、早く二人を生き返らせてあげてくれ」

 晶人は有無を言わせず命令する。

「わかった、わかった」

 グラッズは肩をすくませると二人の頭に近寄り、一人ずつ額に爪を押しつけた。

「これでいいぜ」

 グラッズが離れると、エレサの身体に赤みが戻ってきた。もともと色の白いフリーミーはよくわからない。

 晶人はそれでも心配そうに二人を見ていた。

 別にグラッズを疑っているわけではないが、一度死んだという事実が晶人を不安にさせる。

 じきフリーミーが寝ながら体を動かした。

 そして皆が見守る中、二人は目を覚ました。

「何か頭が痛い」

「死というものは、あまりよろしいものではございませんのね」

 彼女達が体を起こすのを見て、晶人はやっと胸をなで下ろす。

「ほらな、大丈夫だったろ」

「ああ、さすがだね」

 晶人は軽く相づちを打って言葉を続けた。

「でももう明日は《戦う場所》に行かないでくれよ。これ以上時間は無駄にしたくないし、何よりも仲間同士で戦うのを見たくない」

「わかってるって」

 軽く答えるグラッズに、晶人は少し不安を感じた。

「だけどさ。グラッズはいいんだよ、今日散々戦ったんだからね。でも私は今日ほとんど戦っていない。何か不公平だな」

「確かにそれはおっしゃるとおりかも知れませんわね。獣人グラッズは魔眼という力をお持ちしておられるわけですから、あの状況では有利ですわ。私が仮死状態を与えようとすれば死ぬ可能性が高いですし」

 二人はぶちぶちと文句を言っていた。

 これを悪い方に解釈すると、

「まだ戦い足りないから、明日また《戦う場所》に生きたい!」

となる。彼女達には気をつけなくてはならないようだ。

 そんな怪人達を見て、晶人はあることを思い出した。

「そういえば、町から出ようとした途端お前達は『戦いたい』なんて言いだしたよな。どうしてだろう?」

「さぁ」

「ただ戦いたかっただけだよ」

「あまり考えはいたしませんでしたが、それがわたくし達の性分なのでしょう」

 三人の答えを聞いても要領を得ない。晶人はメイグとサモールを見た。

〈我々が戦いたいと思うことが、それほどめずらしいことなのか?〉

「いや、そうじゃなくて・・」

「状況のことだろう」

 ぽつりとサモールが言う。晶人はわずかにうなずいた。

「そう。君達が戦い好きなのは知っているけど、どうして町を出ようとしたあの時に、そんなことを言いだしたのかなと思って」

〈重要なことなのか? アキヒト〉

「ああ、重要だと思う。だって、また明日も同じ事が起こる可能性があるから」

 エレサが途端に叫びだした。

「あのね、私達だってバカじゃないんだから、そう何度も《戦う場所》に行きたいなんて言わないよ」

「そう言うことだ。無駄な心配しているんじゃねぇ」

 グラッズも続ける。しかし晶人にはそうは思えない。

「俺は明日もまた起こると思う。明日もまたここを出ようとしたら、『戦いたい』って思うような気がする」

「どうしてですの? つまりわたくし達は信じられない、ということですか」

 晶人は苦笑する。もちろん晶人は彼らに喧嘩を売るつもりなどない。

「いいや、違うよ。これはただの勘なんだけど、多分君達を町から出さないことがリーミアのルールなんじゃないかな」

〈どういうことだ、アキヒト。そのようなルールはないはずだ。《戦う場所》に行くことは我々の義務ではない〉

「無いとしたら、今日できたんだろうね。みんなは感じなかったのかも知れないけど、俺はあの時確かに聞いたんだよ。強い意志のこもった言葉を。そのすぐ後に君達は《戦う場所》に行きたいなんて言いだした」

 皆の視線が晶人に集まった。晶人がいわんとしている事が皆にも理解できたらしい。

「わたくし達は知らずうちに、超越者リーミアのルールに従っていたということですね」

「もちろん考えすぎかも知れない。ただの勘だから。でももし俺の予想通りなら、明日も君達は戦いたいと思うはずだよ」

「何だ、結局考えていてもわからないんじゃないか」

 エレサが短絡的に言う。どうやら晶人の忠告を理解できていないらしい。

「そう、結局は明日。ただね、心構えだけはしていて欲しいんだ。もし明日《戦う場所》に行きたいと思っても絶対に行かないってことを」

〈わかった。考え過ぎという気もしないではないが、可能性はある。注意しよう〉

 晶人はやっと笑みを浮かべ、その場に横になった。

「そうだ。エレサ、お前の服持ってきてやったぞ」

 グラッズが言ってエレサの方に服を投げた。しかし服はエレサの所までとどかずに、晶人の上に落ちた。

 エレサのコートは比較的重い。晶人は顔に被さったコートを取り、かたわらにいるエレサに差し出した。

「アキヒト、腕だいぶ治ったんだね」

 エレサがコートを受け取りながら呟き、晶人の手をつかむ。

「えっ、ああ、かなりよくなったよ。明日には元の形になるんじゃないかな」

「そう、よかった」

 晶人は照れくさくなってすぐに手を引いた。彼らに「優しさ」や「愛情」というものがあるのかどうかはわからない。ただ、レオタード姿のエレサに手を握られれば、晶人だって多少意識してしまう。

 晶人が寝返りを打ってエレサに背を向けると、目の前には色っぽく腰を下ろしたフリーミーがいた。和服ではないが、それと似た服を着た色白の女性である。無視できる方がおかしい。

 晶人は立ち上がってグラッズの側に行き、そこで横になった。

 怪人達は皆妙な顔をしていたが、メイグだけは晶人の意識を読んだのか、無表情だった。

 そして、晶人は眠った。

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