第十章 それぞれの時間-9-
その日の訓練は、歴史書半分と、腹筋だけだった。
終業の鐘が鳴り、周りの訓練室から帰宅する者が出てくるが、ミーシャのクラスだけ誰一人帰らなかった。
「え? みんな帰んないの?」
「オレら、みんな寮」
「すぐそこだし、ギリギリまで休んで帰る」
へばって動けないのもあるが、まさか全員が寮とは思わなかった。
傭兵訓練所では、家から通えない者や、何か事情がある者のために、寮が用意されていた。寮は、訓練所の裏手にあり、ミーシャのいた頃も、一クラス数人が生活していた。
「みんな、家が遠いの?」
「うんや、家族がいねぇだけ」
「あと、捨てられたりな」
「あ……ごめん」
訓練生中、寮に入っている時のお金は取らない。傭兵になってから返すシステムで、長くいればいるほど、返す額が多くはなるが、それほど大きな額ではないらしい。
訓練所も先払いでもいいし、後で自身が働き出し、その報酬から払う者もいる。実際、仕事中に命を落としてしまうこともある傭兵では、払い終わらずに、という者もいると聞く。が、そうなってしまうからこそ、次の傭兵のタマゴが必要になるわけだ。
親が傭兵で、仕事中に命を落とし、その代わりに子どもが、という境遇の者もいる。
が、彼らはまた違うようだ。
「何謝ってんだよ? 先生」
「てかさ、ヨルゴスの親、マジひどいよな? 『あなたはもういらないわ。ここなら死なないでしょ?』だってさ」
「マジ『はぁ?』だよな。まあ、あそこより、ココの方が、飯はちゃんと食えるし、寝るとこはあるしでいいんだけよ。まっ、オレ後一年しかいられないけど」
「そうそう。道端で寝るより、ずっといい。てかさてかさ、夜とかほんとこっえぇの。なんかの呻き声はするし、オレ一度幻獣と間違えられて、兵士とか傭兵にめっちゃ追いかけられたもんな」
「いや、それ、おまえの身なりがやばかったんじゃねぇ?」
「髪の毛、メドゥーサみたくなってたかんな。ごわしゃあって」
「何よ、そのごわしゃあって」




