第十章 それぞれの時間-10-
それぞれのものすごいエピソードを聞かされているのに、少年の手の動きに、なぜか笑ってしまう。
彼らにとって、過去は当たり前のこととなってしまっているようだ。
「筋肉痛で寮に帰るのも面倒だわ」
「先生、家に泊めて~」
「それこそ、寮の方が近いでしょ。落ち着いたら、ちゃんと寮に戻んのよ?」
ミーシャの呼びかけに、少年達は「へぇい」と応えた。
ふと、ディノスがいないことに気付いた。
全員寮生活と言っていたから、彼もまた寮に戻ったのだろうか。
「じゃあ、また明日ね。あっ、今日できなかった腹筋分足した数を明日はやるからねぇ」
「えぇ⁉」
「マジ幻獣ぅ!」
「何それ何それ! いいねぇ、マジ幻獣! オレもやばい時それ使お。マジ幻獣」
「使用料くれよ」
「っんでだよ⁉ マジ幻獣だわ!」
またじゃれ合い始めた少年達に苦笑して、ミーシャは教室を出た。
陽が傾き出し、また夜が訪れる。
ヴィクトルに今日の報告をして、はやく戻らなければ、とミーシャは足を速めた。
と、図書室が見え、その窓からディノスが見えた。
彼はまた本を読んでいた。暗くなりかけた室内で、炎を灯している。
どうやって――と、思ったミーシャに、一日黙っていた彼が語りかけた。
『あの少年、魔法を』
「え?」
驚いてディノスを見ると、彼がこちらに気付いた。
そして、慌てて炎を消すと、本を持って立ち上がる。
「ちょっ、ちょっと待って、ディノス!」
追いかけようとしたが、駄目だった。
彼はそのまま寮の方へと駆け戻っていった。
「……まさか、もう幻獣を宿している子がいるなんて」
『我も、気付かなかった。気配を押し殺すことに長けた者か』
タクシィの言葉に、ミーシャはまた彼の去った方を見る。
夜が、さらに近づいてきていた。




