第九章 それぞれの仕事-17-
「あ、あれは……?」
『正真正銘の闇属性か。カズホ、これはどこから来るか分からないぞ』
「えっ⁉」
突如、地から何かが生え、カズホの足元を掠めていった。
「植物⁉」
『触るなよ。触れたら最後、あいつみたいに取り込まれる』
「でも、さっきどっから来るか分からないって……!」
『だから、気を付けろ』
「無茶苦茶だ!」
絡み付く蔦のような闇が、カズホを執拗に追ってくる。
「どわっ! 暗くてよく見えない……!」
ルベルの炎で辺りを照らしたいが、ここは街中。カズホは逃げることに専念するしかなかった。
青年の体を伝い、闇の蔦と、葉のようなものがギュロギュロと音を立てて生えてくる。それは、まるで青年を栄養分して育つ、闇の植物のようだった。
(このままじゃ、あいつ……!)
「はははっ……やった、やったぞ……! 力だ……力が俺を選んだ!」
「違う! それはおまえの力じゃない!」
カズホの懸命な声に、青年がぎろりと目を向ける。その目は、昼間よりもさらに暗く、薄茶色だった瞳の色は、今や漆黒に塗り潰されていた。
「それは、僻みか? そうだろう? 僻めよ、俺がしていたみたいに……俺が羨ましいんだろう?」
青年の暗い声音が、ただただ辛いと叫んでいるようで、カズホの鼓膜の奥のこびりつく。
『あのままでは、完全に取り込まれるぞ』
「どうすりゃいいんだよ⁉」
闇の蔦を燃やそうにも、青年の体に食い込んでいてできない。
直接触れることもできなければ、近付くことも難しい。
「くそッ! 頼む! 目を覚ましてくれ!」
「目を覚ましたのさ……これで、もっと強くなれる……モット……!」
ギュルッと鈍い音がして、青年の腹の中央に、大きな黒い花が咲いた。
『モット……モット……ソノかんじょう、ヨコセ』
『ほう、嫌でも話してくる奴か。珍しい』
「感心してる場合か!」
家々の壁を上手く使いながら逃げるカズホの中で、ルベルは見慣れない幻獣に少し面白がっているようだった。
「ミーシャとエザフォスのとこに行けば……元を……!」
移動しようとするカズホの前に、大きく育った茎が立ち塞がった。
その真ん中に、青年の体がある。
「あぁあ、もう! どうしろってんだぁ!」
カズホは、叫んだ。




