第九章 それぞれの仕事-16-
夢と現実の狭間にいたカズホは、びりびりとした空気に目が覚める。
「ッ……なんだ?」
『幻獣が出現したそうだ』
「えっ⁉」
飛び起き、支度をしようとしたカズホに、ルベルが問う。
『どこへ行く?』
「どこへって、幻獣が出現したとこだ! 当たり前だろ⁉」
『ほぉ、おまえにとって、それがすでに当たり前となっているのか』
「今はルベルと押し問答をしてる暇はない。ミーシャ達は行ったんだろ?」
さっきまでの疲れはどこへいったのか。
宿主は部屋を飛び出す。
《体力はあるようだ》
これが心配というのだろうか。
落ち込んでいたと思えば、仲間の元へ行く言い、己の行く末を見失いかけているかと思えば、キッカケを導き出す。
人間とは忙しい。
が、ルベルはそれが少し楽しくなっていた。
《さすがは、私が選んだ宿主だ》
宿屋の外へと飛び出したカズホは、慌てる兵士や傭兵達の駆けていく先で、幻獣が現れたのが西の方角だと分かった。
と、彼らの背後に、こそこそとついて行く者がいた。
「あっ! あいつ……!」
それが昼間の青年だと分かるのに、時間はかからなかった。
背を丸くし、どこか自信のない雰囲気を醸し出している青年は、何か良からぬものを纏っているようにも見えた。
「もしかして、彼が……」
『キッカケにはなったかもしれないな。狭間の穴を抉じ開けるほど、強い闇を放っている』
「闇……?」
『あの者は、今絶望しているのだろう。それを欲する幻獣が生まれたようだ』
「ッ……!」
カズホは、青年を後を追う。
何をすればいいのか分からないが、とにかく安全な場所へ連れて行くことはできるだろう。
青年に追いつくことは容易だった。
夜の闇に慣れていないのもあり、前を行く傭兵達から引き離され、途中で右往左往していたのだ。
「おい!」
「あっ、……あんた、確か」
「ここで何してるんだ? はやく安全な場所へ」
「うるさい! あんた、一体何様だよ⁉ そんなに俺を惨めにしたいのか⁉」
激昂する青年に、しかし今回ばかりはカズホも引くわけにいかなかった。
「ここにいたら危ないんだ。分かるだろう?」
「分かっていないのはあんたの方だ。俺は、傭兵だ。いずれ夜の警護もするようになる。これは、そのための訓練だ」
「これは訓練なんかじゃない。いいか? 君では手に負えない相手が、向かってきているんだ。今はまだ君が戦う時じゃない」
「ッ……んだよ?」
「え?」
ぐらりと地が揺れた。が、それはカズホにだけ感じられたものだった。
青年は、ゆらゆらとした何かに守れるようにそこにいた。




