第九章 それぞれの仕事-15-
宿屋の一階でうつらうつらしていたミーシャは、ハッとした。
エザフォスもそうだったらしく、険しい顔をして立ち上がった。
「こりゃあ来やがるな」
「ったく、夜を静かに過ごしたいもんだわ」
ミーシャも席を立ち、エザフォスと共に外へと駆け出した。
「タクシィ、見てきて!」
『了解した』
ミーシャの声を聞くや否や、空へと巨大な鷲が夜空に現れる。タクシィ・アエトスは街を上空を大きく旋回した。
『むっ……やはり西か。黒く巨大な植物のような者が、こちらへ向かってきている!』
「植物? それも幻獣なの?」
『新たに生まれた者かもしれん』
「全く、次から次へと。俺達を飽きさせねぇな、幻獣さん達は」
『それは褒め言葉として受け取っておくぞ、相棒。乗れ』
アベレスの巨大な獅子の姿で、エザフォスを促す。
「ミーシャ、先行くぞ!」
「あっ、ちょっと待って! タクスィ!」
ミーシャは自らに風を纏い、タクシィの傍まで来ると、彼女もまた彼に跨った。
「出てくる場所って決まるもんなの?」
『それはないと思うが、開きやすい場所はあるだろう』
「塞ぐことはできる?」
『分からんな。世界がなくなれば、恐らく』
「無理ってことか」
答えは分かっていたが、落胆は大きい。
だが、止めなければ――
再び開いた西の穴へ、ミーシャ達は急いだ。
突如揺れた地に、青年は尻餅をついた。
「なっ、地震か?」
壁に凭れながら立ち上がれば、周りが騒がしくなっていた。
「西だ!」
「また西に出たぞ!」
「おまえ達は残れ! 我々が行く!」
バタバタと多くの足音が駆け抜けていく。
青年は嬉々とした。
「出たってことは、幻獣か! これで戦い方を盗んでやる!」
走っていく傭兵や兵士の後に、青年はこっそりとついて行った。
仕事として受けていないが、これで活躍できれば、また自信も戻るし、何よりみんなから認められる。
青年の頭に、危険という文字は浮かばなかった。
(必ず強くなるんだ!)
そればかりが、浮かび、膨らんでいた。
何を犠牲にしようとも――
ソノかんじょう、イタダキ……
ぞろりと足首を掴んだ何かに、青年は気付かなかった。