第九章 それぞれの仕事-14-
辺りは、夜の静寂に支配されている。
が、傭兵や兵士の警備に休みなどない。四、五人で行動する者達もいれば、個々で動く者もいた。
夜のサリアは、昼間と違い、生者を拒むようでもあった。
そんな街の片隅で、息を潜める青年がいた。
「今日も勉強しなきゃ……剣の使い方がもっと上手くなれば、夜の警護の仕事だって……」
青年は三か月前に傭兵になったばかりだった。
強くなりたいと思い、ずっと剣術を訓練していた。傭兵になれば、すぐにでも戦えると思った。訓練では誰よりも剣を扱えていた。
訓練学校では、首席を取ることもあり、周りから期待もされていた。
『これで、誰かを助けることができる!』
これならば、と意気揚々と、希望に満ちて、傭兵の資格をもらった。
が、いざ傭兵となり、仕事を受けるようになってから、全く上手くいかない。何人かで組んで盗賊討伐をした時も、同業者の動きも、盗賊達の殺気にも気圧されてしまった。その時は周りが盗賊を倒してくれたが、一人では無理だと判断され、それ以来戦闘に出ていない。
それどころか、人手の足りない土木業では足を滑らせ、組んだ丸太をひっくり返し、店の手伝いでは商品を落とす。
青年が一人で仕事を成功させたことは、まだ一度もなかった。
(俺、才能ないのかな……?)
あれだけ夢に見た傭兵になり、自分の理想の姿に近づけたと喜んでいた。両親にも手紙を書いた。
必ずもっと強くなって、故郷を守る、と。
両親からも、成長姿を見せてほしい、待っている、と返事をもらった。
その希望と期待が、今や大きな重荷となっている。自信を吸われる元凶になってしまっていた。
同じ時期に傭兵になった者は、どんどん戦闘の仕事を請け負っている。
それが、青年の焦りに拍車をかけていた。
悔しい、悔しい、悔しい。
訓練学校の頃、自分より成績の悪かった者が、一人、また一人と成功を収めていく。
どうして? なぜ? おまえなんかが……
考えれば考えるほど、嫉妬だけがむくむくと膨らみ、心を支配していく。
昼間、見知らぬ男から声をかけられた場所に来ていた。
「……なんだったんだよ? あいつ」
イラついた。
他人に手を差し伸べる奴は、大抵できる奴だ。できる奴に、できない人間の気持ちが分かるわけがない。
青年は、悔しかった。
「必ず見返してやるんだ。誰の手も借りずに、強くなってやるんだ」
青年の周りに、夜の闇よりも深いものが張りついていた。
黒い感情は、闇を呼ぶ。
狭間の穴が、ゆっくりとその咢を開き始めた。




