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衛兵との再会

 タータは不機嫌だった。情報収集が上手くいっていないワケではない。ブラトゥガルドゥ特有の警邏の多さ故に、1人歩きでどこの見習いとも違う格好をしたタータは何度と無く呼び止められていたからだ。そして今も2人の男に狩猟者タグを見せているところだ。


「すまん、確かに本物だ。」

「だから言ったろ。」

「そう言ってくれるなよ、お嬢ちゃん。」


 2人組の男は自警団だ。槍ではなく長い棒を持ち、革を巻いただけの簡単な手甲と飾り気のない丸い兜をつけ、自警団の紋章が入った厚手の生地の上着を着ている。


「そっちだって仕事だってのは分かってっけどよ。」

「まあまあ。俺らがこうやってないと、すぐに妙なこと考える連中が出てくんだぜ?」

「そうだぞ。それに、その年齢で狩猟者見習いってのもそうそういねえからなあ。」

「分かってんよ。でもこう頻繁にされちゃあ、愚痴りたくもらなぁな。」


 タータはしかめっ面で腕組みをしている。別に体勢に逆らうような性格でもないし、公僕を毛嫌いしてるわけでもない。だがこれで4回目ともなればさすがに閉口してしまう。


「悪かったって。ここの公爵様は子供を大事にしてっから仕方ないんだ。」

「まぁこの領地のイイとこだよなぁ。」

「そうそう。なーに、今日1日で知れ渡るだろうから、明日からは楽なもんさ。」

「そう願いたいね。」


 自警団の2人と別れ、さらに町を歩く。時々店に入っては物色がてら町の情報を聞くが芳しくはない。今は港の倉庫街近くだが、大きめの船が着いたようで人が非常に多い。そのせいでどこも活気付き、わざわざ子供の質問に答える暇はないようだ。何人かに声を掛けるが忙しいとにべもなく断られていた。


 タータの気配探知に魔力持ちが引っかった。その弱さから衛兵だと察したが、どうやらこちらへ向かってきているようだ。タータは再び不機嫌な顔になり、立ち止まって相手を待ち構えた。下手に逃げても面倒になる。さっさと終わらせた方が少しはマシだ。


「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」


 現れたのはやはり衛兵だった。重装備ではないが槍を持ち、テンプトタールの衛兵と同じ格好をしている。


「ハァ・・・。このギルド章見りゃ分かんだろうけど、俺は狩猟者見習いですよ。ついでにタグも見る?」

「いや、そうでは無くてね。」


 タータは相手も見ずに、外套の首元にピンで付けたギルド章を指差す。しかし衛兵の用件はそれではないようで、タータの視界に入るように、目の前に膝をついてしゃがみこんだ。


「久しぶり、かな?魔獣が出たとき君に槍を貸した衛兵だ。覚えてるかな?」


 衛兵はスクッドシグと共に行動していたアルムーラだった。立派な口髭をしているからか、スクッドシグよりも随分年上に見える。体付きはガッシリとしていて、貴族というよりも傭兵やゴロツキに見えなくもない。しかし、今の表情はとても柔らかくて優しい目をしていた。


「おぉ、あんときの。」


 タータは槍を借りた衛兵だとやっと思い出した。あのときはすぐそこに居た彼から説明もソコソコに、半ば強引に槍を奪いすぐに魔獣へと向かったため、あまり顔を覚えていなかったのだ。


「ありゃ助かったぜ、ですよ。」

「はは、いやこちらこそありがとう。お師匠さんには会えたんだが、君には礼を言えてなかったからね。見かけたもんで、つい声をかけてしまった。」

「仕事をしただけさ。あんたらと一緒だ、ですよ。」


 アルムーラの柔らかい雰囲気にどうしても平民言葉が出てしまう。とってつけたような敬語だが、相手は気にした風もないのが幸いだった。そこでタータはふと気付いた。テンプトタールの衛兵が何故こちらに居るのか、と。


「そういや、なんでこっちに?」

「ん?悪いが細かくは・・・いや、君は関係者でもあるか。極秘というわけでもないし・・・。」


 少し目を伏せ考えたあとアルムーラは説明を始めた。本来はわざわざ平民に言うことでもないのだが、あの事件で被害が出なかったのはタータやチェーブらのお陰だ。まったく無関係でもないので伝えてもいいと判断をしたのだろう。


「実はあの事件に関わっていた商業ギルドの職員がいたんだがね。」

「へぇ。」

「彼は人身売買・・・えっと、子供を色んなところから集めては、どこかに売っていたんだ。テンプトタールではなく周りの町でね。」

「ここにもそれで?」

「そうだね。北のノアベデレでは11人保護したよ。ここにも捕まったままの子がいるかもしれないから探しているのさ。」

「・・・ひょっとしてそれって、見習いの制度を悪用してたヤツ?」

「知っているのかい?」


 アルムーラの問いにタータは少し大げさに頷いた。その商人のせいですぐに西に向かえたはずが、随分と長いこと足止めを食らったのだ。


「お蔭で魔獣を2匹狩るハメになったから。」

「2匹もか、そりゃすごい。」

「師匠と一緒にさ。大したこっちゃねぇ、ですよ。」

「さすがだね。でも、もし怪しい人に声をかけられても近づかないようにね。もっともお嬢ちゃんだと返り討ちにしちゃうかな?」

「へっ、ひっ捕まえて連れてってやん、ですよ。」

「そりゃありがたい。」


 タータが胸を張りながら、右手を拳にして左手のひらに打付ける。その強気の発言にアルムーラはニコリと笑った。そして真剣な顔に変わった後槍を地面に置き、タータの手を両手で取る。予想外の行動にタータはビクリとするが、振り払うのは失礼だとは分かっているため硬直するしかない。


「君の師匠からあのときのことを聞いたよ。魔獣を君が槍であの場に縫い付けていなかったら、ものすごい被害が出ただろうと。」


 深い真剣な声だ。そのままアルムーラはタータを見つめてから、目を伏せ頭を垂れた。


「だから街を守る者として言わせてくれ。本当にありがとう。」

「お、おぅ、です。」


 タータは顔が真っ赤になっていた。面と向かって真剣に礼を言われるのも慣れていないが、通行人達がちらちらと見ているのも辛いものがあった。町の中で衛兵が跪いて子供に礼を言っていれば嫌でも目立ってしまう。


 タータの手が少し震えてるのを感じて、アルムーラは慌てて手を離した。この少女が貴族を苦手としていると聞いていたし、スクッドシグが細心の注意を払っていたのを思い出したのだ。


「そういえば貴族が苦手だったね。引き止めてごめんよ。」

「いや、別に。」


 気まずそうにするアルムーラとは目を合わさないようにタータが言った。正直、この場から離れたい気持ちが今は強い。それを察したのかアルムーラは槍を持ち直してすっと立ち上がる。


「しばらくはこの町にいるから、何かあったらいつでも頼ってくれ。私達は町の住民を守る衛兵だからね。」

「あぁ。分かった、ました。」


 そのまま2人は別れる。アルムーラは倉庫を抜けて港へ、タータは一度宿へと向かった。その道中タータは小さいが、憤りを感じさせる声で呟いた。


「ガキで商売か。気に入らねぇな・・・。」


 一度立ち止まったタータは少し目を瞑る。しばらくそのままだったが、何か考えがまとまったのか再び歩き出した。その目は何かを決意したものだった。


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