↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/54

早朝

ブラトゥガルドゥの朝は早い。タータは港町特有の喧騒で起こされるが、まだ日の出前で空はわずかに白んだ程度だ。迷惑そうな顔のまま上半身を起こし足元のラズを見ると、デブ猫のぬいぐるみを抱えたままベッドに横向きに寝ていた。


 昨夜、ラズの件はぬいぐるみへの機能追加でひとまず問題は片付いた、と言えなくもない程度にはまとまった。本人は困り果てていたが、子供の心のままでいるワケにもいかないから仕方ない。


 しかしその後、どちらがベッドを使うか論争が起きた。実際にはベッドの奪い合いではなく譲り合いで、(ゆか)の取り合いだったのだが。


 タータとしては実年齢も見た目も、年下のラズを床で寝かすつもりは無かった。しかしラズは自分が押しかけたのだから床で寝ると言って聞かない。心が青年期に戻ってしまったため、なだめすかしてもガンとして譲らなかった。


 結局は魔法使いの提案により、逆丁字に寝ることで一応の解決を見た。タータが枕から正位置に、その足元にラズが横向きに寝る。身体の小さい2人だからこそ出来る寝方だった。


 同じベッドで寝ることにはなるが、(しとね)を共にしていないとも言えなくない。幼い身体のせいで睡魔に勝てない2人は面倒になり、その提案を受け入れたのだった。


「ったくよぉ、面倒なことになったなこりゃ。」


 頭をワシャワシャと掻きながらタータが愚痴る。これから町を出るための算段をつけなければならない。ブラトゥガルドゥは人の出入りが激しい。治安の基本となる相互監視は機能しにくく、自警団や契約した傭兵が巡回や警邏の任についている。そのため、よそ者をチェックする目が多いのだ。


 このままラズを連れていれば間違いなく止められるだろう。そして、どうやって町に入ったのかを聞かれる。魔法使いの魔法で来た、などと正直に言えるワケがない。何か怪しまれない理由が必要だ。


「とりあえずは情報収集すっか。」

「ん・・・おはよう・・・ふああああああああ・・・。」


 ラズも起きたようだ。ムクリと上半身を起こして挨拶をしながら伸びをうつ。


「おう、置きたか。」

「睡眠というものはいいな。人形のときは必要なかったが、とても気持ちがいい。」

「そりゃよかった。」


 素っ気なく返答したタータは、ベッドに腰掛けてブーツを履き出した。これから町へ出て、現状打開のための糸口を見つけなければならない。


「ん?どこか行くのか?」

「あぁ。ちょっと情報集めてくる。このままじゃ町も出れねぇしよ。」

「どういうことだ?」

「とりあえずぬいぐるみ抱け。いいか、ここはグルードクラー公爵領だ。」

「そういえば町の名前を知らなくても気にならなかったな・・・。心が子供になるとこうなるのか・・・。」


 ラズはまた凹んでいた。しかし昨日のように泣いてはいない。ぬいぐるみの効果が出ているようだ。自分のものが取られたような気分だったが、泣きじゃくられるよりはずっといい。タータは少しホッとした顔で続ける。


「まぁそりゃいいとしてだ。ここの領地で子供の出入りは制限されてんだ。」

「聞いたことがあるな。子供の売買を抑止しようとしたのだったか。」

「それが面倒でな。俺はそのために狩猟者見習いになって2匹魔獣を狩った。」

「見習いだけではダメなのか。」

「そうだ。で、問題はお前だ。」

「なるほど。このままでは領地を出ることが出来ないのか・・・。」

「そういうこった。正確には出れないこともないんだろうが、止められる可能性が高い。」


 タータは上着を着てカバンをたすき掛けに掛け、上から外套をまとった。子供相手にあるとは思えないがスリへの対策だ。そして薄い革のツバ無し帽を被ってその上にバンダナを巻きつつ、ラズへと向き直る


「だからちょっくら情報収集してくる。お前はここで待ってろ。」

「なあ、・・・その・・・。」

「心配すんな。見捨てたりはしねぇよ。」

「あ、ありがとう。」


 ラズはホッとした顔で礼を言った。大人としての知識はあっても、子供の身体では出来ることが非常に限られてしまう。しかも平民ではなく貴族出身で、町の中で生きていける自信は無い。このまま置いていかれればどうなってしまうのかと不安だったのだろう。


「荷物は置いてくからよ。今のうちに身体の動きを確認しときな。」

「ああ、助かる。いかんな・・・助けに来たつもりだったのに、どうにも助けられてばかりだ・・・。」

「気にすんな。動けるようになりゃ十分に助けてもらうからよ。」

「分かった。そのときは任せてくれ。」


 鉈は置いて行く。万が一があるとは思えないが、ラズの護身用にはなるだろうと思ったのだ。タータは腰のベルトにナイフを差し込み部屋を出ようとするが、ドアに手をかけたところで思い出したように振り返る。


「そうだ。魔法を使う時は気をつけろ。お前も魔法使いの身体なんだろ?」

「うむ。たしか君の身体とほとんど同じだって言ってた。魔力は強いのか?」

「とんでもなく強ぇぞ。俺にゃ使い切れねぇ。だから魔道具の下着と服で抑えてんだ。」

「そういえば、この服は数着あるから必ず着るように言われたな。」

「下手に魔力を出そうとすりゃエライ目にあうぞ。俺より慣れてるだろうけどよ。あとその鉈もたぶん、あいつ(魔法使い)が何かしてっから、振り回すときは気をつけろ。」

「分かった。ありがとう。」

「あと、指先を動かすのは効果が高いらしいぜ。荷物には裁縫道具もあっから、鍛えとくといい。」

「そうなのか。ありがたく借りさせてもらおう。」


 やることが出来たからかラズは不安そうな表情が和らいだ。ドアを開けて廊下に出たタータは少し息を吸ってから振り返り、手を上げて声を掛ける。


「じゃあ、行ってくる。」

「ああ、気をつけてな。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。