仕事帰り
タータとチェーブは村へ報告して1晩泊まり、翌朝に街へと出立した。無理をすればその日に街へ帰れたが、魔獣退治で村に歓待を受けたためだ。
街道から外れた村々にとって税を取るだけの国と違い、狩猟者は金さえ払えば魔獣をちゃんと退治してくれる重要な存在だ。そのためほとんどの村で歓迎される。
狩猟者は怪力のせいで、村や街の爪弾き者であった場合が多い。しかし疎まれていた自身の力で村を救い、他人からの熱烈な歓迎を受ければもう、狩猟者は辞められなくなる。抑えていた全力を出せる喜びや、生死を賭けたギリギリの高揚感もそれを助長する。興行の闘士達が、己が命の輝きと客の歓声を求めて戦いに身を投じるのと同じだ。
「やっぱ感謝されると気持ちいいなー。仕事をやった!って気分になるし。」
「狩猟者やってる連中はそのために続けてるようなもんだしな。」
「タータさんも?」
「まぁ似たようなもんさ。」
テンプトタールへの帰路、2人は小走りのまま器用に会話をしている。背負った荷物は大きいがそれを感じさせない。タータは魔獣の骨と罠用の綱とロープを、チェーブは毛皮と村から貰った土産を、それぞれの背負子にしっかりと括り付けていた。タータはチェーブが担いでいる毛皮を見上げながら、少しすまなさそうに言う。
「俺が毛皮じゃねぇ方を担いでていいのか?」
「いいんだよ。俺のほうが今のタータさんよりガタイがいいしな。」
「普通は見習いが運ぶもんだろ?」
「俺はタータさんの元弟子だからな。師匠のマネしてんのさ。」
「けっ。」
どうやら照れたらしい。少し耳が赤い。昔の自分がこっそりやっていた気遣いが、弟子にバレていたのがいたたまれないようだ。その様子を見てチェーブはケケケとからかうように小声で笑った。
昔のタータは弟子には何も言わず、いつも重い荷物を多く担いでいた。何か言われても「下ろすのが面倒くせぇ」と言って譲らなかったたものだ。本人はバレてないと思っていたのだが、今まで面倒を見てきた全ての弟子が分かっていた。もちろんチェーブも。
タータが少し速度を上げて前に出る。顔を見られたくないのだろう。それを分かっているチェーブは話題を変える。
「タータさん、次の武器はどうすんだ?」
「鍛冶屋がどこも忙しいからなぁ。中古でマサカリあたり探してみるさ。」
「そろそろ落ち着いてもいい頃合いだと思うんだけどなー。」
「ルクラとピエーレの店はやっと注文出来るようになってたぞ。」
「マジ?じゃあなんで、エプロン使うことにしたんだ?革鎧頼めばいいのに。」
「前掛けだっつってんだろ。ま・え・か・け。」
タータが半分振り向きながら抗議する。からかうつもりは無かったのだが、何故かそうなってしまった。
「そうそう、その前掛け。間に合わせじゃなかったっけ?」
タータ曰くの“前掛け”は背負子のバッグへと仕舞ってあり、今は身につけていない。本来は革鎧が見つからないから仕方なく使っていたはずだ。しかし昨日見た前掛けは、歪だった首周りなどは綺麗に整えられて各所に縫い目が追加されており、これからも使い続けるつもりだと一目で分かるほど手が入っていた。
「あれなぁ・・・アイツが手を入れちまったんだよ。だから下手に処分出来ねぇんだ。」
「ええ?なんでまた。」
「ハサミ取りに来たときに、俺が枕カバーの穴塞ぎしたって言ったろ?」
「ああ。ちょっと楽しそうだったっけ。」
「うっせぇよ、ほっとけ。ほんでな、そのとき手持ち無沙汰だからってエプ・・・前掛けを魔道具にしやがった。」
「暇だから魔道具にって・・・。」
チェーブはさすがにひいてしまった。衛兵とは交流があるのだ。魔道具を作る困難さや金額の高さについて多少は知っている。それを手が空いたからと軽く作れることに驚愕してしまい、タータが前掛けをエプロンと言いかけていたことには気付かなかった。
「“鍛冶やるなら火や鉄に強い方がいいだろ”だってよ。別に鍛冶屋なんざやらねぇってのに。おかげでコイツは無駄に頑丈だ。燃えねぇし切れねぇし穴も開けれねぇ。魔力を流しゃさらに頑丈になりやがる。」
「マジかよ・・・。」
「こんなもん誰かに渡ったらクソ面倒になるに決まってる。常識がねぇんだよ、アイツは。ちょっと目を離すとすぐ余計なことしやがる。」
「タータさんが母ちゃんみてーなこと言ってる・・・。」
チェーブは子供の頃母親によく、アンタは目を離すとすぐにイタズラするんだから!と言われたことを思い出していた。ギルドで見たときはタータのほうが子供に見えたのだが、どうやら実態は逆のようだ。
「あの衛兵の盾にも仕込んでたしよ。直すだけでいいってのに。」
「ギルドじゃそれで助かったからいいじゃねーか。」
「お前は知らねぇからそう言うんだよ。あの盾がどうなったと思う?」
「あー、聞きたくないってのは無し?」
コレ以上聞くのはやばいとチェーブの勘が言っていた。だがタータはそれを許さない。
「無しだ。」
「えー・・・。じゃあ、頑丈になったとか光るようになったとか?」
「正解だが規模が違う。頑丈になるのは全身で、さらに力も上がる。」
チェーブがゴクリと息を呑む。戦鎚を弾き飛ばしたのはそのせいだと分かってしまった。
「あと光もやべぇ。最後みたいに強烈に光ったときだけらしいが、相手は目が見えなくなって力も魔力もロクに出せないようになるってよ。目を瞑っててもな。」
「・・・やりすぎだろ、それ。」
「だろ?すぐに解けるから問題ない、とかアイツは言ってたけどよ。そういう問題じゃねぇっての。」
「うわ、思い出した。あれって衛兵の官給品って聞いたことがある。他の衛兵も使うし、年に何度か魔道士が整備するって。絶対面倒になる未来しか見えねえ。」
「俺の気持ちが少しは分かったか?」
「痛いほど分かった。でも出来れば聞きたくなかったぜ・・・。」
「お前は知っといた方がいいんだよ。ダチなんだろ?あの衛兵がやべぇ事態になりそうなことがあったら、盾持ってけって助言してやんな。」
タータはチェーブを見上げながら言った。あの衛兵こと、スクッドシグのことはタータも気に入っていたのだ。街を守る、などと中々言えるものではない。それを窮地に置いても言い切ったのは本気でそう思っているからだろう。彼が危険を逃れられるなら使ってもらったほうがいい。そう思っていた。
「あと飲みに行くならさりげなく聞いといてくれ。やばそうなら、早めにずらかるからよ。」
「あー、そりゃ手遅れかもしれねー。盾を不思議がってたし、もう調べてそうな気がする。」
「げっ、ありえるな。とっととギルドに報告して、街を出る算段つけねぇと。」
2人は上り坂を走っていく。この丘を越えればテンプトタールの街並みが一望できるだろう。街へ戻ったあとのことを考えながら頂上付近で、タータは少しペースを上げた。




