第九十五歩「ラスボスとお忍びデート」
「ぽっ、ぽぽぽっぽぽっ?(で、どういうことなの?)」
「ン? アア、アノママ大将首取レソウジャッタガ
別ニソンナモン要ラン上ニ、変ニ恨ミモ買イタク無イカラノ」
「一番強イ奴出セト言ッタラ、スゲェノガ出テ来タワイ」
「アレハ死ネルナ。トンダ隠シ玉ジャ」
エルフのお爺ちゃん達はなんだか嬉しそうに殺され掛けた事を
語り合っている。いや、ちょっと待って下さいよほんと。
こっちは死んじゃったかも知れないと右往左往していたというのに
なんだかススを被ってまっ黒になってる爆発オチみたいな肌の色に
なっただけで、ほぼ無傷とか一体どんだけですかという話ですよ。
先生、〘脳筋〙が過ぎます。どうしよう?
【〘脳筋〙は治療方法が現在この世界では確立しておりません】
「……(幻想世界医学の敗北!?)」
流石の魔法技術も〘脳筋〙は治療出来ないのか。
安定と信頼のマッスルサイド。揺るがなさは背筋の如しである。
そんなアホ会話をシステムさんとやりあっていると
ワイバーンのお姉さんがやけにシリアスな顔で近付いて来る。
さっきまでのお気楽おばさんオーラとは似ても似つかぬ
真剣な表情に私とイケヅキ君は息を呑む。
「デ、リトモヨ。奴等ニ“アレ”ハ出スベキカ?」
「ンム、事前ニ話シタ通リ、今回ハイケルデアロウ。
少ナクトモワシ等ノ寿命前ニ事ヲ片付ケルニハ今回シカアルマイ」
「ソウカ……寂シクナルナ」
「マ、彼ノ世デ縁ガアレバ何トデモノ」
リトモさんは笑っていたが、そこには一抹の悲哀が見えた。
哀しいがそれでも必要な何かを今、確かめ合っていたのだろう。
私はまだその境地が理解出来ない。やっぱり、エルフってのは
森と共に一緒にあるから避難民として暮らすなんてのは出来ないのかな?
一応、コアタルちゃんとか普通に過ごしていた様だったけど
まぁ、ソレは当人達の問題だ。衣食住足り得る事すら難しく
それでいて、心の安寧をもたらす日々の構築なんて難しい。
「イケヅキ」
「はいっ!」
「全テハ話セヌガ、オ前今日マデニ出来ルダケノ事ヲ教エテ来タツモリジャ。
行ク行クハ里ヲ背負ウ者トシテナ。チト早イガ話サネバナラン事ガアル」
「ウチカラモナ。チュー訳デオ嬢チャン。先ニ行ットッテクルーカイ?」
「ぽっ、ぽぽっ(あ、はいっ)」
どうやら此処からは彼らの話の詰めの展開みたいだ。
私はいくら仲良くなっていたとはいえ、まだまだ一ヶ月位立ち寄った
化け物に過ぎない。うむ、ココらへんは弁えないとね。
私がこー、揉め事に首を突っ込んで解決するぜな勇者様だったら
それは良いんだけど、生憎それほど強くもない。悪いがあの例の光の柱を
貰ったら多分、生き残れないんじゃないかなぁと思う訳ですよ。
リトモさんもワイバーンのお姉さんもソレは同じらしく
二人はそれを踏まえた上での話し合いになる。
「あ、では以前の木の方で落ち合いましょう。今夜はあそこで休みます。
里だと外の様子が見れませんし、族長達は此処で陣取るそうです」
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽっ(うん、わかったー)」
「スマンネー」
「ぽっ、ぽぽぽぽっー(あ、お気になさらずー)」
そう言って、にこりっと微笑んでワイバーンのお姉さんに手を振る。
名前位聞いておきたかったがとてもそんな雰囲気ではなかった。
多分、聞いても笑って誤魔化されそうだ。この場の空気が激しく重い。
皆、ニコニコと笑いを取り繕っているが圧倒的な死相が
誰にも彼にも見えている気がする。イケヅキ君も苦笑い気味だ。
コレも〘八尺様〙の能力なのだろうか?
私がこんな空気読めるなんて、とてもじゃないが思えない。
「行ッタカ」
「マァ、アン娘ヲ巻キ込ムハ、筋違イヤロ。ドウセ、ウチ等ハ死ヌ身ヤ」
「……ダナ」
最後の言葉は聞かなかった事にする。タワラもどうやら残る様で
私は一人、白い森の中にある見晴らしの良い大樹へと歩いて行く。
多分、明日何かが起こるのであろう。戦と言っていたから
大勢が死ぬのかも知れないし、何かをするのかも知れない。
私はアレだけ過去の色々を知っておいてもまだ全容がつかめない。
うーん、ある程度当たりを付けるなら、彼らが賢者ロシカの強化実験中に
傭兵として働いている間に何かあったのだろうか?
その間に〘セイント・フリード・ワイバーン〙にも出逢ったのだろう。
元から彼らの住む森に居たと言うなら付き合いの年代がもっと古い気がする。
チグハグな知識と直感でまとめ上げた仮の結論はどうにも信頼出来ない。
「……(うう、まだまだ知らない事も多いなぁ。まだ足りないの?)」
「其処の者、止まって欲しい」
「ぽっ?(はいっ?)」
私が考えながらもほぼ記憶を頼りに森の中を歩いていると
ふと声を掛けられる。後ろを振り向いても誰も居ない。
ただ、声は下の方からしたので視線を下ろしていくと
やたらと近い距離にその子は居た。いつの間に居たのだろう?
ただ、視認した瞬間に〘少年渇望〙のスキル効果で
ばっちり、この子が男の子で、この場に居るという事が確認出来る。
「……(どちら様?)」
「ああ、コレの名前を知るべきではない。
なのでコレも貴女の名前を知ろうとは思わない」
「ぽっ、ぽぽっ?(は、はぁ?)」
くそ、困った。ファンタジー世界特有のよくわからない思考回路と
会話内容で翻弄するタイプの子か! 所謂、不思議ちゃん♂か!
改めてこの男の子を観察する。褐色肌に何かうっすらと
入れ墨が入っていて、布は今にも色んな所が見えそうな感じで
ビキニみたいに包まれている。細くてしなやかな四肢に
うっすらと見える腹筋は雰囲気とは裏腹、引き締まった体で
少年の肉体美を体現している。たまらねぇぜ……って、違う。
「少し貴女と話をしたい。デートに来て欲しいが良いな」
「……ぽぽっ?(はぃっ!?)」
「ん? 男が女を連れて歩くのをデートと言うのだと
コレは認識している。間違っていない」
…………どうしましょう? 私、逆ナンされている?
え、お持ち帰られちゃうのこの子に?
しかも『良いな?』と確認を取っているのではない。
『良いな』とほぼ、断定している。え、俺様タイプなの?
こんな結構大人しいと言うか、ふわふわ移ろってそうな顔の雰囲気の子に?
目は茶色とオレンジの間位でやや仄暗い夕焼けの様な印象を与えて
どうにも顔の印象はぼんやりしているというか妙に視認し辛い。
ただ、なんとなく……なんとなくなのだが春の日差しの様な
温かい微睡んだ空気にさせてくれる変わった子だ。
「ぽぽぽっぽっぽぽっ?(迷子かな?)」
「コレは迷っていない」
「ぽっ、ぽぽっ?(そ、そう?)」
「同行に了承したと見るが構わないね」
「ぽっ、ぽぽっ(あ、はいっ)」
――わ、訳が分からない。言動がトリッキーと言うか
意思疎通のキャッチボールどころか千本ノックされてるみたいだ。
私はもう逃げたい位だが、こんな小さい子を森に一人にはさせられない。
それに加えて、なんでか知らないが私のことを怖がらない。
うーん、普通に森の外ではコレくらいの身長って珍しくないのかな?
けど、イケヅキ君やリトモさん、スルスミちゃん含めて
多少、ファンタジー補正で日本人よりは高い感じはするが
人類としては許容範囲内のサイズ感に今までの人型の存在は収まっている。
今の目の前の子もそりゃ腰下未満の身長では、あるが人間の子供としては
変なサイズでもない。……うーん、なんかスキルの影響なのかな?
システムさーん、へるーーぷっ!
【げげげ、現在著しく回線ふふふふ、不良ですすすすっ。
一度、さいささきき、再起動するのでしばし、連携を途絶しままます】
なんと、システムさんがバグっている!?
え、どういうことなの? この子がバグらせているのかな?
後は戦場の影響でナンかの妨害系のスキルでも掛けられているの?
やばいって、何なのこの子? ラスボスかなんかですか?
私は全く動揺を隠せていないがそれでも相手は子供だ。
頑張ろう私、目の前に子供が居る。それだけで理由は十分だ。
「ぽぽっぽぽぽっ?(何処に行きたいの?)
「目的地のままでいい。コレは話したら帰る」
「ぽっ、ぽぽっ(そ、そう)」
そう言うので私はとりあえず目的地の物見櫓用の樹へと歩いて行く。
しかし、この子迷子じゃないし、私目当てみたいなんだけど
やっぱり外の〈第四勇者軍〉とか言う所の子なのかな?
私はトボトボとそのまま連れ添っては森の中を歩いて行くが
行くんですが……なんでこの子何も喋らないの?
え、話がしたいってそっちが振ったんだよね? 話題無いの?
受け身なの? 攻めか受けで言うと受けなの? 誘い受けなの?
いや、違う違う。落ち着け私、なんか艶めかしさから
変な方向へ発想が行ってしまう。そんな初対面な子に破廉恥ですわよ。
「ぽぽっぽっ、ぽぽぽっ?(怖くないの、私のこと?)」
「未知であり、不理解ではあるけど、コレが恐れる程貴女は強くない」
「ぽぽっぽぽっぽっ(そうですか)」
私が尋ねてみるときっぱりとした口調で帰ってきた。
コアタルちゃんもそうだが、この子も中々の鉄面皮というか
心の壁が厚い系だね。こんなので他の子と上手くやれてるのかな?
大変だよ、ぼっちって結構辛いよ? 食べていくのに困るんだよ?
うう、なんて声を掛けていったら良いんだろう。
そうこう惑っている内に大きなため息を一つこぼしていく。
え、私が悪いのかな?と内心焦っている間に
まっすぐに視線と顔の角度は変えずに独り言の様に呟いていく。
「コレは我が君の目の届かぬ所を見る役を担っている。
貴女はよく解らない。滅するべきか生かした方が良いのか」
「ぽっ、ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっ?
(あ、あんまし、物騒なのは駄目だよ?)」
「コレは正し――」
「ぽぽぽっぽぽっ! ぽぽっ? ぽぽぽっぽぽっぽっ。
(言い訳はダメ! 良い? 子供なんだから)」
私は立ち止まり、相手の顔を覗き込み両頬をぐっと抑えて視線を交わす。
うむ、どういう子か解らないけど、この子はこのままじゃダメだ。
無関係だし、私は親でもなんでもないけど、目の前にこんな子が居て
はいそうですかと済ませられたら、大人が廃る!
相手のリアクションはと言うと驚いたと言う程に形容出来るか解らないが
両頬を触られたときに僅かに瞳孔と瞼が開いた様に感じた。
うむ、瞳はくりくりしてて見ている分には愛らしい。
何処かお人形さんっぽい感じだが、ところどころ滲む感情の機微が
なんとも気難しい思春期感が出ていてグッと来るよ!
「コレを子供扱いするのか?」
「ぽっぽぽっぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽっぽっ。
(心配な子供に思わせる君は、大人じゃないよ)」
「貴女より強いぞ、コレは。その気になれば――」
「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっ。
(そんな気にさせるのも、そんな力を振るわせるのも大人じゃない)」
うむ。こんな可愛い子がなんか困っているのはダメだ。
私は化け物だけど、子供は見捨てられない。私は瞳を向ける。
こんな仄暗くて井戸の底みたいな淀んだ目なんだけど
それでもまっすぐ向ける。変なスキル発動しないでね?
目の前のこの子は少し苛ついたのか顎をくいっと上げては
私を見下したいのか口調をややキツくして返してくる。
うん、解りやすいツンツンモードだね。かっわいぃ♥
「我が君、銀仮面の君を愚弄するか」
「ぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ。
(仮に君の力が必要で軍隊に引き連れていたとしてもね)」
「しても?」
「ぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっ。
(その事実に哀しめない人は大人でも王様でも無いよ)」
「愚弄するな。………我が君はっ」
思わず激昂しそうになると喉を鳴らして、その怒りを飲み込もうとする。
目は睨みつける様に細くなるが、それでも顔は怒っているというよりも
何処か迫真めいているだけで、やはり感情の色合いが見れない。
ツーンっとしてるかボーーッとしているかフワフワしているか。
なんだか空気みたいに漂っている様できちんと存在している。
やっぱり、どこか俗世に居ない感が強いね。
「自己反省する。貴女には預かり知らぬ事だ。コレの話はもう良い」
「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ、ぽぽぽぽっ。
(大事な人なんだね、その人は)」
「だから、良いと言っている」
明らかに不機嫌とまではいかないが、自分の話を振られそうになると
話を遮ろうとする。なんというか自分の調子で話している時は
大変傲慢で機械的な物言いになるんだけど、自分のことが矛先になると
なんとも無防備であり、守り方が雑だ。多分、周りの評価なんて
歯牙にも掛けずに、自分が自分であること以外に興味がないのかな?
私はそんな子に対してそっと頭を撫でながらも微笑む。
ぎこちなく傾ける唇はどんな顔になっているやら。
水面で見た時はかなりの美人さんなんだけどね。
「ぽぽぽっぽぽぽっぽっ?(君は戦うの?)」
「今回は必要だから滅する。無論、貴女も危険なら滅する。
だから、コレの話は良い。貴女の話を聞きたい」
「ぽぽぽっ? ぽぽぽっぽぽぽぽっ?(どうぞ? 何が聞きたい?)」
「…………むぅっ」
なんだかこの子の瞳がきらきらと輝いている様にも見える。
気の所為? それとも何かスキルでも使っているのかな?
そして、話題を振っているのにこの子は押し黙っている。
うーんっと此処まで来ると何か制約的なものでもあるのかね?
それはそれで中々ままならないだろうから同情する。
「ぽっ、ぽぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ
(ま、そろそろ目的地にも着くから)」
「そうか」
「ぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽっ、ぽぽぽぽっぽぽぽっ?
(お弁当でも食べてゆっくりお話しましょ?)」
「…………………了承する」
避難先を教えて見せるのはとも思ったけど、どうせこの子は
満足するまで振り切れないだろう。いつの間にか居たという事は
いつでも私の傍に来れるスキルでもあるのだろう。
ま、ならば腹を割って戦とやらが何とかなればいいかな?
そんな安易で楽観的けど、それしか出来ない曖昧な気持ちで
私はこの子との対話を続ける事にした。
第九十六歩「名付け愛」に続く




