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第九十四歩「戦眺め」

「ぽぽぽっぽぽっぽっ?(此処かしら?)」

「そうですね。じゃあ、此処らへんにしましょうか」


 風雲急を告げる情勢。女子供は既に楽園にて避難済みだがそれでも怖い。

ワイバーンの群れの近くまで攻め入るのは流石に相手も怖いかもだけど。

ただ、そもそもワイバーンが居るのかも解らないけどね。

そして、老人達は牽制と為に出陣、実際に〘セイント・シール・エルフ〙は

老人達が子供や孫世代より戦闘力が二~三段階上で強いとのこと。

スルスミちゃんですら一段下だというのだからその力量はなんか凄い。

いや、私も実践で彼らが若返ってめっちゃ強いらしい[百英傑]を

翻弄しているのを見ていたがそれでも、実戦で殴り合った訳じゃない。


「……(てーか、そもそもただの女子である私に戦闘のどーのこーのが

    解る訳無いよね。この間初めて拳の握り方だって習ったってのに)」

「あ、もう始まってますね。見えますか?」

「ぽっ、ぽぽぽっぽっ?(お、どれどれ?)」


 そう、そんな緊迫した状況の中、私はイケヅキ君と一緒に


『ピクニックデートなぅ!』なのである!


 もう、なぅって古いのかな?

良いですか!? 見晴らしの良い丘の上で待機なんです。

当然、立ち尽くす訳にも行かないから今日は木の皮で作った広めの敷物を

持参しているのです。お弁当も食べる訳なんですよ。

お昼ごはん作ってられませんからね? こんなところで火起こせませんからね?

二人きり(タワラも合流したけど)でまったりと景色(戦場)を眺める訳です。

ほら、もうデートじゃん? ただのピクニックデートな訳ですよ。


実質デート二回目ですよ、先生? そろそろキッスとかあるんじゃないかなと

思わないでも無いが、そういえばほぼ初日で一回キッスをこなしているので

それから先はまぁ色々あるだろうか? まぁ、考えない様にしていく。

流石に真っ昼間から破廉恥想定はイケナイないんですことよ!


「ぽっぽぽっ……ぽぽぽっぽぽっ?(アレは……石投げてる?)」

「みたいですね。背負籠に沢山詰めてましたから

 ちょっとやそっとじゃ終わりませんよ」


 最初、そんなに投げて肩とか大丈夫と聞いてみると遠投用に〈スリング〉と

呼ばれるちゃんとした投石用の紐があるそうで、飛距離は凄いらしい。

試しに一個、目を凝らして追ってみるが軽く鳥とか撃墜しそうな位の

高さまでとんではなんか偉い勢いで落ちていく。アレは怖いぞ。

勿論、私自身も経験した狙いすました矢も怖いんだろうけど

狙ってるか狙ってないか、解らないのがバカスカ落ちてくるって

アレはアレでしんどい……って石投げも私経験してるか。


「ぽぽぽっー(おわっ、兵隊さんがぞろぞろと)」

「うーん、兵装がちょっとバラバラですから、まずは傭兵や民兵でしょうか」


 イケヅキ君の丁寧な解説を隣で聞きながらも木の実をぽりぽりと摘み

竹の水筒にはいった水を飲みながらも戦場を眺める。

うーむ、スポーツ観戦みたいな感じになっている。

本当はあのお爺ちゃん達も死んじゃう可能性は勿論あるのだけど

なんでだろう、あのお爺ちゃん達が死ぬ姿が全くイメージ出来ない。

今も大盾やら色々と持った兵隊さんにバカスカ石を投げては撃退している。

あの撤退っぷりからすると盾や兜相手でも石って結構痛いのかな?


「……ぽぽぽっぽっぽぽぽぽっ?(防具が効果ない?)」

「実際に兜を被っていても石の衝撃は来ますからね。

けど、即死と気絶位の違いは出ますよ。僕たちはあまり着けませんが」

「ぽぽーっ(へーっ)」


 そんな事をのんびり聞いているとふと後ろから草を踏む音が聞こえてくる。

最初はびくっとして背を屈めていたが、イケヅキ君は特に怯える事もなく

じっとその方向を見据えていると、ぽんぽんっと私の背中を手のひらで叩く。

大丈夫という合図なのだろうが、それでも恐る恐る顔と腰を上げていくと

何やら真っ白い……のだろうか? 白肌というよりも灰色がかった

くすんだ白に近い色の肌に、目元は切れ長の猫目の様で

瞳は水色になっていて、どこか人ならざる者の気配を感じさせる。

白い毛皮に身を包んでおり、中々の原始人っぽさがあるけど

エルフではないのだろうか? いや、耳はちょっと尖っているか。


「ぽぽっぽぽぽっ(あら、どちら……様?)」

「オオッ、見張リハオ嬢チャンヤネ。ウチヤウチ」

「……ぽぽぽっ!?(ワイバーンさん!?)」

「あ、こんにちはー」


【〈パーストポータル〉〘終焉に向かう正義〙より

 レガシーピース[正義の走狗]を獲得しました】


 おおぅ、色々と驚きびっくりが重なってるが一個ずつ整理しよう。

まず、なんか聞いたことある博多弁と私を見知っている様な調子は

恐らく、〈廃棄されし者の楽園〉に居た〘セイント・フリード・ワイバーン〙だ。

どの個体かは解らないがまぁ、少なくとも私とは面識のある成体の方だと思う。

そして、それがトリガーだったのだろうなんか[レガシーピース]が取得出来た。

余裕があれば早めに見ておきたい。今はどんな情報だって欲しい。


 さて、原始人スタイルな格好のワイバーンさんが私達を交互に見た後

口元を隠してくすくすと笑う。あの元の巨体と今着ている衣装からは

想像出来ないが意外と雅な立ち振舞をする。


「アラ、でーとンオ邪魔ヤッタカシラ?」

「あ、いえ。ちゃんと任務ですから!」

「ぽっ、ぽぽぽっ!(で、ですから!)」

「フーンゥ?」


 強い否定の言葉にん、んーー!な感じで一瞬身を引き締め直すが

よく見たら赤面をしているイケヅキ君なので心の中でガッツポーズをする。

にこっと笑う多分ワイバーンさんなお姉さん? 声からして女っぽいが

毛皮をすっぽり被っているので男女の性別がよく分からない。

うーんっと人間に化けられるという事だろうか?

龍って言うと結構万能に魔法や知識もあるってイメージもあるが

まさかワイバーンさん達がこういうのが出来るのは驚きだ。


「マ、エエカ。ドウナン? リトモ達ハ?」

「善戦している……でしょうか?」

「ぽぽぽっぽ?(でしょうか?)」

「……ナンカ、アンタ達面白カネ! サテ、ウチモ見ロウット!

ア、コレ貰ッテエー?」

「どうぞどうぞ」


 そう言って、私達を再度見てはにんまり笑うワイバーンさん。

敷物へとどかっと座り込んではあぐらを掻き、おでこの上に手を置いては

戦場へと視線を向ける。ほーーっと声を上げて観戦を満喫し始めれば

私達も同じく座り直す。木の実を勝手に摘みつつも後から了承を取る辺り

もう完全に行動がおばちゃんである。くそ、見た目は幻想的なのに

なんでこうも此処の世界の連中は妙に人間臭いのばっかりなんだろう。


「コウヤッテ低カ所カラ森バ見ルンモ久シ振リヤワ。

 歩クンナ疲ルーネ」

「今は流石に飛べませんからね」

「ぽっ、ぽぽぽっ(あ、お水飲みます?)」

「オ、気ガ利イトーネ。アリガト」


 なんだか、かなり馴染んでいるワイバーンのお姉さん。

元々喋りが気さくな傾向ではあったが、意外と人心掌握というか

空気の溶け込み方も上手い。手慣れているのは気の所為かな?

まぁ、イケヅキ君が解っていた様に〘セイント・シール・エルフ〙との

付き合いも大分長いのだろう。実際に楽園の方であまり絡みはなかったが

ワイバーン達からすればイケヅキ君達は孫や子供も同然ということだろうし。


「ぽぽぽっぽっぽぽぽっぽぽっ?(リトモさんって強いんですか?)」

「オゥ。リトモハ強カ! 正確ニ言ウト強ウ纏メルノガ上手カネ」


 そんな感じでワイバーンさんはしみじみと語り始める。

意外と最初は従順だったが、実力が大体解ると馴れ馴れしくなってくるとか

頼み事をするとあまり断れないので逆に周りの判断を尊重するそうだ。

私の場合はシステムさんのおかげで昔の姿を眺められるが

本来はこうやって口伝なり、何か残した書物とかなりで知るのだろうね。

そう考えると中々便利な反面、全部主観で見知ってしまうから

こうやった他者からの評価と言うのは意外と新鮮なものだ。


「オ、アレガ[百英傑]カ?」

「僕は見ていなかったので……〘ハッシャクサマ〙、どうです?」

「ぽ~ぽぽっぽっ。ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっ? ぽぽっぽぽぽぽっぽっ

(う~んっと。多分、ラナス君かな? 兎の獣人さんだよ)」

「ホー、小シャイトニ頑張ルネ、アン子ハ」


 リトモさん達が散々兵隊さん達へと投石をし続けていると

大盾を構えた背の小さくて青白く光る兵隊が隊列を組んで現れる。

以前、戦う事になってしまったラナス君だろう。私しか見たことがないが

あのスキルをポンポン使うとは思えない。と言っても情勢は変わらないけどね。

お爺さん達は一定以上から森を離れる事は無く、近くに来る兵隊には

切りかかったり、投げ飛ばしたりしているが、後方から石を投げるのは止めない。

すると奥から巨大な水球が浮かんで近付いてきた。

川の水を強引に巻き上げては段々とうねり昇る龍の形を取っていく。

これは以前来た[百英傑]の一人のコアタルちゃんかな?


「オ、アレモ?」

「ぽぽっぽぽっ(そうそう)」

「凄い水術ですね。あの水の量を操るだけでも大変だと言うのに」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽっ?

(なんか真面目だったけど、可愛い子だったよ?)」


 ふたりとも真面目になんだかスキルのことを見ているのに

私と言ったらただの第一印象の感想だけしか出てこない。

それを聞いたらイケヅキ君もワイバーンさんも顔を見合わせた後

笑い始めるしで、相変わらず私の三枚目っぷりが板についてきてしまう。

まぁ、そんな感じで戦場では水龍さんが水を吐き出しては

投げている石や投げ飛ばされた兵隊さんを受け止めたりと大活躍。

此処まで一進一退ながらもお爺ちゃん無双で戦いを維持していた。

私達も何処かあのお爺ちゃん達なら、それにきっと大事にならない。

抜けた緊張感が漂っていた最中、それは起きた。


「……っ!?」

「ホォッ?」

「………ぽっ?(えっ?)」


 次の瞬間、光の柱とでも言うべきだろうか。

天から一瞬大きな光が撃ち込まれたかと思うと後から周囲に炎が広がり

戦場の真ん中に大きな焼けた黒い痕が残されていく。まるで地面に

黒いスタンプでも押したかの様に綺麗な真円の形をした模様が色付けられる。

音は何も響かないので何らかの巨大な落下物と言うのではない。

一瞬、本当に刹那の瞬間にその大地は黒く焼けていたのだ。

目を凝らしてみているが舞い上がる炎とそれに伴う煙により

私の視力では細かい所の様子がわからない。


「アレハ[百英傑]カ?」

「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽっ。ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっ?

(私は、知らない。見たことないよ、あんなの?)」

「〘ピューマ・アイ〙! ……くっ、煙でよく見えない」

「ぽぽぽっ、ぽぽっぽっ!(私、見てくる!)」


 私は立ち上がり、現場へと向かおうと駆け出そうとするが

それをイケヅキ君に腕を捕まれ、そしてワイバーンのお姉さんに

がしっと腰元を掴まれたと思ったら、そのまま綺麗なバックドロップを

決められてしまう。ああ、ワイバーンのお姉さんの美しい姿勢は

なんか突っ込みたいけど、そんな事を言っている場合じゃない。

頭を地面に打ち付けられて若干クラクラするが起き上がる事は出来た。


「駄目です! 今、貴女が行っては!」

「ぽっ、ぽぽぽっ!?(だ、だって!?)」

「リトモハアン程度デハ死ナン。チャント待ッテナシャイ」


 慌てるイケヅキ君とものすごい低い声で私に語り掛けてくる

ワイバーンのお姉さんに思わず息を飲み、その場でへたり込んでしまう。

私は脱げた帽子を被り直しながらも、気が気じゃない時間を

刻一刻と不安と焦りが積もっていく瞬間を重ねていく。


そう、何処か他人事でさっきまで見てた戦場もなんだが

ゲームか映画みたいなそんな漠然とした何処か非現実な意識が

私の中に根強く残っていた。そりゃ、過去の凄惨な母子が

死に絶え続けていた場面も見てきたし

実際に自分も一度死に掛けていたのを生き残っては来ている。

だから……なんて言える程の根拠もない漫然とした

此処数週間の緩んだ気持ちからこのシビアな現実へと引き戻しに来る。


煙が徐々に晴れていくとイケヅキ君は再びスキルを使って

その戦場を注視していく。言葉を待つ。

嗚呼、この時間がなんて長いんだろうか。


「あ、戻ってきます! ええと多分、全員無事です!」

「追ウ手ハ来ンノカイ?」

「ぽぽぽっぽぽっ!?(大丈夫なの!?)」

「追っ手は来ないみたいですね。族長たちも普通に歩いて帰って来ます」


 その言葉に思わずイケヅキ君に抱きついて歓喜を全身で表現する。

その様子を勿論、ワイバーンのお姉さんは見ていた訳でハッと

気付いた時にはもうニヤニヤした顔になっていた。

くっ、これは楽園に帰ったら他のワイバーンにネタにされてしまう!

ただでさえ、あの飛竜達は話の肴が無さ過ぎて同じ思い出話を

ループする事があったくらいだ。


「……(違う違う、今はもっと真面目に考えないと)」

「マ、ソノウチ来ルヤロ」


 そして、半刻した後の事だろうか。お爺ちゃん達が

ぞろぞろと丘へと登ってくるが皆一応に晴れやかな表情だ。

なんか、顔とかまっ黒になっているが煙とかススの影響だろうか?


「イヤー、アレハ強カッタ。明日本格的ニ来ルゾ」


 まさか決戦の火蓋が切られる様を見る日が来ようとは!

(元)人間、生きてみるもんだね。

           第九十五歩「ラスボスとお忍びデート」に続く

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