第九十一歩「見出すモノ、見出されたモノ」
「よっと、では早いけど中止ーだよー。今度はリトモ君も混ざって貰うからね」
「「はーいっ!」」
二度目の[ゴーレム]との戦闘訓練はリトモさんの申し出と共に終わった。
若き日のリトモさんは丘から駆け下りて、疲れている者を労いながらも皆を集めていく。
色々と意見を聞いている様子できびきび動き、聞きまわっている様だ。
おお、流石のリーダーシップというかなんと言うか
さっきまでのふわふわした感じと違って、ビチッと律されてる雰囲気を感じる。
「っと、言わずにもう作戦会議中かなー?
じゃ、準備が出来たら3回目行くよー」
「「はいっ!!」」
私は丘の上でその様子を眺める事にした。
まぁ、降りれば色々と過程を聞くことは出来るのだけど、ほら。
なんか子供達がわいわいと企んで結果を見せるっていう過程素敵じゃない?
折角、何回でも聞けるんだし、こういう場面の初見の感動って
大切にしたいなと思うわけですよ、解りません?
【初回と再度再生時の変化する内容はありません】
あ、システムさんフォローすいません。うん、ちょっと違うんだけど
なんか声が聞けて良かった。それに下手に細かい違いがあって
再生周回をするハメにならずに済むね。少年少女エルフ達は
ワイワイガヤガヤと話し込んでいると何人かにグループを分け出した。
女の子のグループと男の子のグループ、後は気の弱そうだったり
疲れてへたり込んでいた子にリトモさんが率いる様な班に分かれていく。
「ロシカ様ーー! 始めて下さいー!」
「解ったー! いっくよー!」
三度[ゴーレム]は動き出す。両腕を振り上げて三回目の起動ポーズは
何の変化もない。さて、そして少年少女エルフ達は
いかにこの[ゴーレム]を倒そうってのかな?
私の回答としてはおそらく、ロシカさんは個人の能力による所ではない
攻略法みたいなのを見出すのが目的かなと薄らぼんやり思っている。
しかし、今までの流れで[ゴーレム]は頑張ればなんか倒せる方法があるにしても
単純に労力や危険性を排除してなんとかしてしまうというのは想像がつかない。
「男班、相手の右手前へ!」
「「おぅ!」」
リトモさんが大きな声で指示を出すと男の子の血気盛んそうな集団が
[ゴーレム]の前へと出る。真正面を向いていた[ゴーレム]はその動きを見て
大きく右腕を振り上げて振り下ろす。難なく避けていくが少年エルフ達は
特に攻撃をする事もなく、その動きを観察している。
「次、男班はこっちと其処の中間辺りで待機!
女班、相手の左足前! 踏みつけられない様に気をつけて!」
「「おぅっ!」」
「「はい!」」
あ、女の子と男の子で掛け声が変えているんだね。
なるほど、いざって時の聞き違いを避けるとは。地味に頭使ってるね。
少年エルフの集団が[ゴーレム]から少し離れると、今度は少女エルフの集団が
足早に[ゴーレム]へと近づいてくる。[ゴーレム]が腕を振り上げるより先に
足元にたどり着けば、何度か見た動作で[ゴーレム]は足を上げてそのまま
ストンピングをしていく。少女エルフ達は難なくそれを避けていく。
地面に穴ぼこを作っており、なんとも見てるだけでひやひやさせるよ。
「ふむ。……やっぱり子供の柔軟性は凄いね。多分、気付いてる」
「そうね。これは次の[ゴーレム]の準備もちゃんとしないといけないわ」
ロシカさんとリリーサさんは何かに納得し始めているのか
早くも次の算段を始めていた。ふーむ、連携の確認なのかな?
私はそんな感じでぼんやりと眺めつつも、リトモさんの指示は続いていく。
「男班! 投石開始! 女班、少し離れて、男班が終わった後、投石!」
「「おぅっ!」」
「「はい!」」
離れていた少年エルフ達は各々に片手に持っていた石ころを拾い上げて
投げ始める。それと同時に少女エルフ達は離脱しつつも、途中で石を拾っていく。
おお、此処からエルフ達の投石技の始まりだったのかな?
あのお爺ちゃん達の石投げっぷりはなんかすごかったからね。
びゅんびゅん飛んでたからほんっとこの頃からやってたのかも?
[ゴーレム]はその石に合わせて右手で首筋の宝玉を守っていく。
それが終わると今度は左側から来る投石に左手を翳して守っていく。
「男班! こっちに合流! 腕が飛んでくるからすぐ避けるぞ!」
「「おぅ!」」
「女班! 腕が飛んだのを見たら[ゴーレム]を取り囲んで!」
「「はいっ!」」
リトモさんの掛け声に誘導されて少年エルフ達はリトモさんの元に駆け寄る。
彼の声掛け通りに少年エルフとリトモさん達の班へと向かって
[ゴーレム]は右腕を投げて来た。事前に声掛けを終わっていたのと
彼らも慣れていたのであろう。特に慌てる事もなく綺麗に退避をしていく。
そして、腕が飛んでいる最中にぐるっと[ゴーレム]を取り囲む少女エルフ達。
腕が戻ってきた間に左手振り回してなぎ払い、戻ってきた右腕も
同じく薙ぎ払って暴れていく。少女エルフ達は最初から攻撃する気はなく
回避するつもりだったのか[ゴーレム]の打撃はどれも空を薙ぐばかりだ。
「……(あ、これはひょっとすると?)」
「よし、見立て通りだ!」
同じ様な誘導と[ゴーレム]の動作の確認が目的だろうか?
3班に分けられた少年少女エルフ達は近づいたり、遠のいたり、固まったり
そんなことを繰り返していくとリトモさん以外のエルフ達も勘付き始めた。
徐々に周りのエルフ達の動作も機敏に、そして大胆になっていく。
すれすれで避けたり、リトモさんに次の動作を確認したりする声も
ちらほらと聞こえてくる様になってきた。
「良かった。一番単純な奴を出したのだけど、解ったみたいで」
「[ゴーレム]には目も耳もなく、自分でモノを考えることが出来ない。
あるのは魔力や物体の動きを感知する〈ゴーレム・コア〉と
事前に組み込まれた動作の選択、実行判断をするだけですものね」
「……(なるほど)」
私が横で聞きながらもおおよその意図がようやく掴めた。
なんだかんだで私の予想は一部合っていたのだけど……そっか。
[ゴーレム]って言うけど別に魔法で生物を生み出してる訳じゃないんだね。
「……(あれはプログラミングされたロボットみたいなもんか)」
足元に居れば踏み付けて、少し離れていれば腕を叩きつける。
周りに群がれば腕で薙ぎ払って、遠くに離れれば密集している所に
腕を飛ばしていく。遠くから来るモノは〈ゴーレム・コア〉と呼ばれる
おそらく中枢の部分への防御を優先する。リトモさんは遠くで見て
それのおおよそのパターンを見て、今はそれの確認をしていたのだろう。
「そう、そして理屈が解ってしまえば、アレは良い玩具だよ」
その言葉通り、数分後にはあれだけ猛威を奮って暴れ回り
自分たちを追い立ていた[ゴーレム]をきゃっきゃとはしゃぎながらも
狙った動作を出す様にエルフ達は纏まっていく。
皆声を掛け合い、[ゴーレム]に狙った行動をさせたり
途中で石を投げては妨害しては相手が行動をリセットする様を見届ける。
「ほーれ、こっちこっち。あんよがじょーずっと!」
「―――!」
「次は踊らせましょ? ほら、右手を上げて! 次はひーだりって!」
「皆、当たったら痛いだろうから、それだけは気をつけろー」
「「はーい」」
[ゴーレム]は子供達に翻弄されるかの様にあっちへこっちへ右往左往。
石を投げては手を上げられて、足元に近寄られれば、足を踏み鳴らす。
あの岩の巨腕や大足の威力は変わらないが完全に慣れてしまった様だ。
もう、倒すだの訓練だのって空気ではない。
まぁ、エルフ達もなんだかんだまだ無邪気な子供でもあった様だ。
ソレに対して[ゴーレム]は疲れないし、おちょくられても怒らない。
自身の動作や相手に疑問を持たないし、誘導にも躊躇なく釣られてしまう。
こりゃほんとに遊び相手としてはサイズと危険性を除けば丁度良いね。
「おーい、そろそろ良いかなー? ま、倒さなくてもいいよね?
ここは“遊び倒した”って事にしとこうか」
「「はーい。ありがとうございました!」」
[ゴーレム]が動かなくなると同時に声をかければ
楽しげな元気いっぱいの返事が返ってくる。
名残惜しさもあった様だがそこら辺は皆、素直な様で引いていく。
なんだか公園で遊び回ってお母さんの声掛けで
散っていく少年少女の在りし日の姿を幻視してしまう。
カラスがカーっと鳴いたタイミングみたいな感じだ。
【チャプターの切り替え時間が迫っています。
次のチャプターシーンはそれから約一ヶ月後になります】
そんなシステムさんの以前にも聞いた声掛けと同じく
時間と場面は飛んでいく。場面場面で色んな[ゴーレム]が現れていた。
まず現れたのは筋骨隆々の石膏像の様なマッチョで
写実的なシルエットをしている。布一枚で胸元や陰部を
隠しているデザインになっているがあくまでアレは飾りなのだろう。
恐るべきは関節部だ。運動している時は折り重なった筋肉が表現された鉄板が
ジャバラの様に蠢いて体の動きを再現している。
これで男性像じゃなくて、敢えて女性像なのだから趣味の業が深い。
顔の部分にがっつり抉られており、そこに大きな宝玉が鎮座している。
髪の毛はまるで鉄の南京玉すだれの様にじゃらじゃらと靡いている。
「今日は拳闘奴隷の動きが入っている。
体は鉄製だから捕まえられたり、攻撃が当たるだけでアウトだ。
かと言って、硬いから石や弓は使えないって感じかな?」
「はい!」
その[ゴーレム]も関節の隙間に石を詰めたり、蔦の魔術で絡みつかせて
集団で引き倒したりと彼らなりの創意工夫で何度も何度も倒していく。
この辺りから魔術も使っているのだろう。動きも多彩になってきた。
その後、鎧を動かして盾と剣を持った甲冑騎士の様な[ゴーレム]を始め
色んな武器や戦術を駆使した[ゴーレム]との格闘戦。
ミイラの様に何やら文字の刻まれた布を纏っている人型に
いかにも魔法使いみたいなローブと帽子を装備して
宝玉を体に埋め込んだ[ゴーレム]と対峙すれば
ひたすら魔法でバカスカ撃ち込まれていくのを避けたり
人型に限らず、犬や蛇、トリの形をした[ゴーレム]達との
訓練がダイジェストの絵巻物の様に流れていった。
勿論、その訓練の多彩さもそうなのだが一番驚いた事は別だ。
「……(はー、どの[ゴーレム]相手も楽しそうにやってんねぇ?)」
ピッとステータスウィンドウで再生を一時止めていく。
どの場面でもエルフ達は皆ハツラツとした表情で訓練に挑んでいた。
それはそうだ。最初の岩の巨体の[ゴーレム]相手にあんだけ
遊び倒していたら、後から色んな[ゴーレム]を出されば
それだけ遊び方も見出せるだろう。次はどんな風に遊ぶか
どんな[ゴーレム]が出て、どんな攻撃をしてくるのか。
のびのびと体を動かして頭も使ってなんて健康的過ぎる。
「……(改めて恐ろしいよ、コノ二人は)」
隣に立って静止しているロシカさんとリリーサさんを眺めていく。
単純に二人に感じるのは感嘆と畏敬である。
彼らは戦闘訓練であり、教育でもあるこの一連の行為を
全て“楽しい学び”へと変えてしまっているのだ。
きっと少年少女エルフたちにとって[ゴーレム]との一戦一戦は
それは日々机に向かって教科書を読み、宿題をこなし
難問に挑み、正解すれば先生に褒めて貰ったり
テストで点数をとった優越感や達成感を味わっていく。
現代の教育環境で当たり前ではなく、理想的に実現させる事が
困難である“楽しくい学び”を見出している。
故に士気……否、モチベーションと言う方が良いかな?
それが物凄く高いのだ。多分、このエルフ達にいきなり
机に向かって読み書きをさせても此処までの集中力や向上心を
見せることは難しかったと思う。
「……(ちょっと羨ましいな。私もこういうのは学びたかったかも?)」
そりゃ、命からがら鉄やら岩の巨大なお人形と遊ぶのは怖いが
友達同士で知恵を出し合い、考え、圧倒的身体能力で試行を繰り返す。
そんなの楽しいに決まっている。連携も大事だから声掛けも良くしているし
リトモさんはやっぱりこの頃から皆の中心になって率いている様子が伺える。
なんというか、うん。何か私も機会があればこういうのをやってみたいかな?
この森の歴史的な事実としてもそうだが、子供が輝いている瞬間を
目の当たりにすると言うのはなんとも胸が熱くなり、心がほっこりする。
【警告します。現在、[パストポータル]展開中に侵入者を探知。
[レガシーピース]の観覧を視認されています。
[レガシーピース]〘小さき者の挫き方〙の再生を中止しますか?】
「……(え!? ちょ、待って!?)」
しかし、まさかの乱入者によって私のほっこりタイムは
唐突に終わりを告げるのであった。てーか、入ってこれたのかこの空間!?
第九十二歩「眺めていた者の想い」に続く




