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第九十歩「上に立つ者」

「はーい、一時中止ー! 怪我はないかなー?」

「ひぃひぃっ……疲れたー」

「あんなの怖いに決まってんじゃん!」

「いや、けど結構動きは鈍くないか?」


 散々っぱら追い回されていた少年少女エルフ達は膝に手を付きながらも

ぜぇぜぇと息を吐き散らしてくたばる寸前になっていた。

[ゴーレム]の襲撃はざっと数十分続いた。アレだ。

獣は諦めたり、その前に終わってしまうのだが、延々と疲労すること無く

目標に集中し続ける相手ってめっちゃくちゃ怖いんだね。

当然、[ゴーレム]は何で動いているかはよく解らないが

それはもう追いかけ回し、殴り付け、蹴り上げ

逃げようなら、腕をぶっ飛ばして追撃してくる。

それが淀みなく、休みなく延々と続く。これはこれでキツイね。


「ふむ。途中リタイヤも無いのは凄いね。

途中で殴られて気絶ってパターンで終わるかなーっと思ってたよ」

「無謀に手を出さなかったのも良かったですね。

 無理に攻撃して返り討ちパターンも想定していましたけど」

「皆ー! 無事で何よりだ!」


 丘の上からリトモさん、そして横からメガホンを借りて

まずは良かった点を列挙していく二人。ソレを見てはリトモさんも

まけじと口に手をおいては大声で話しかける。

確かに惨敗気味ではあったがそれでも褒められれば

少年少女エルフたちにも少し笑顔がほころんでくる。


「ま、最初から上手く行くとは思ってないさ。

 さて、リトモくん?」

「はい!」

「上から眺めていて次に彼らはどうしたら良いかな?

 勿論、君が参戦するのは抜きでね」


 お、此処でロシカさんがリトモさんに課題を振って来た。

ま、どうこうなるもんでもないが折角なので私もこのクイズに

便乗してみるのも良いかも知れない。正解の方向を導こうとしてるんだから

思考を沿う行為だって無駄にならない筈だと思いたい!


「うーん。そうですね。少なくとも身体能力では

 自分たちの方が圧倒していました。ただ、やはりあの巨体は怖い。

 岩の塊が飛んでくる訳ですからね」

「ふむふむ、其処まではいい調子だよ」

「やはり、恐怖の克服が一番でしょう。幸い、慣れた子も居ます。

 それらで纏まって対処させて見て、その子の経験を伝播し

 徐々に連携を増やすと言うのは如何でしょうか!」


 おお、少年期のリトモさんらしい勇気とガッツと行動力で

なんとかしようってパターンか! それはそれで王道なのかな?

手本が見れないなら受けている者達でお互いに反省し合うってのは

王道と言えなくもない。誰かに教える事で理解が深まるってのも

まぁ定石だったかな? なんか漫画で読んだ記憶があったりなかったり。


「うーん、それ自体の心意気は買うけど、消耗が怖いね。

 リトモくん? 勇気だけでは相手は殺せないし、戦は勝てない。

 まして、全員無事に生き残るってのは中々に難易度が高い」

「む、そうですか。至らずすいません」

「いやいや、至る様にしている過程だからね。

センスは悪くないよ? うん、ほんと」


 ロシカさんも教えるのが慣れているとはとても言えないのか

何処か及び腰ながらもリトモさんに声を掛けていく。

わたわたしている感じがなんだか新任の教師みたいで可愛い。

ロシカさん自身も試行錯誤の道半ばなのだろうか?

うむ、こういう高め合っている系の流れって嫌いじゃないわ!


「だから、もう一度やるから見ていてくれ」

「はいっ!」

「ヒントがないと言うのは些か子供相手に大人げないですロシカ。

 確かに考えることは大事ですがあくまで答えを導くのが目的です」

「それもそうだね。うーんっと」


 さて、そんな青春群像の一ページみたいな素敵展開に

バケツで水をぶっ掛けるが如く、冷徹な視線と表情で

水を差すどころか放水する勢いのリリーサさん。

相変わらずのサディスティック空気ブレイカー気味なお人だ。

それを突っ込まれるとふむっと頷いて天を仰ぎ

思考に集中するロシカさん。その様子をリトモさんが

眺めている間に私もちょっと考えてみようか。


 例えば、これがアクションゲームだったら、腕飛ばしに誘導。

隙が出来たときに背面なんかが攻撃ってのが

動画サイトの実況プレイとかでよく見るパターンだ。

ただ、問題はあれって当たって死んで覚えてパターンを体に

叩き込んで対処するってのが地道な訓練になるけど、此処では無理。

彼らが一度死んでは生き返らせる訳にもいかない。大怪我もダメだ。


「……(まして、ゲームと違って流石に一瞬で体力回復は……出来る?)」


 少し思考はズレるがロシカさんの賢者としての能力はまだ解っていない。

〈ケイオス・タール〉作成と今のゴーレム起動位だものね。

なんか、端々に賢そうなイメージは漂っているけど

実際にこの森まで名を轟かせている彼の偉業って何があったんだろう?

うーん、まだ生きてるのかな? ま、向こうは初対面なんだろうけどね。

どんな人なんだろう? エルフ達と接してる時とは違う顔なのかな?

あんまし、演技してる風には見えないんだけども。


「リトモ君。僕はこの[ゴーレム]が弱いとか強いとかじゃない。

 今回の訓練に最適だと判断して使用している」

「はい!」

「良いかい? 対処と言うのは“万全で”とか“誰かが居て”じゃダメだ。

 勇気や余裕のある子が摩耗してとか、体調が悪い子は後ろに下がってとか

 戦場じゃ一々そうも言ってられない。誰しも恐怖に震えるし

 最前列に膝を震わせて顔が青ざめている子も居る。

 それでも全員使って勝つか生き残らなきゃならないんだ」

「む……そうですね」

「怖がらせ過ぎです」


 ゆっくりと諭す様に話し掛けるロシカさん。

うーむ、これは戦場でもそうだけど、普通に仕事場とかでもそーだよね。

事故とかハプニング、あるいは体調だってあるんだし一事が万事

上手く行っているパターンなんて方が少ない。

そう考えると色々な事が起きる可能性がある中でロシカさんの目標は

とてつもなく、理想的でハードルが高いイメージだ。

リトモさんもソレに納得したのか更に眉間の皺が深くなる。

嗚呼、この少年の皺があの含蓄ある老人の皺になるんだろうね。

そして、真面目な事を言っても水を指してマウントを取るリリーサさん。

この二人の関係性は未だによく分からない。恋人って訳でもなさそーだし。


「ま、焦ることはないさ。幸い予定は未定、日取りは決まってない」

「急いで良いことは余りありませんよ」

「そうですね……次はもっと見ないと」

「だね。さて、君たちー。休み終わったら作戦タイムだ。

 どうするか考えて話し合って纏まったらもう一回行くよー」

「「はーいっ!」」


 その場で胡座をかいて座り込み、腕を組んではまるで座像の様に

動かず考え始めるリトモさん。それを見てはロシカさんは

再びメガホンを使って少年少女エルフたちに声を掛けていく。

ふむ、次が始まるまでちょっと下に降りてみよう。

流石にあの[ゴーレム]が暴れまわっている内は怖いけど

よく見ておきたいし、彼らの作戦会議もちょっと聞いてみたい。


「……(ふーむ、あ、近くで見ると紋様みたいのが入っている。

    関節の継ぎ目っぽい所には小さい宝玉が埋め込まれてるね。

    頭の奴と一緒なのかな?)」


 なんだか血管とか神経みたいにゴーレムにはうっすらと文字というか

模様に近い線が入っていた。おお、これが魔法陣とかそーいう奴かな?

うーん、磁石みたいに宝玉同士がひっついてるって考えると

案外構造は単純なのかもねー。いやー、凄いな魔法って。

こんな大きな岩を動かしちゃうだからね。私は見上げながらも

今度は少年少女エルフたちの作戦会議を盗み聞きする。

まぁ、別に隠れても盗んでも居ないんだけどね。


「うーん、陣形だっけ? そういうの組んだ方が良いのかな?」

「包囲とか? けど、薙ぎ払われね?」

「男が前で止めて、弓で〈ゴーレム・コア〉だっけ? アレを狙うとか?」

「いや、弱点だけど、その対策位はしてそうじゃね」

「試してみるのは良いんじゃない?」

「しっかし、誘導とかどうするの? 誘って見ても全然ダメだったよ?」

「誘い方が悪いんじゃない?」


 こっちはこっちで活発な議論は学級会みたいに話し合われていた。

なんというかリトモさんがバシバシリーダーシップを取っていたので

こういう話し合いをする様子と言うのは結構新鮮だ。

スルスミちゃんやイケヅキ君達に引っ張られている現代少年少女エルフも

そうだがエルフと言うのはこうリーダーに付き従う性質でもあるのかな?

アリとか蜂みたいなってのは悪いがそういう意味でリトモさんを離したのは

結構正解だったのかもしれない。多分、リトモさんが居たら

さっきの彼が発してた内容でそれなりの役割の割り振りとトライ&エラーで

なんとかしてしまったかも知れない。うーむ、考えてるなぁ、皆。

それと〈ゴーレム・コア〉って単語が何度か出て来た。

言葉の出た流れ的にあの首にある宝玉で多分弱点だろう。


「ま、何にせよ一度やってみよう。怖いなら怖いで良い。

 ただ、声は掛けていこうか。わーきゃー騒いでも仕方ないし」

「そうだね。他の皆は?」

「大丈夫ー」

「じゃ、始めて貰おうか。リトモ様ー、準備出来ました」


 そう言って、大きく手を振りながらも声を上げるのはシツネ君だ。

リトモさんほどに積極的に取りまとめた感じではないが

良く皆の言葉を聞いて誘導していった感がある。

意外とこの子もやるというかこの血筋凄いな。

あるいは英才教育じゃないけど小さい頃から教え込まれてるのかも?

他の子も一同纏まったのか立ち上がっていく。


「よーし、じゃあ起動するよー。怪我も無理もダメだからねー」

「「はーいっ!」」


 そう言ってロシカさんがメガホンで応えている間に私は再度

えっちらおっちらと丘へと上がっていく。

リトモさんはさっきの座り込みを止めて、ふんすっと鼻息荒く

眼下を見下ろしていた。こっちもこっちで気合十分だ。

そして、再び[ゴーレム]の大暴れが始まる。大きく腕を掲げた後

エルフたちを追い回してはその巨大な腕で殴りつけていく。

最初エルフの巨体に慣れた子達が石刀を構えては受け流そうとするが

岩の質量と力に押されて、ソレどころではない。

刀が折れた子もおり、顔が青ざめている。それでも身体能力に任せて

腕を封じ込めようと上に乗ってみたりするが[ゴーレム]は一切

痛がったり邪魔に感じる様子もなく、黙々と殴り続けていく。


「……(お、弓を出してきた)」

「射って見るから一度離れてーーー!」

「「あーい」」


 緊張感の無い返事が[ゴーレム]に近づいていた組から離れると

石の矢先を付けた弓が数本射られている。流石の命中精度と言った感じで

まっすぐに首辺りに着いている緑色の宝玉を狙うがあっさりと

腕で防がれたり、体を軽く揺らしてはその矢を別の硬い岩の部分に当てていく。

一応弱点剥き出しな部分への対処は解っている様だ。

その矢を弾き返すと、お返しと言わんばかりに[ゴーレム]は腕を飛ばして

弓を放っていた集団へと叩き付けていく。避けるのには難は無いが

それでも抉れた地面を見れば、足早に去る速度も上がって見える。


「ね、色々やってみるのも良いんだけど失敗や上手くいかないってのは

 動きと気持ちを鈍らせるもんなんだよ?」

「なるほど」

「誰だって失敗したくないし、もし失敗した時の怖いイメージって

 中々消えなくなるからね。怖がっていても殺されちゃうのが難しい所だ」


 そう、ロシカさんの言うとおり少年少女エルフ達の動きは

当初は試行錯誤を見て取れたがすぐに疲弊と恐怖が伝播していったのか

段々と一回目の展開と同じ様になってきていた。

それに反して[ゴーレム]はめげない、挫けない、疲れない。

終始元気一杯だ。それを睨み付ける様に観察するリトモさん。

少年少女エルフ達も結局は一回目と同じく疲れ、怖がりバラバラに逃げていく。


「……ぁ、ちょっと解ったかも知れません」

「お、良いね。ま、後は確認だね。終わったら聞かせて」

「はい。次は自分が指揮を取ってやらせて下さい」


 お、そしてこっちはこっちで何やら確信が得られた様だ。

さて、どうやってあの[ゴーレム]を倒すのだろう?

           第九十一歩「見出すモノ、見出されたモノ」に続く

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