第八十九歩「小さき者達の挫き方」
「避難はどうですか?」
「ウム。モウ皆ハ出テオル。最後ハワシ等トオ前サン等二人ジャ」
私とイケヅキ君がエルフの里へと戻ると、其処には一切合切の家財を
引き払い、エルフの気配が殆ど無い状態になっていた。
家の戸は締まっていて、気配が殆ど無い。ゴーストタウンの様な状況に
残っていたリトモさんと他ご老人達がわいわいがやがやと
火を囲んでは何やら地図を取り出して話し込んでいた。
「族長達は?」
「明日、ケシカケテ様子ヲ見ル。本気ナラバ戦ウジャロウガ
アクマデ建前ナラ話ノテーブル二モ付クジャロウテ」
「ぽぽぽっぽぽっぽっ?(無理して怪我しないでね?)」
イケヅキ君の質問への返答で私達二人にも緊張が走る。
うむ、専守防衛って縛りが無いものね、このエルフ達には。
しかし、このお爺ちゃん達は強いのは以前の闘いで知ってるけど
アノ数をどうにか出来るというのだろうか。流石に私も不安になってくる。
一応心配の声を掛けてみたのだが……その後は一斉に老人たちは押し黙る。
あれ、私なんか失言しちゃったかな? これは不味かった?
「ハハハッ。コリャ参ッタゾ!!
生キテ帰ッテ来テ当タリ前トハ、オ嬢チャンハ解ッテオルワイ」
「アハハハッ、ジャナァ? コリャオチオチ死ンデラレンゾ」
「マ、アンナ若造共二怪我ナドサセンワイ」
「……(あ、そういう意味ではないんだけど……ま、いっか)」
そんな風に重く考えていると肩を震わせていたのか
族長の笑いを口火に老人たちが笑い転げていく。
あら、決死隊な勢いだったの?いや、ごめんなさい。
私の想定が大分温かったみたいなんだけど、逆にご老人たちのツボに
ハマってしまった様だ。よし、此処は流れで笑っておこう。
私も軽い作り笑いを見せつつもその場の皆でひとしきり笑った後
老人たちはそれぞれの持場や作業へと戻っていく。
「ぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっ?(私、変だった?)」
「あはは、まぁその。うちの里の人はあんまし他者の心配をされるのは
慣れてないんですよ。自分たちでなんとかしちゃうんで」
「ぽぽぽっぽっぽぽっ(そういうものなのね)」
軽く納得をしつつも私はそのままイケヅキ君の家と言うか小屋へと
お持ち帰りされる。いや、思ってみただけなんだけどね?
その単語のニュアンスの違いによる、微妙な興奮と陶酔感は認めて頂きたい!
私は心の中で力説しながらも、現実はお片付けと言うか夜逃げ準備を手伝うのと
今夜泊めてもらう為にお邪魔する事になった。既に私との小屋での同棲や
〈廃棄されし者の楽園〉での治療の日々の為に生活用品を動かしていた為
本当に小屋には最低限のモノだけしかなく、明日タワラに積み込む分を
荷造りするのはあっという間に終わってしまう。夕餉は久し振りに
あの芋と豆の粥だったがそれも一緒に食べていく。
「あ、寝る場所は姉さんの所で。サイズはちょっと足りませんが」
「ぽぽぽっぽっー(ありがとー)」
「まぁ、また戻って来れると……そうですね」
うむ、久し振りに食べるこの芋の甘味と豆の甘味ともうなんか
練り込むだけ練り込んだ香ばしさとネチョネチョ感溢れるお粥の味。
最初はコレに加えて、筍をいかにして上手く煮るかの試行錯誤だったんだよね。
今は毎日ほぼあの肉スライム三昧で脂ギッタギタのテッカテカだけど
なるほど、アレとこれでバランスを取ると考えると頷ける……かな?
甘味は欲しいもんね。塩気はもっと欲しいけど。
さて、私も不安になってはいるがお姉さんが不安がっていたら
子供に不安が伝染しちゃうからね! スマイルスマイル!
私は終始ニコニコしたまま、夕餉を終える。お片付けもシッカリ!
ゴミも明日埋めれば良いし……うむ。いよいよ避難生活か。
と言うか、戦って言うけど本当にどうするんだろうね?
漠然と戦うという事だけ聞かされていたがさっぱり実感が沸かない。
「それじゃ、明日は早く出ると思います。
今日は早めに寝ましょうか」
「ぽぽぽっ(はーいっ)」
まぁ、兎角幾ら不安になったところで夜も更けるし、朝日は昇る。
私達は揃って水瓶の水で口を濯いだ後にそれぞれの藁ベッドで就寝する。
窓や戸は閉められて小窓から僅かに入る月と星の光が僅かに部屋を照らす。
イケヅキ君の寝床は小さい感じでなんともミニチュア感があるが
私は元々スルスミちゃんのモノだったので、胎児の様に体を丸めて
寝る事になった。うむ、久し振りに体のデカさが不便に感じたよ。
下手すると此処に来て初めてかも知れない。
そう考えるとあの小屋の作りは妙に大きかったよね。なんでだろ?
「……(ま、それは良いや。イケヅキ君は寝たかな?)」
月明かりから僅かに見えるキューット(力強く発音)な寝顔を
ちら見しては寝息を立てている様子……たまらねぇぜ。
って、違う違う! そうじゃない、私! 落ち着こうか私!
貞淑に! 貞淑に[レガシーピース]をご覧あそばせますのよ!
システムさん、ステータスウィンドウをオープンであそばせ!
【[パーストポータル]〘隠蔽されし森人の罪〙を展開します。
[レガシーピース] 〘小さき者達の挫き方〙を再生します。
舞台展開中。現在時刻より地球時間200年程遡ります。
詳しい年月日等は現段階では特定出来ません。
現在、データを読み込み、構築中です】
お、この流れとしては以前のお話の続きかな?
うーんっと出稼ぎ傭兵になるよって話だったっけか。
私がステータスウィンドウを開いて、[レガシーピース]を
展開し始めると以前の[レガシーピース] 〘混沌に染められる日々〙と
出だしは同じ様な感じがする。意識はブラックアウトして
まだ、緑に生い茂っているこの森の過去の映像と共に
ロシカさんとリリーサさんとリトモさん世代の少年少女エルフ達が現れる。
皮膚は黒く変色し始めており、〘ヒビ割れ〙の侵食加減も
大分濃くなっていた。場所はやはり、この[レガシーピース]を入手した
ちょっと小高い丘……だろうか? 昼間に見たときよりも少し低い気はする。
年月の経過の影響で高くなってたのかな? 丘って高くなるもんなの?
「……(ま、それは良いか。……てっか、うわぁああ。おっきい!?)」
私は段々と展開されていく景色と人物達を見やる中、突然現れる
大きな岩の塊……いや、人の形をしている。これはアレか!
私でもちょっと解るぞ。[ゴーレム]って奴だ! 多分そうでしょ?
もしくは土巨人とか土の精霊とかそんな感じ?
手足は太い石柱の様になっており、頭は無くてずんぐりむっくりな体型。
首の部分にいかにもなでっかい水晶玉みたいなのが嵌められている。
解りやすいな! あそこ叩いて下さいって言ってる様なもんじゃん!?
【データ読み込み終了。この[レガシーピース]は
ダイジェスト形式で数年の経過を要所要所で
お伝えする形式になっています。再生を開始しますか?】
「……(お、今回もダイジェストパターンか。お願いー)」
【[レガシーピース] 〘小さき者達の挫き方〙の再生を開始します】
今回もダイジェストということはまた前みたいに
過程を見せてくれるのかな? そんな風に考えていると
以前も持っていた木製メガホンを片手にロシカさんが話し始める。
丘の上に立っていて少年少女エルフたちよりも少し高い位置に居る。
少年少女エルフ達とリトモさんやシツネ君は各々に武器を持っている。
ま、此処までお膳立てされれば察しはつく。戦闘訓練って奴かな?
「はーい。ではこれより対[ゴーレム]用の実地訓練を始めます。
一応、怪我をしない程度には強さは調節してますがそれでも
事故は起こります。その際にはお互い助け合いましょう」
「「はい!」」
「よーし、元気の良い返事ですね。良いですか訓練や練習の時
出来ないモノが本番で出来る訳がありません。
本番で訓練通りに動く為にこういった訓練を設ける訳ですからね」
私の想像通り、そしてロシカさんはそれでも丁寧に
エルフ達へと提言している。他の教育者や機関が
この世界でどの位の水準や思想で教えているか解らないが
それでも教本を読んでこの機会のために勉強したのだろうと
思える程度にロシカさんの発言はしっかりしていた。
うむ、なんだかインテリそうな見た目の割にこういった
部活動の指導みたいなのが妙にハマるね。
「あ、それではリトモ君。君はこっちへ来て」
「は、はい!!」
そう言ってリトモさんだけ呼び出されると丘の上で
ロシカさんやリリーサさんと並んでいく。
お、それじゃ私もこの際、丘の上から眺めてみるのが良いかな?
流石に他の子達と一緒の視点だと意図がわからないからね。
リトモさんと一緒。まぁ再生映像だから一緒も何も無いんだけど
私はロシカさん達と並んで身構える少年少女エルフ達を見下ろす。
「まずは最初に君達が思い思いにやってみてね。
はい、それじゃ訓練用[ゴーレム]君一号始動ーーー!」
「――――!!」
両腕を大きく振り上げて起きてますアピールをする[ゴーレム]。
じーーーっと腰を屈めて行く中、ロシカさんはなんだか緑色のオーラを
纏ってはそれと同時に[ゴーレム]の首にある水晶が光り輝く。
あのなんかぽわーんっと光っているのが魔力で[ゴーレム]を
動かしているっていうのがシンプルな推察かな。
しばしの時間、武器を構える少年少女エルフ達とのにらみ合いが行った後
[ゴーレム]は動き始める。それにびくっと震えては距離をジリジリと縮められる。
「きゃっ!」
「くっ、流石にでっかいな!」
[ゴーレム]は大手を降っては地面を抉る様に薙ぎ払ったり、
上から叩き付けたり、それも動作としてはそんなに早くはないのだが
それでもその巨体の圧殺される雰囲気とイメージからか
エルフ達は中々攻めきれて居なかった。
散り散りに分かれて行くが特に陽動などに引っかかる訳でもなく
手近なものからガンガン両手を叩き付けていっては逃げられる。
「――――!!!」
「っ! ぶん投げて来るのか!」
「……(おお、腕飛ばしてきた! ロボットみたい?)」
どういう原理か解らないが大きく腕を降った後、その大岩で作られた
巨大な腕がそのまま少し離れていたエルフ達の集団へとぶっ飛んでくる。
足が竦んでしまった子を引っ張りながらも逃げ回っている。
その当たった腕はふよふよと浮きながらも元の位置へと戻っていく。
少年少女エルフ達の身体能力は[ゴーレム]より高く、ひょいひょい避けていくが
やはり慣れていないのか、防戦と回避一辺倒になっていた。
「むっ! コレは中々!」
「そう、戦場で[ゴーレム]が重宝される理由はこれ。
単純にでかくて、固くて、しかも材料が安い。何体も作れる。
術式は多少難しいけどそれ専門で学べば、習得に時間は掛からない」
「流石に遭遇戦や合戦では中々運用されませんが
攻城戦においては無くてはなりません」
ロシカさんがリトモさんに対して講義を始める。
なるほど、まぁーこんなのがぼんすか並んでお城に攻めてきたら
そりゃ大変だろうね。ただ、建築とかも結構楽にはなりそうだけど。
傭兵って事だからそりゃお城攻めたり守ったりってのが多いのかな?
後は大人数でばーーっと平原とか丘とかで戦う戦国時代の合戦的な?
今、目の前で行われているのはただただ、突然現れた巨大な岩人形に
翻弄されて追い回されている少年少女エルフ達の姿でとてもじゃないが
戦うと言った光景というかそもそも光景に見えない。
「良いかいリトモ君? 所詮、どんなに強い個体になっても限界はある。
[ゴーレム]だけじゃない。[飛竜]もいれば、[巨人]や[鬼]も居る。
特にデカイとか速いとか硬いとか一定水準を越えると対策が無ければ
手も足も出ないってのはよく分かるだろう?」
「しかし、我々は知恵ある故に学習する、対策する者です」
「ふむ。なるほど」
ロシカさんの言葉にイメージしてみるがもうなんかモンスター大合戦な
戦争風景がばーーっと頭の中に広がっていく。これ大変だろうね。
よく人類生き残ってるな感満載のイメージが浮かんでくる。
実際にワイバーンも見ているのであんなの頭の上飛んでくる中
戦うってもうどうしたら良いんだろ? 弓矢で落とせないよね?
当たるのか、あの硬そうな鱗が貫通出来るのか。
リトモさんも現実としての動きを見て額に手を当てている。
「さぁ、リトモ君。今日から君がこうやって一歩後ろに下がり。
最善を尽くし、知恵を振り絞って指示を出すんだ」
「自分がですか!」
「そうだよ。君がリーダーで指揮官だ」
「……(無茶振りだな、ほんと)」
そして、当然の流れながらやっぱりリーダーはリトモさんで
この少年少女エルフ達をまとめてなんとか勝ちましょうな流れに
なっていく。当然、ある程度予想はしていたがいざ振られると
強張った顔になっているリトモさん。まぁ、そうなるよね?
「てっきりロシカ様が指揮を取るのかと。
そうですね……自分が突っ込めば活路が――」
「ダメ。個々を無理させて怪我させていたら
戦力が目減りしてどんどん死んじゃうからね?
君を含めて、全員無事なのは絶対。それでも頑張れば勝てるよ」
てリトモさんは勝てる様にどうやって勝てる様になるのかな?
第九十歩「上に立つ者」に続く




