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第八十八歩「大きなのっぽの木の上で」

 森の外に陣取っている〈第四勇者軍〉なるヒャッハーな皇太子様率いる

軍隊を丘の上から眺める私とイケヅキ君。しかし、その見つめる先には

相手方からも監視されるスキルがあるらしい。

大慌てで手を引かれて伏せてはすごすごとその丘から退散する。

そして、その退散する過程、私〘八尺様〙に衝撃が走る。


「……(こ、コレは!?)」


 そう、私は少々油断していた。怠惰に堕落してしまっていた。

全く、なんてことだ。しばらくの間、まったりと少年少女エルフ達と

隠れた楽園にて食っては運動する日々を過ごすなんて

いかにもリア充(少し古い?)経験してしまった所為なのかな。


そう、何を隠そう私はイケヅキ君とこの森の中で

見晴らしの良い場所を教えて貰っている。

流石に森が戦に巻き込まれる関係でいざという時に

逃げられる事への配慮と言う実に現実的で理の適った行動だ。

実際に丘の上からの見下ろしも良いし、今から向かう木は

なんでも物見櫓代わりとして一本だけ高く伸ばしている木らしい。

だが、違う。そんな事はどうでも良い。もっと重要なこと、それは!!


「……(アレ、これってイケヅキ君とデートなんじゃね?)」


 YES! That is Collect!(発音重視) そうだよ、私!

デートじゃん! 今はタワラも居ないし、景観のいい場所を

二人きりで歩きに行くってほぼ、デートじゃん!

そりゃ、自分ちの庭みたいな森の要所を案内されてるだけだけど

なんか女子的にこれデートで良いよね? ダメなの?

もう、天使みたいなエルフの美少年ショタとデートですよ、ねぇ!?

その事実、興奮の前に如何なる正論や現実など無意味だよ!


「随分、ご機嫌ですね」

「ぽぽぽっ……ぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっ~

(久し振り……いや、初めてかもだからねぇ~)」

「ん? ああ、えーとああいう眺めを見るの好きなんですか?」

「ぽぽぽっぽぽっぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽっ?

 (それもあるけど、まぁ色々と気晴らしにね?)」


 私の機嫌の良さを見抜いたのか若干不思議そうに私を見つめる

イケヅキ君。なんだか、熱視線な気配を感じてしまい私の胸も

高鳴ってしまうわけですよ、きゃーきゃーな訳なんですよ。

森の中をのんびりとエスコートされながらも

ゆっくりと話すのは久し振り。この間まではペット同伴とは言え

二人屋根の下で過ごしていたと言うのに。


いや、そもそも言ってしまえば私はこの間まで

ろくに記憶もなく、日々を生きることすら必死で駆けずり回っていた

ただの化け物だった訳だ。それがなんとかこうやって

まるで森の一員の様に扱って貰える。進展の幸福を噛み締められるね。


「僕達は見慣れている景色でしたがあの砂浜は息苦しかったですか?」

「ぽぽぽっぽっ。ぽぽぽっぽぽっ。ぽぽぽっぽぽっ。

 ぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっぽっぽぽぽっぽぽっ。

 ぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽっ~。

 (ううーん。そんな事ないよー。あそこも素敵。

  ワイバーンさん達に一度連れてって貰った夜空も素敵。

  此処は本当にドコも綺麗な所だねぇ~)」

「そうみたいですね」


 私のちょっと熱っぽい弁明に苦笑から釣られて微笑へと変わる

イケヅキ君のエンジェリックエルフスマイルはきゅんきゅんします。

再度、種族を超越してた気がするがそんな事は瑣末事よ!

そうこうしているうちに巨大な針葉樹らしき木の根本へとたどり着く。

なんだか、太い荒縄がぐるりと巻かれているので御神木感を

醸し出しているが、イケヅキ君の登る姿を見て理由がすぐに解った。

アレに足を掛けて、登っているのだ。ある程度登った後

私用に縄を垂らしてくれる。私はそれを体に結った後に

同じ様にその御神木っぽい木へと登っていく。


 初めて見た頃から思っていたがやはり此処の木々は

ものすごい成長をしている。若木であろう木も普通の街路樹とかの

数倍もアリそうな位に成長をしていたし、今登っている木なんて

下手したら高層ビル位はあるんじゃなかろうか?

種明かしとしては〈骨の柱〉を日々砕いているワイバーンさんが

空から肥料を何年も撒いている故という事だった。

理由も解らないがそれでも現実としてこうやって

私の既視感に比べると規格外な大きさに育っている事から効果はあるのだろう。


「後、ちょっとですよー。いつでも登れる様に縄は付けておきますので」

「ぽぽぽっぽっー(ありがとー)」


 登っている最中にイケヅキ君は枝と枝の間や巻きつけられた荒縄に

補助用の縄を括り付けている。なんというか本当に気の利いている子だ。

こう思うのは何度目だろう? こんな腰ほどにしかない背の丈の男の子が

動物を狩り、皆をまとめて、家事なんかもかなり高いクオリティでこなす。

私みたいな化け物の姿をした女にも優しくしてくれる。

再び彼の手を引かれて私は一番上へとたどり着く。

そこは木の板が括られており、人が2~3人滞在出来る程度に

スペースが確保されていた。


「ぽっー、ぽぽぽっぽっ(はぁー、これはまた)」

「さっきのは丘は森の外を見る感じでこちらは森全体を眺める様に

 作られてます。なので逃げる方向とかも解りやすいかと」

「ぽぽぽっぽっ(なるほっどねー)


 私は怖くて、命綱を離せなかったがそれでも其処から広がる

天望は中々に見応えのある雰囲気だった。

真っ白い木々を眼下に眺め、青い空に流れる白い雲に陽光を注ぐ太陽。

しばらく白い草原が続くとグラデーションの様に

普通の草の緑の色合いが移り変わっていって此処の異彩さを演出する。

観光名所って感じがするのは確かだ。

一瞬、『此処には[レガシーピース]が無いのか』と無粋な思考が

頭を過ぎって行ったが刹那に忘れてしまう。


「戦……始まるんでしょうね」

「ぽぽっ、ぽぽぽっ(そう、みたいね)」


 私がその絶景に心を奪われていた中、イケヅキ君のつぶやきに

私は現実とともに先程の眼下の先にあった軍隊の陣営を見る。

人が行き来したり、隊列を組んでみたり、何やら訓練をしていたり。

そんな思い思いのあちらの日常が何事も無く進められていて

それらの日常同士がぶつかってしまう。そんな事実を否が応でも

認識させていく。


「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ?(イケヅキ君は戦は初めて?)」

「そうですね。子供達の集団行動の訓練や大人に混じっての狩りは

 何度かあります。姉さんに模擬戦もやっています。

 狩りをする時は獲物を捌く事も勿論やっています」


 イケヅキ君は一つ一つ自分が出来る事を確認する様に呟いていく。

まるで自分自身を納得させる様に、まるで自分の能力を定義する様に。

それでも決して恐怖や不安を口に出さないこの子はとても強い。

いや、“硬い”のだろう。動じてはいけない。後ろを向いてはいけない。

なんだか、この子はまっすぐに前を向き過ぎている。

そんな感じで私は忙殺された日常の中で彼への印象を評していた。


「ぽぽっぽぽぽっ、ぽぽぽっ(私も多分、初めて)」

「英傑二人を撃退したとは聞いていましたが」

「ぽぽぽっぽぽっ(あれは夢中にやっただけ)」

「夢中ですか」


 私はちょっと膝を震わせながらも立ち上がる。

きしりっと枝が鳴ったがもう忘れよう大丈夫、根拠はないけど大丈夫。

瞼を閉じて、あの川辺での事を思い出す。

今、思い返せばバカみたいだった。今も頭が良いとはいえないけど。

それでも戦った、がむしゃらとか一生懸命とかそんな言葉通りなんだけど

それだけではない何かに必死に縋って気が付いたら成し遂げていた。


「ぽぽぽっぽぽっぽっ。ぽぽぽぽっぽぽぽっ。ぽぽぽっぽぽっぽぽっ。

 (傷つけたくない。なんとかしたい。出来る事がしたい)」

「優しいんですね」

「ぽぽぽっぽぽっ。(好きだからね)」

「やっぱり、相手が……英傑が……子供だったから?」


 イケヅキ君は私を見上げる。勿論、いつも見上げられているが

それとは違うなんだろうな。なんだか、遠くを見つめた眼差しで

私の姿を見ていた。少し強めの風が吹けば、帽子が飛ばされそうになる。

私はそれを抑えては幹へと寄りかかる。なんでだろう?

妙にこの空気というか場所は怖くない。下は見れないんだけどね。

だから、私もイケヅキ君の真似をして、まっすぐ前も見て

いつもみたいに鳴いて見せる。ぽぽぽっとしか鳴けないけど

今はソレでも伝わるんだ。だから、恥ずかしがる事はない。


「ぽぽぽっ? ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっ。ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ。

(かもね? 子供は戦うもんじゃないよ。戦わせちゃダメだよ)」

「僕にもそう思いますか?」

「ぽぽぽっぽっ、ぽぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ。

(勿論、だから戦が始まったら絶対助けるよ)」


 うっ、前言撤回。実際に口に出してみると結構恥ずかしい。

まぁ、いいや。笑う相手はイケヅキ君位だしね。

はぁー、全く全く、高い所になんて登ったから

気分まで舞い上がってロマンティックになっちゃったよ。

デートだったら良かったんだけどね? まぁ、デート気分って事で!

私が現実へと引き戻っていると思わぬ方向から言葉通り

裾を引く手があった。イケヅキ君がまだそのロマンティック空間の

延長を希望している模様。うむ、ちょっと嬉しくなっちゃうね。


「僕も〘ハッシャクサマ〙を助けますよ、絶対に」

「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっ?(ふふっ、ありがとう?)」

「む、信じてませんか? 姉さん程ではないですけど僕だって!」


 珍しくイケヅキ君の自己主張が激しい。ちょっと男の子感が強くて

これもこれでまた味わいのある良い美少年具合だ。

そっと頭を撫でる様に手を伸ばす。

最初は彼も驚いた様子だったが自然と瞼を閉じていく。

うむ、こうやって手が届くのは中々便利なものだ。

私は再び座り直してしばし二人で沈黙の時間を味わっていく。

お互い不安や恐怖もあるのだろう。私も勿論怖いし不安なんだ。

イケヅキ君も逃げない位に真面目に事態を受け止めている。

そんな二人の想いも時折吹き抜ける風が盗み去って行ってしまう。


「さて、そろそろ戻りますか。大体の方角はえーと」

「ぽぽぽっ(はーいっ)」


 最後に大まかに里や〈廃棄されし者の楽園〉の位置を

指差しで教えて貰う。まぁ、森の中にいて方角とか解らないんだけどね。

システムさんは流石にマップまでは表示してくれないし。

っと、後は[レガシーピース]も一個取ったから見ておかないと。

最近は少しシステムさんが静かだね。まぁ、エルフやワイバーンとの

お喋りが増えているのと新しい要素が[レガシーピース]メインになって

しまった所為かな? まだ、居るよね、システムさん?


【現在も起動しています。必要な際は呼び掛けて下さい】


「……(お、空気読んでただけか。流石です)」


 少し不安になって呼び掛けてみたら即反応してくれた。

うん、デート気分満喫の際や会話の時は案外静かだ。

システムさんもまた気遣いの存在である。

最後にくるりとこの美しい森を眺めた後、私は降りていく。

私はこの時知る由もなかった。この美しい景色がいずれ無くなってしまう事を。

        第八十九歩「小さき者達の挫き方」に続く

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