第八十四歩「楽園の外では」
【用語辞典の一部が開放されました。
〈竜の骨粉雪〉の項目を追加します】
「……(ああ、あの白い粉がこの白い森を作ってたのかしらね)」
彼ら、〘セイント・フリード・ワイバーン〙が百数十年掛けた
日々の積み重ねの結晶がこの白い森なのだろうか。〈骨の柱〉を日夜砕き
それをこうやった森に撒いている。傍から見れば、白い飛竜達が
一斉に飛び立っては森に白雪を振りまいているなんて
幻想的過ぎる光景でもあるが、それも裏方の作業から知ってしまえば
何処が自由なのかと疑いたくもなってしまう。
大変なお仕事と言うかもうなんか業って感じだよね。
「ぽぽっぽっ、ぽっぽっぽっぽっぽぽぽっぽっ?
(これって、ずっとやってるんですか?)」
「ン、父ン代カラヤットーンナ見トーガ俺ハ此処デ産マレタケン。
ソン前ハ知ラン」
「ぽぽぽっ(なるほど)」
若いワイバーンは成体世代のワイバーンに比べて私の反応には
若干冷めており、言葉も若干投げやりに聞こえた。
まぁー、若い盛りにこの日々のローテーションは結構厳しそうだ。
飛竜達は籠が空になれば、再び先程の楽園に戻り
〈竜の骨粉雪〉を補充しては撒く作業を繰り返していく。
時折、吠える声が響いているのは妙に聞き覚えがあると思ったが
そういえば最初に川の小屋で聞いてた声と一緒だ。
「……(おー、なんか種明かし感が凄いね)」
「楽シンドーカ? 俺ハコリャ普段ン仕事ン風景ダガ
女ハコゲナ風景ガ好キト聞ク」
「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽっ!
(うんうん、綺麗で素敵だよ!)」
私が色々と感慨に耽っていると私を担いでいるワイバーンに
声を掛けられる。慌てて返事を返しつつも彼なりに満足したのか
少しスピードを上げてはその白雪舞う夜空を滑空していく。
若いワイバーンとしてはただ見ているよりも
こういったアトラクションの方が面白いという判断らしい。
「……(おおおおっ、こここわ、素敵きぃっ!?)」
〈竜の骨粉雪〉が舞う夜空のアクロバットフライトは
怖いのもそうだが、やはりこれはこれで中々体験出来ない絶景だ。
特に寒い訳でもないし、滑空して私に掛かる風はそんなに激しくもない。
ジェットコースターより少し遅い位のソレで
上空から眺める〈封印の白き森〉は曇り空ながらもその白い
木々の群体を地面に敷き詰め、覆って行っている。
うーむ、曇なのと夜なのもあって遠くは見れない。
この森の外がどーなってるかはちょっと気になってはいるんだけどね。
「クァアアッ、ソロソロ引キ上ゲル。夜ニ飛ブモンヤナカ」
「ぽぽぽっぽぽっ!(ありがとう!)」
気だるそうな若いワイバーンの言葉と共に
私は散布作業を続けるワイバーン達に大きく手を振っては
そのまま、楽園へと戻っていく。下ろしてくれた所は
迎えが来た場所と同じで深々と頭を下げて別れていった。
あ、いっそ名前を聞いといた方が良かったかな?
ただ、問題は彼らが若いとか大きいとか位は解るのだけど
オスかメスかの違いすら、見た目ではよく分からないので
名前を聞いても正直、見分けがつかないと思う。
ううむ、此処はワイバーンさん達で統一しておくのが無難か。
もうちょっと慣れたら色々と方策を考えよう。
「お疲れ様です。随分と長引きましたね」
「ぽっぽぽぽっー(たっだいまー)」
ふと駆け寄る人影ならぬ、エルフ影の姿を見る。
イケヅキ君がどうやら出迎えに来てくれた様だ。
流石にこの距離感なら私も迷わない……いや、夜だから自信ないかも。
私は報告がてら色々とワイバーン達との話を
イケヅキ君に話していた。どうやらエルフ達は
ワイバーンの仕事に関しては知っていたらしく
特に驚く事はなかったが、それでも夜中の飛行に同行されるのは
それなりに珍しいらしく、不思議そうに首を傾げている。
うん、その顔もキュートなんだぜ? もっとかしげて良いんだよ?
某アニメ製作会社の作風っぽいのもイケる私である。
「ぽぽぽっぽぽっ?(他の子は?)」
「皆、もう寝てますね。日中は動くことが多くなったので
最近は寝付きが良くなってます」
「ぽぽぽっー(そっかー)」
他の子は治療や料理の時以外も疲れてぐっすり寝れる位には
〘ラジオ体操〙の効果は出てるのかな? 最初は不慣れな生活に
余裕が出て来たって考えれば自然も自然かもしれないけど。
私は寝床の前でイケヅキ君と別れる。流石に同衾はね?
いや、しないし、出来ないし、起きた後のスルスミちゃんとの
殺し愛が確実に待っている。うん、イケヅキ君は大変だよ。
他のエルフガールズも多分、こーいう遠慮は発生してるだろうね。
さて、そんな楽園での日々はその後滞り無く進んでいく。
朝起きて、〘ラジオ体操〙に〘筋トレ〙に走り込みをし
少年少女エルフに〘魂削りの愛撫〙による治療をして
お昼ご飯を食べて、午後も治療をして、夕方はワイバーンさん達の
苦労話っぽいのを聞き、こちらも適当に相槌を打ったり
質問を返したりな世間話の繰り返しだ。
夜の散布作業の方の仕事の同行はその後は無かったが
飛び立っていくのを見送ったりは数度あった。
「一通り終わりましたね。
まだ、治療後の疲れが抜けない子が多いですが」
「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽっー(だねーっ、お疲れ様ー)」
午後になっていよいよ集団の最後の一人への治療が終わった後
ふぅっと一息つきつつも少年少女エルフ達の集団に目をやる。
大体、治療をすると3~4日位は動きが鈍くなるが
ご飯を食べて、きちんと運動をすれば体調は改善する様だ。
中には調子が中々戻らなかったり、食が細くなる子も数人居たが
それでも一週間もすれば体調は戻っていった。
逆に言ってしまうと数日動けなくなるくらいに
アレの体への影響は抜けない位に染み込んでいるのだろうか。
おそらくは正体は[レガシーピース]で見た〈ケイオス・タール〉だとは思う。
「……(しかし、意外と此処での情報は大きかったなぁ)」
私もあまり頭は良くないから適当な推測になってしまうが
ロシカさんの実験から遺伝で体に影響が出ている
という事なのだと思う。なんで真っ白になっているのか
後は〈骨の柱〉を始めとする〈廃棄されし者の楽園〉の
諸々との繋がりは解らないが〈竜の骨粉雪〉で染まったこの森に
同じく〘セイント・シール・エルフ〙も白く染まったと
考えるのが無難だろう。ほんとシステムさんの情報が無かったら
あの白い粉を撒く行為もこの治療とされるスキルの行使も
意味不明だったと思う。うん、助かる。
なんで助けてくれているのかさっぱりだけどね。
「ぽぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽっぽぽっぽっ?
(そろそろ、ロシカさんに一度報告する?)」
「そうですね。数回、タワラに報告を上げてましたが
僕達だけでも一度、戻ってみると良いかも知れません」
「ソウダナ。アタシハマダ、コノ子達ヲ看テオク。
大人モヤルノカ、ソコラ辺聞イテ来イ」
最後に治療した子を寝かしていたスルスミちゃんが
戻って来ると話が聞こえていたのか、開口一番指示が飛んできた。
相変わらずテキパキしてる頼り甲斐のあるお姉ちゃんである。
そんな訳で私とイケヅキ君とタワラで一度里に戻る事になった。
ワイバーンさん達への伝言を頼んだと、簡単に荷物を纏めて
道中の洞窟を抜けていく。
「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっー(此処に居たのも長かったねー)」
「そうですね。驚くことは多かったですけど
問題らしい問題は起きませんでしたね。
もっと色々と起こるものかと思ってましたが」
「ぽぽぽっぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽっ?
(スルスミちゃんが大人しかったから?)」
「はは、それもあるかも知れません」
なんだかんだで楽園で数日滞在していた事を考えると
もうイケヅキ君を始めとしたエルフ達との共同生活も
一ヶ月近くになるかも知れない。エルフ達は暦を持たなくて
感覚的にこの地域の自然や動植物から四季を感じているらしく
私も完全に曜日感覚が崩壊していた。
まぁ、起きて体操して走って、ご飯食べて、スキル使って
ワイバーンとだらだら喋っている日々だったが
それはそれで楽しかったし、こういった日常もまた貴重な体験だ。
「んっ……アレ?」
「ぽぽぽっぽっ?(どうしたの?)」
「誰か居ますね。戻るのは伝えてませんでしたが」
遠くに見える光の窓。森へと続く出入り口の方に
何やら影が見えるのかイケヅキ君は目を凝らして見つめている。
私はその後、数歩動いてようやく誰か居るのが解ったが
イケヅキ君はおおよそ自分と同じ〘セイント・シール・エルフ〙だと
気付いたのだろう歩調を緩める事無く、ずんずん進んでいき
あてくしは淑女よろしく数歩後ろを歩いて行く。
「オ、イケヅキ戻ッタカ。治療ハ進ンデイルカ?」
「はい、一通り送り出した子は終わりました。
何かあったのですか?」
「ン? ンーーッ」
洞窟の外で待っていたのは中年の女性エルフだった。
当然、色白の肌を持つ〘セイント・シール・エルフ〙だが
その様子は最初あったイケヅキ君同様に森の中で動くことを
前提とした衣装とベルトに付けられた多数のアイテムと
ポケットから物々しさを感じていた。
最初は世間話的なノリで話していたが少し突っ込まれると
私の方を睨み付けるかの様に眺めている。
恐らく、会話内容として私が聞いて良いか迷っている様だ。
「コノオ嬢チャンハアッチデドウダッタ?」
「サマンおばさん。〘八尺様〙はここ数日特に害する事なく
積極的に協力してくれました。ワイバーンさん達にも
懐かれていました」
「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ?(私、離れた方が良い?)」
サマンと呼ばれた中年の女性はイケヅキ君の情報を聞いた後
腕を組んで考え込む。まぶたを閉じて眉間にシワを寄せて居る。
流石に里の込み入った話だと興味はあるものの
私が聞いちゃダメな事なんて幾らでもあるだろうから、
ちょっと離れようとする。その様子を見たサマンさんは
ふんっと小さくため息を吐きつつも離れようとする私に手招きをする。
「ソウダネ。詳シイ事ハ里デ聞ケルガ、アッチデ驚キ慌テルヨリ良イカ。
アンタニモ聞コエルガ騒イジャダメダヨ?」
「ぽ、ぽぽっ(は、はいー)」
「お願いします」
前フリが怖い。わざわざ釘を刺すって事は相当な事だよ?
どうしたの、誰か死んだの? それとも私みたいなのが
もう何匹か出たとかそんな感じ? 此処の楽園に入ってから
殆ど外部の情報は入ってなかったからお外どころか
この森の状況すらさっぱりさんですよ。
私は緊張した面持ちが出来たら良いなの雰囲気を出しつつ
じっとサマンさんの言葉を待つ。
「アンタ達ガ此処ニ篭ッテル間、コノ〈封印の白き森〉ハ
〈ケントゥリオ勇国〉ノ〈第四勇者軍〉ニ包囲サレテイル」
「え……えええぇ!?」
「ぽっ、ぽぽぽっぽっー!?(な、なんですとー!?)」
え、ええーっと包囲網敷かれちゃったのこの森!?
よく分からない大層な名前の軍隊まで来てるし! どうなってるの!?
第八十五歩「百の英雄譚 Episode8 "天空の眼差し"」に続く




