第八十三歩「博多弁ワイバーンの空のお仕事」
「ドシタン。ウチラノ声聞コエンノ?」
「ぽっ、ぽぽぽっ!(あ、大丈夫です!)」
「アラー、オ嬢シャンノ声モ聞コエルワァ」
どうしよう!? 本当にどうしよう。私が〘竜言語〙の
言語理解経験値取得により〘セイント・フリード・ワイバーン〙の
喋っている言語が解る様になった。うん、自分で考えていて単語が長いな。
兎角、お話を聞きながらも宴のお手伝いをしている訳なんですけども!
「オー、本当ニ、スルスミチャンノ声デ聞コエルワァ」
「理屈ハ解ランケド、コウイウノモ良カネェ」
「カー! ホンマアイラシカー!」
くっそ、片言なのに! 片言でしか聞こえないのに!
あの話し方の所為で色んなモノがこうログアウトしてしまう。
既に緊張感と恐怖感が完全に姿を消してしまったよ!
なんだろう、この方言、特に南方系のまったりとしたイントネーションと
ワイバーン達のゆったりした動作が相まって空気や時間の流れが
遅くなったかの様な錯覚に陥っていく。 なんだよ、このまったり感!?
最初は片言言語も単語を区切って聞こえる様に終始していたが
今ではすらすらと話口調として耳に入っていく。
ああ、でかい爬虫類なんだよ!? 鱗とぎょろついた瞳に
爪とかもちょー鋭くて一掻きされたら身体バラバラにされちゃうんじゃねって
感じのそのまんまなドラゴンクローで頭をグリグリ撫でられている訳ですよ!
「家ン子ニ欲シカネ!」
「コラ! オ前ン所ニハ子供ガ居ルヤロウ!」
「ソレトコレトハ違ウヤロー?」
いかん、これほんっと遠方の田舎の実家に行って親戚連中に
猫可愛がりされている図だ! いや、今のあてくしって
2m超えの化け物女なんですけど、まぁ向こう様も5m超えの
羽の生えた爬虫類様である訳なんだけどね? いかん、解らん。
なんでこのワイバーン達はテンション高いんだろうか?
いや、まぁ珍しいのは解るんだけど、実際に単純な可愛さとかだと
私よりエルフとか幾らでも可愛いのが居ると思うんだけどねぇ。
「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっ?
(エルフとかの方が可愛くないですか?)」
「アー、森ン友ハネー。チョット違ウ」
「アン子等ハ色々ト縁ガアッテナ。将来バ心配ガ大キカ」
「本当ニネ。スルスミチャントカドゲンナルンヤロウ?」
ううむ。良く解らないがワイバーン達にとって
〘セイント・シール・エルフ〙の子達はなんだか真剣度が違うらしい。
そういう意味で私〘八尺様〙は彼らにとって異邦人であり
異物であり、物珍しさもあり、気兼ねが要らないらしい。
そして、そんな中でも将来を心配されるスルスミちゃん。
一応アレで60年位生きてるんだから大丈夫なんだろうけど。
私は兎も角、エルフでも心配されてワイバーンにも心配されるって
ほんっとスルスミちゃんどんだけなんだよ、マジで。
ほら、でかい、物理的にでかいため息があっちこっちで吐き散らされてるよ?
「ぽぽぽぽっぽっぽぽぽっぽぽっ?(付き合いが長いんですか?)」
「ジャット160年前ヤロウカ?」
「ソウソウ。マダ、アン子達ガ産マルー前ヤッタネ」
「ウチ達ハ長生キヤケン友ガ少ナカ」
「同族ト森ン友以外ト喋ルンナ久シ振リバイ」
うーむ、なんというか言動がほぼ田舎の親戚感が丸出しのままである。
ワイバーン達は昔話に花を咲かせて、暇を見つけては私にその花の花粉を
振ってはリアクションを楽しんでいた。その様子はなんとも和むものだ。
元気な少年少女エルフ達のワイワイとした賑やかな喧騒も勿論素晴らしいが
こうやって中年以上のどっしりと構えた存在が過去を懐かしみ
哀愁を肴にくっちゃべっているのもまた味わいがあるというものだ。
故に私の中で色んなモノがログアウトしてほぼ素の状態になった。
そう、私は油断してしまったのだ。
「ぽぽっ……ぽぽぽっぽぽっ。ぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽっぽぽぽっ。
(ドラゴ……じゃなかった。ワイバーンさん達も色々あるんですね)
「「「ァン?」」」
一斉にワイバーン達の顔が向けられる。一瞬にして空気が戦慄する。
さっきまで和やかに喋っていたワイバーン達の瞳孔は見開き
青白いビー玉の様な瞳の奥からほぼ殺気に近い視線が向かう。
仔竜達はきょとんっとしている中、成体であろうワイバーン達は
牙を僅かに見せながらもじとっとした重苦しい空気を醸し出したままで
私はもうプレッシャーで吐きそうです。泣きたい、マジ辛いっす。
「オ嬢シャン? 今、何テ言ウタト?」
「ぽぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ!
(ごごごご、ごめんなさいいぃっ!)」
「[龍]バ知ットルンカ?」
「ぽぽっぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽっぽっぽっぽぽぽっ。
(記憶は無いけど、何となく姿のイメージは覚えてます)」
問い詰めるというほどでもない慎重な問答。
いや、もう存在感と顔の迫力だけで十分絞り上げられそうなんですが!
彼らにとって神聖な存在という意味で私は結構な地雷を踏んでしまった様だ。
ほんっとファンタジーそこまでがっつり詳しく無いから
区別つかないんだって! まぁ、それで不快に思われるかもだから
気をつけてたんだけどね。ただ、ドラゴンの方がイメージが強いんですよ。
「ちょっと言ウテミンシャイ」
「ぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽっぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽっぽっ
ぽぽっぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽっぽっ?
(えーと、ワイバーンさん達と一緒で羽が生えた大きなトカゲみたいで
角が生えて、火を吹いて頭が良くて長生きをする?)」
私は頭に浮かんだイメージを身振り手振りを交えて説明する。
うんうんっと真剣な態度で聞き入り頷く様子はこの話題のシリアス度合いが
とんでもなく高い事を示していた。私の頭の中ではまぁゲームとかで出てくる
一般的な西洋の暴竜のイメージだ。そりゃ漫画や色んな創作物だと
魔法使えたり、人語を喋ったり、下手したら神様なんてのはざらにある。
後は東洋の龍のイメージもあるがそれを説明してたら
むしろ、逆に怪しまれてしまう。故にストレートかつシンプルに
私は彼らとイメージが重ねるドラゴンの説明をした。
「他ハモウ無カトカ?」
「ぽぽっ、ぽぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽっぽぽぽぽっ」
(うーん、物語の存在って共通イメージで後はあまり)」
「……フム。伝説、伝承ト対シテ変ワランカ」
「寝物語デ聞カシャレトッタンカモ知レン」
「嘘ハ吐イテナシャソウ」
嗚呼、本当にこの手の話で素直に信じてくれる存在ばかりで助かるよ。
これで疑われたり、理不尽に排斥されてたら私はとっくの昔に
死んでたと思うよ、ええほんと!
いや、だって普通に怪しいからね私。生きてるか死んでるか解らない上に
百英傑だっけ? あのすっごい強い子供勇者さん倒しちゃった訳でしょ。
まぁ、相性問題だっただけなんだけど傍から見ればそんなん解らない訳だし。
そこら辺があったからこそこのワイバーンさん達は一目置いてくれてるのかな?
「ゴメンナシャイ。怖ガラシェテシモウテ」
「許シンシャイ?」
「ぽぽぽぽっ、ぽぽっぽぽっぽぽぽっ!
(いえいえ、とんでもない!)」
ワイバーンさん達の猫可愛がりモードへと空気も挙動も変わる。
頭を爪でグリグリ撫でられたりとか時折、頬を寄せられたりとか。
まぁ、でっかい人形扱いである。相手の犬猫っぽい動作を素で
見せているのだけど、デカイ鱗とあのスペクタクル爬虫類フェイスのおかげで
見目の愛らしさという点は流石に厳しかった。
「ウーン、ウチ達モ神経質ヤッタシナ」
「アア、ソレナラ気晴ラシニ仕事ン様子見シェテヤルンナドウヤロウ?」
「アレバ、見シェテ大丈夫カ?」
「問題ナカヤロウ。撒イトーダケヤシ」
何やらワイバーンさん達の中で議論されている。
仕事を見せるという話なのだが〈骨の柱〉の粉砕作業だろうか?
アレは前にちらっと見せていたがそんな現場見学をされても。
相手からすると私なんて幼児どころか下手すりゃ卵子クラスの存在なのかね。
数分話合っていると言うかもう意見のゴリ押しの現場を見られた。
何匹か難色を示していたが
「コン子ガ最期ノ見届ケバスルカモシレン」
「幸イ、雲ガ出テ来タ。良カ天候ヤ」
「コレモ何カン思シ召シナンカモ?」
というやり取りで了承に相成った。最期ってまた不吉なワードだな、おい。
どういう事なんだろうという視線にワイバーンは私の頭を爪で撫でるのみだ。
そして、決まったとなると話が早い。早々に宴の後片付けを何匹かに任せると
ワイバーン達の数匹はさっき私を運んできた籠の数回り大きいモノを
首にかけ始める。そういって、掛けられた先から飛び立っていく中
私は比較的若くて小さいワイバーンの籠に乗る様に促された。
「ぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽっ?
(何処へ行くんですか?)」
「親連中ハ何処ニモ行ケン。近ウバグルット回ルダケヤ」
そう言われ、私が籠に座ったと同時にぶわっと一斉に飛び立つワイバーン達。
場所は近くにあった〈骨の柱〉を粉砕していた所でそこには白い粉の山があった。
きっとアレは全部〈骨の柱〉で出来ているんだろうか?
うん? ……白い粉末? アレ、この森のどっかで見たような?
私が何処かそんな既視感を感じつつもワイバーン達は飛んでいる組と
下で待機している組に分かれて籠にせっせと粉をつめていく。
尻尾でブルドーザーの様に薙ぎ入れる様にしている作業は豪快だが
改めて、ワイバーン達に手が無いというのは不便そうである。
ま、それはさておき、ワイバーン達が籠にその白い粉末を詰めていくと
大空へと飛び立っていった。私を抱えるワイバーンもそれを追いかける様に
高度を上げていく。いや、待って待って。これちょっと怖い。
私は籠にしがみつきながらもぐんぐんっと出て来た雲を目指す様に飛んでいく。
数十匹近いワイバーンが一斉に飛び立つ姿と言うのはもう
中々の迫力でこれ映画とかだともう絶望のワンシーンなんじゃないだろうか?
「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっ?(何をするんですか?)」
「コレバ森ニ食ベシャシェル」
ワイバーン達は雲を抜けて月が浮かぶ夜空へと出てくる。
本来は雲のギリギリ辺りでやるそうなんだがそれだと濡れて
私が寒いだろうという配慮らしい。気遣いの出来る竜達だねほんっと。
そして、ワイバーン達の空の仕事が始まった。
「……(あ、コレってあの雪もどきか)」
ワイバーン達は森の位置を確認しながらもホバリングの様な状態で
籠を尻尾で傾けていけばその〈骨の柱〉の粉末を
行動としてはとてもファンシーで本来は妖精さんがやってそうな事を
ごっついワイバーン達がやっているのは中々のギャップを感じる。
そして、合点が行った。そうだ、以前降っていた溶けない白い粉雪。
それがコレ……〈骨の柱〉の粉末が正体だったのだ。
「……(そっか、この森を白くしてたのはワイバーンさん達だったんだ)」
私はその美しくも儚い仕事の風景を眺め、この幻想的な森を染め育て
積み上げていた者達の歴史を垣間見たのであった。
第八十四歩「楽園の外では」に続く




