第八十二歩「ワイバーン・リスニング」
朝焼けの眩しい陽光に照らされて私は目が醒める。
此処の楽園生活もまだ一週間と経たないというのに大分慣れてきた。
やはり、発想に頼る試行錯誤よりも作業的なローテーションを組む方が
精神的にも楽なのだろう。退屈なと言う程にまだ油断出来ないが
それでも明日をどう生きるかも解らぬより、こうやって皆と一緒に
平凡な日常を謳歌するのもまた幸せなんだよ。
まぁ、色々と[レガシーピース]で裏情報を仕入れているんだけどね。
「ぽっ!ぽっ!ぽぽっぽっ!(いちっ! にっ! さんっしっ!)」
「「「いちっ! にっ! さんっしっ!」」」
うむ。大分〘ラジオ体操〙の方も板についてきた。
元々子供の柔軟性と真面目な性格の子も多いのかキビキビした動きは
組体操みたいな感じの印象を受ける。皆、元気が良くて宜しい!
此処だけはなんか夏休み中の朝の集まりみたいな感じだね。
今日はワイバーンさん達の見学も無く、その後は滞り無く進んでいく。
〘ラジオ体操〙〘筋トレ〙〘ランニング〙のセットメニューで後は各々で
治療を受ける子、治療を受けたばかりですぐ横になる子
木の実を探しに出かけたり、生肉スライムの予備を取りに行ったりと
勝手に行動をしていく。これもこれでまた生活感が出て良いもんだ。
多分、里の集落も大体こんなもんなのかなぁと愚考する。
「……(さて、今夜からドラ……ワイバーンさんの〘竜言語〙講座か)」
少年少女エルフの治療や途中の昼餉を挟みながらも一日考えていた。
と言うか他に考えることが無かったと言えばそうなる。
昨晩はなんだか壮大な死亡フラグを建立なさった過去のリトモさん達に
カレーやら夫婦漫才やらまぁ、コミカルで心理的負担は少なかったものの
逆に言ってしまえば、確信的な情報は何も無い。
果たしてワイバーンさん達との交流で何を得られるやら。
期待と不安が入り混じりながらも淡々と日常を過ごす事しか出来なかった。
そして、不安を抱えたまま、今は夕刻。
いよいよ、ワイバーンさん達の迎えが来るのを私とスルスミちゃんと
イケヅキ君で泉の砂浜で腰掛けては待機している。
他の子は夕餉の準備やらバタバタとしている喧騒であり
こっちのシリアス具合がより一層引き立ってしまう訳ですよ。
「そろそろお迎えが来る頃ですかね」
「夕方ハアンマシアイツ等飛バナイカラナァ」
「ぽぽぽっぽっ、ぽぽぽっ(ちょっと、緊張する)」
「お、来ましたね」
歓談と言うほどに対した話も無く、遠方から黒い大きな影が
波を少し作りながらも迫ってくる。砂浜で軽くホバリングをした後
どしりっとした超重量級の存在感を見せつける様に着地する。
こんなのが空をびゅんびゅか飛び回っているんじゃ
飛行機だの飛行船だのの発展は相当遅れそうだ。
何時、追突事故起こすか解ったもんじゃないよね、この世界。
「待タセタ。コレ二座レ。運ンデ行ク」
「ぽぽぽっぽっぽっ?(籠みたいな?)」
ワイバーンさんの首には子供が使う首掛けのバックみたいな感じで
左右に縄が付けてそれを首に掛けられたベンチシートがある。
サイズとしては人が数人座れそうで、材料は白い竹で編んだのだろうか。
これはエルフ達のお手製っぽいかな。なんだか使い込まれているが
そんなに頻繁に飛ぶ用事があるのだろうか?
「……(『てっきり』『背中』『乗せるのかと』っと。うん)」
「背ハ雨風ヲ受ケル汚レシ場所。客人ヲ載セル事ハナイ。
何ヨリ危ナイガ、ドウシテモト言ウナラ乗セルガ」
「ぽっ、ぽぽぽっぽぽぽっぽっ! ぽぽぽっぽっぽぽっ!
(あ、ごめんなさい! ベンチでお願いします!)」
「ウム。座レ」
思わず〘霊話〙で聞いてみてしまった。いや、だってねぇ?
竜の背に乗って!みたいなのをイメージしてたが存外丁寧だったよ!?
まぁ、冷静に考えて鞍の無くて更に顔に馬具みたいに
縄付けられて飛ぶって乗る方も乗せる方も煩わしさと危険度高いよね。
うん、ある意味きちんと考えられているからありがたいことだ。
私が籠に乗り、くくられている縄を掴むとワイバーンさんは
羽ばたき始める。周囲の砂と風が撒き散りながらも
ふわりっとその巨体が浮かぶ様はなんというか本当に
このでかいのが飛んでいるのかと感嘆を身を持って実感する。
「ぽぽっぽぽぽっ(いってきまーす)」
「いってらっしゃーい」
「気ヲ付ケロヨー。落チテモ死ナナソウダガナ」
「デハ、行クゾ」
私がスルスミちゃんとイケヅキ君に手を振っている間に
ワイバーンさんは浮いた両足でがしりっとベンチシートを左右から抑える。
荷物感が半端ないが揺れが少ない上に腹の近くまで近付けるのは
極力風を受けない様にしてくれてるのかな?
こういった細かい気遣いがこの世界は本当に多い。
うん、まるで水鳥に掴まれた様に水面近くを滑空するのは中々趣があって良いね!
夕暮れの茜色に輝く水面がキラキラと輝く中、飛ぶのはなんとも
これはこれで味わいがある光景だ。うむ、予想外に素敵なアトラクションだ。
「大丈夫カ? 速度ハ遅クシテイル」
「ぽぽぽっ。ぽぽぽっぽっぽぽぽっー!
(はーいっ。大丈夫ですー!)」
気にかけてくれるワイバーンさんの紳士っぷりよ。
運ぶのに慣れてるのかな? なんかイメージだと
『選ばれた者しか乗せぬ!』的なノリかと思ったら存外にフランクだ。
これは個竜の性格と言うよりも種族的な性質なのかな?
そんな事を考えていると泉の対岸を越えて、更に岩場を超えていくと
ちょっとした広い窪地の様な場所が見える。上空だとぽつぽつと
穴が開いている様に見えたが降り立つ途中で続々とワイバーンさん達が
その穴から顔を出してくる。なんだか、その絵面がかわいい。
「ガーガーガガガーッ!」
「ガーッ、ガガガーッ。ガガーガーガーッ。
コレ、客人ダ。騒グデナイ」
穴の中から半分以下のサイズの仔竜が出てきては
私に向かって吠えている。珍しいのか、それとも警戒しているのか。
後、〘古代エルフ語〙の翻訳が無いのでその仔竜達が何を話しているかは
解らないが、私を怯えさせない様にわざわざ〘古代エルフ語〙で
言い直している。うむ、ありがたい。本当にありがたいよ。
「マ、全竜の名前ヲ覚エルノハ大変デアロウ。
徐々ニ覚エレバ良イ。エエト
「……(『八尺様』『よろしく』『です』っと。聞こえるかな?)」
「「がーーがーっ!」」
「ウム。〘霊話〙ガ中々上手イナ。〘八尺様〙デアルナ。
ヨロシク頼ム」
窪地へと降り立つと自らに掛かった縄を外している所を尻目に
私は周りへと挨拶を交わしていく。仔竜達は元気に挨拶を返し
他のワイバーンさん達も頭を下げていく。
ううむ、相変わらず海外映画感並のド迫力な面子だね。
特に仔竜達は私が珍しいのか、今にも頭をばっくり食ってしまいそうな程に
顔を近づけて来るので結構ドキドキする。
体長としては私と変わらないサイズなので親近感が沸くのだろうか?
「サテ、話ニヨルト、[言語]ヲ聞クトソノ[言語]を学習スル。
ソレデアッテイルカ?」
「ぽぽぽっぽっー!(そうですよー!) 」
「デハ、宴ノ歓談ヲ聞クト良イ。酌デモシテクレルト助カル。
適当ニ食イ物ハ摘ンデ良イ」
「ぽぽぽっ(はーいっ)」
そう、案外さくっと頼まれたがこれが中々大変な結末へとなってしまう。
ワイバーン達は〘古代エルフ語〙ではなく〘竜言語〙で話しているのであろう。
ガーガー吠えている様にしか聞こえないが問題は彼らの食事だ。
やはり、彼らも生肉スライムを食べており、水は泉の水を飲んでいるのだが
其処は何か文明的なこだわりがあるのか、巨大な水瓶に水を汲んで
それをわざわざ人一人がすっぽり入りそうな盃で飲んでいる。
首を垂らして犬の様に飲んでいる様は別に泉から直接飲めば良くない?と
最初は思ったが。後から理由が解った。
「ぽぽぽっ!(危なっ!)」
「オオ、スマヌナ」
「ぽぽぽっぽっぽぽっー(気をつけますー)」
そう、彼らは生肉スライムや四足獣の肉を山盛りで積んだ後
適当に自分の足元へと咥えて、好き勝手に自分で焼いて食べているのだ。
自ら口から青味の強い紫の炎を吐いて炙っていくので、香ばしい香りが
辺りへと漂うのだが、ちょっと油断すると私も焼かれそうになる。
水辺でやると火が泉へと掛かって、水蒸気祭りになってしまうのか。
事前に焼いておくよりも焼肉(火力は自力)スタイルが良いらしい。
酒が入っている訳ではないが皆で夕餉を囲むだけで
べちゃくちゃと喋る事は尽きない様子でココらへんは
エルフもワイバーンも大して変わらない様子だ。
それでもワイバーン達の食事風景はダイナミックスペクタルでもあるけどね。
私も時折、細かくキリすぎた切れ端なんかを摘ませて貰いながら
給仕仕事のノリでその騒がらしい竜の宴に混じっていた。
「がーーがーっ」
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽっー(ちょ、ちょっとまってねー)」
「コレ、客人ヲ余リコキ使ウデナイ」
仔竜達は火力が足りないのか大人に焼いてもらっては
それを私が大皿に載せて運んでいく。仔竜達が勝手に食べ争って
喧嘩にならない様にという事できちんと皿の前で待っている様子は
こう……コレはコレで中々可愛くないですか?
スライム一個結構な大きさなので仔竜達に急かされ気味になるが
なんだか雛鳥にエサをやっている親鳥感覚で結構楽しい。
仔竜達には〘古代エルフ語〙は通じないので私の『ぽぽぽっ』しか
聞こえないのであろうが、身振り手振りで何となく察してくれる。
【〘竜言語〙の言語理解経験値が規定値分溜まりました。
種族情報〘セイント・フリード・ワイバーン〙がLevel1にあがりました】
そして、結構な頭数のワイバーン達にやいのやいの言われたり
会話をした結果、言語理解経験値(口に出したら噛みそう)を
取得出来た。うん、案外早く溜まるのね。
まぁ、大人数でやいのやいの言ってればこんなものなのかも?
思わず、びっくりして動作が止まってしまう。
「……(お、溜まった! これで何言ってるか聞こえる様になるかな?)」
「ドウシタ?」
「……(『〘竜言語〙を』『簡単なら』『聞き取れそう』『出来た』っと)」
「オオ、存外早イナ。デハ。コホンッ」
最初に連れて来てくれたワイバーンさんがそう声を上げると
先程まで各々で好き勝手に飲み食いしていた他のワイバーンや
仔竜達も集まってくる。うむ、相変わらず威圧感が
一帯を制圧してるんじゃねーかって勢いで押し寄せているが
悪意は無い。悪意は無いんだよね、この竜達は。
「ヤー、〘古代エルフ語〙ハ難シカ、疲ルー
コレデ、楽二ナルー」
「オー、アイラシカオ嬢シャンモ解ル様ニナットート?」
「〘八尺様〙モ、何カ言ウテ見テー」
「………(九州地方っぽい方言になる……だと!?)」
そう、此処からが本当の地獄でした。
第八十三歩「博多弁ワイバーンの空のお仕事」に続く




