第八十一歩「力の使い道」
「……(まった、高カロリー祭りだね。いや、生肉スライムも一緒か)」
どかっどかっと丸焼きにされていく、四足獣の串焼き。
バラバラに解体されているモノばかりだが、小さいのは仔豚かうり坊だろうか?
それらが頭を落としたそのままの形で焼かれているワイルドっぷりは
中々の食欲をそそる様相を呈している。これ、食事時に見たら大変だ。
しかも焦げてる?と一瞬思ったが、どうやら〈ケイオス・タール〉が
波々と溜まっている樽やツボから肉を取り出して焼いている事から
漬け焼きにしているのであろう。見た目もちょっとイカ墨感があるけど
やっぱり、お肉が焼いている図というのはこう、威力高い訳ですよ!
黒い北京ダックとか中華の豚料理みたいな!
それとは別に普通の兎位のサイズの小動物の丸焼きを頂いているのは
ロシカさんとリリーサさんだ。彼らの前にある皿の肉は普通に茶色だ。
近くにはリトモさんも居る。わいわいとざわつく中、あそこだけ
妙にシリアスな雰囲気だ。あ、そう言えば距離が近づくと音声が
大きく聞こえたり遠くは小さく聞こえるってのは結構凄い技術な気がする!
本当に彼らの口から声が出ているのかそういう設定になってるのだろう。
ううむ、この再生空間も中々の謎技術だよね。
「みんなも大分慣れてきたねぇ。最初は一舐めもできなかったのに」
「そうね。もう肉の漬け焼きのバーベキューも何回目かしら。
まぁ、それでも〈ケイオス・カレー〉は好きと言ってくれるけど」
「リリーサさんが対抗心を出すのは珍しいですね!」
「あははは、彼女は僕の得意分野には口は出さないけど
自分の分野に関しては結構バチバチだよぉ? って!」
和気あいあいと話しながらも手刀ツッコミを欠かさないリリーサさん。
漫画的効果音が聞こえてきそうな綺麗な手刀がロシカさんの頭に直撃する。
話の内容から察するに段々とあの〈ケイオス・タール〉にエルフ達も
慣れてきて料理なども単純化してきたということだろうか?
こう、野菜の好き嫌いのある子に小さく刻んで混ぜていたのから
丸焼きになったという事なのであろう。うむ、好き嫌いは良くないからね!
――いや、そうじゃないだろう。単純に“毒”に慣れた。
多分、そんなノリだと思う。お酒だってタバコだって後は子供の頃
食べられなかった色んなモノは味覚が過敏だった時期故だ。
そういう感覚が麻痺したり、順応した結果がこのバーベキューだ。
それはそれで怖い。ただ、それを知ってか知らずかこのメンツの談笑は
喧騒の中に溶けている。ううむ、リリーサさんの分野ってなんだろう?
料理とか看護とかそういう感じなのかな?
「しかし、定着率で言うとやはり肉が一番と言うのは悩みどころだね。
狩り過ぎてもダメだし、放牧や畜産というのも森の中ではし辛い。
生活様式を変えると言うのも好ましくはないしね」
「ですね! 皆、肌が変化程度でしたら良かったのですが育ち盛りも合わせて
食事量が右肩上がりで増えております。今は幸い余剰に食料はありますが」
ロシカさんのため息が漏れれば、浮かない顔が伝染する。
なるほど、狩猟で獲った肉なんだろうけど、一気にみんなで
肉を食べ始めたらそうなるっちゃなるだろうね。
獲物の狩り過ぎで生態系が壊れるなんてのはエルフには
釈迦に説法ということだろう。そういう意味で
〈廃棄されし者の楽園〉の生肉スライムはとても助かっている。
うーん、アレはロシカさんが生成システムを構築したというのも
ありえるかも知れない。永遠に肉が発生するとか適し過ぎてるし?
「となると外の貨幣を稼いで肉を買う。それがベストでは?」
「うーむ、予定より大分早いけど出稼ぎを考慮すべきかな?」
「自分達が森の外でですか」
「まぁ、正式にはシトモさんにご相談してからになりますがね。
知見の範囲内でという事になりますよ」
リリーサさんの提案にロシカさんは頷き、目配せする先の
リトモさんは眉間にシワを寄せている。腕を組んで天を仰ぐ仕草は
なんとも言えぬ落ち着きが垣間見えている。肌は他の子同様に
まっ黒になってしまったがいの一番の賛同者である彼にも
責任やら思う処多いのだろう。
「……(創作だとほいほい町中に居るエルフも見るけど
実際に適応した環境から出るって勇気が居るよね)」
事前に住む所を決めたり、ネットで乗換案内や時刻表を見たり。
現代というのは兎角便利だった気がする。勿論、彼らも事前の情報収集
まして、口伝や刻一刻と変わっているであろう様々な情勢を推察して
街から街へと移動しているのであろう。そもそも、入る情報すら無かったら
もうそれは海図を持たない航海の様なもの。うーん、大冒険だよねぇ。
いや、私もいつの日かそーしなきゃなのかもね。
「しかし、出稼ぎと言っても、森のモノを売るのはあまり良く思われません。
余りに豊かですと森自体が狙われますし、かと言って凡庸な品は
人間達の流通の中では見劣りする……と族長から聞いております」
「海も〈深魔海〉の魔物に魚介の亜人類や水棲エルフもひしめき
山も似たような感じでしたね。結局、自分たちで増やして
一個一個を工夫し、融通しを繰り返した歴史です」
「恵みが無い場へと追いやられた故に人々は荒れ地を耕し、道を敷き
船や馬車を作り、街を繋ぎというのが大雑把な人類史だからねぇ」
……なるほど。結構ハードだなこの世界の人類。
時々聞く〈深魔海〉もそうだが海も山も森も全部別の亜人種が
占拠してるとなると、よく発展出来たね。その点は図太さなのかなんなのか。
元人類二人がエルフと協力して改造実験してるってのは
もう、図太いとかそういう勢いを軽く越えていると思うんだけどね。
「ま、流石に素人のベンチャー商いに活路を見出すなんてのはしないよ」
「ベンチャーと言うか、アドベンチャーなのでしょうけど」
「ほぉ! アレですか。人間達で良くするという徒党を組んで
迷宮を冒険し、財宝を持ち帰ると言う奴ですかな!!!」
お、何? 此処でRPG展開かな!? みんなでワクワクダンジョンハック?
それにしては人数多すぎじゃないかな? 洞窟観光って訳でもないだろうし
ただ、人数を下手に分けてってのもちょっと怖いものね。
私の冷静な意見とは別に若き日のリトモさんは妙に鼻息荒くノリノリだ。
これも若さか。まぁ、男の子はこういうの好きなんだろう。
現代の男の子も色んなゲームやら創作の冒険活劇に胸踊ってた訳だし!
「いいや、そんな〘魔物〙相手や迷宮なんてのは危なくてダメだよ。
それも博打みたいなもんだし、必要な知識経験が多過ぎる」
「と言うと他に宛てがあるのですか?」
「私達のおすすめは〘傭兵〙でしょうか。今は外の世界は乱世なので」
……ワッツ? え? 何、今なんつった。
えーと、迷宮とかの魔物よりが危なくてえ、え?
いきなり出てきた単語に私は頭を抱えていく。いかん、そうだ忘れてた。
多分、この賢者様天才なんだ。すっげー頭いいから常人とは価値観も
次の一手も違うんだろう。故に私は理解が追いつくのに時間がかかった。
「……(よーへい……〘傭兵〙!? え、えーとあの〘傭兵〙?)」
「戦場に出ろという事ですか?」
「はっきり言っちゃえば、ちゃんと考えて動けば下手な〘魔物〙何かより
戦争やっている[人類]、[亜人類]を狩るのが一番良い。出来高払いだし
君たちが世間を知るという意味では一番良いと判断するよ」
マジか。え? ソレ狙いだったの? いや、ロシカさんの口ぶりは違う。
多分、この人にとってこの世界における標準的な〘魔物〙のイメージより
戦場に混じって殺し合いをする方が効率が良いと本当に思っているんだ。
何、そんなにこの世界の命って安いのかしら? うーん、命のやり取りか。
まぁ、私も数回ぶっ殺され掛かっているとは言え
アレは私が討伐対象として追い回されているだけで
戦場で人と人っぽいのがぶつかりあうというのはまた違うもんなんだろう。
うーん、かと言って私は戦争とかは流石に無縁そうだな。
そんな戦場に自分から足を踏み入れるなんて、勇気も理由もないよ。
「今の君たちは[勇者]には無論、劣る。あっさり殺されるだあろう。
そりゃ天下に名だたる人類の希望だからね。
ただ、少なくともこの一団を連携し、囲い込み、的確に力を行使すれば
千の雑兵も一人の勇者も恐るに足らなくなる」
「……ソレほどまで」
「ま、ちゃんと訓練しないとだね。そこら辺はきちんと相談しないと」
【[レガシーピース]〘混沌に染まる日々〙を終了します】
「……(っってええええ!? 此処!? 此処で切っちゃうの!?)」
思わず私は回想空間と言うべき過去の幻想の中で絶叫する。
いかん、いかん、いかんよこれぇ!? 戦争行っちゃうの?
いや、リトモさん達がやたら闘い慣れてたっぽいのは戦場帰りだから?
マジか、あのおじいちゃん達全員歴戦の古強者か。
諸行無常で兵どもが夢の跡だったのか。それに仕込まれてたから
あの狂戦士おねーちゃんスルスミちゃんなのか?
頭の中でわちゃわちゃと色んな情報が繋がっていく内に
意識は満点の星空を謎の枠が遮る現在地へと戻ってくる。
「……(うっわ、今回のは別のが意味できっついなぁ)」
[レガシーピース]は何かヒントになればと思って
闇雲に突っ込んでいるがまぁーー、エルフを始め色んな人が死ぬね。
何なの、スプラッターやら悲劇を見せるのが趣味なの?
私のリアクションを見て楽しんでいるのかしら。システムさんもそうなの?
それだと私ちょっと哀しいよ? 何考えてるか解らないのは最初からだけど!
【リアクションを鑑賞し、快楽を得る機能は搭載しておりません】
「……(む、結構ストレートにお返事が来た)」
システムさんの意外な即答に驚きの声を上げそうになる。
危ない危ない。変に騒いでスルスミちゃんを起こしちゃうのはダメだ。
彼女は現在、初見スクワット数百回敢行における筋肉痛地獄中。
ちゃんと寝かせてあげないと明日が持たないよ。
明日も一緒に〘ラジオ体操〙しようって約束したもんね。
そして、システムさんを疑ってしまった事には猛省せねばなるまい。
実際、助かっている面が多いんだ。ちゃんと信頼しないと。
「……(よし、寝よう。もう、寝よう。リトモさんは今も生きてる。
今、解って知ってる事はソレ! だからソレでいいの!)」
私は無理矢理気持ちを切り替えては毛皮へと寝転び直す。
こんな綺麗な星空を天井にふかふかの毛皮で寝ているんだ。
此処は風も強く吹かないし、近くにはエルフ達が一杯居る。
ドラ……ワイバーンさん達も仲良くなれそうだ。
うん、今はそれで良い。ちょっとずつ、ちょっとずつ良くなってるんだ。
過去に色々あったって良いじゃない! 本来、知る事も出来ない事で
たまたま、システムさんが教えてくれてるだけなんだから!
そう、その時の私は知る由が無かったのだ。
明日のワイバーン達との〘竜言語〙講習もまた別の地獄であるという事を。
第八十二歩「ワイバーン・リスニング」に続く




