第七十九歩「キュン死ってもう古くない?」
兎角、小悪党のゲスはマッチポンプ気味に打倒される。
起き上がるロシカさん(クズ)がリリーサさん(ゲス)に手を引かれて咳払い。
膝周りをぱすぱすと手で土を払い、背中をとんとんと叩いては
背筋を伸ばし直す。やっぱり、相当のお年のご様子だね、ロシカさん。
動作の節々に老いと疲れが見えるのは仕方ないのだろう。
「と、まぁアレです。こんなの無理矢理ドカバカ飲ませてたら
そりゃ、嫌いになるし、強化した後に復讐されるのが解るでしょ?
だから、私は君達と友好的にこの実験を試みたい」
「ロシカ様! 質問です」
「ん、リトモ君。どうぞ」
ロシカさんが説明を続けているとびしっと空を突き上げんばかりに
手を上げるロシカさん。居る居る、ああいうの学校のクラスに一人居た。
やったら、元気というか前のめりの意識高い奴はどの世界でも共通か。
ロシカさんもリリーサさんもにっこりとその様子を微笑ましく見つつも
彼を指す。なんだか授業めいてきたね。
「お気遣い大変ありがたいのですが! 我々としても
強くなれるとは言え、本来は必要がない力でもあります。
この対処及び心持ちの維持を如何お考えでしょうか!」
「うむ。良い質問ですね。そう、モチベーションと何よりご褒美が無ければ
こんなんやりたがりません。はい、コレはココできちんと公言しておきます」
「我々としては今回実験の過程において貴方達に本来、この森で過ごし
また、エルフでは味わえない〈娯楽〉等を提供いたします」
「おおっ! 〈娯楽〉ですか!」
ロシカさんの質問。うむ、流石の意識の高さあってモチベ維持に関しては
かなり気を使っている様だ。まぁ、士気、やる気って大切だものね。
まして、辛い事や痛い事なんて進んでやるもんでもない。
そして、ご褒美があるとすればそれをリトモさんは大きな声で反芻する。
うむ、これは若干計算入っているな。
勿論、当人も大なり小なり喜んでは居るのだろうけど
心底喜んだ風に見せる大声は、周りの印象も空気もガラリと変えてしまう。
色めき立つ他の少年少女エルフ達はまだ見ぬ〈娯楽〉への期待に
胸を膨らませている。まぁ、当然みんなまだちっぱいであるが。
「ただ、我々も一応人間だったので最初は貴方達の好みや嗜好が解りません。
なので最初は君達が何を楽しみ、何を好むのかを知る所からになります」
「一応準備期間も少しずつ聞いていたけど、やはり実践となるね。
此方も手探りになる。ま、そこら辺も含めてお付き合い願いますよ」
「「はーーい!!」」
「……(なるほど)」
これはアレか。好みの話を聞くという前提で相手に心を開いてもらうとか
そういう手口か。そりゃ、自分の好きなものとかを語る時は楽しいし
それに共感、同調して相手が応えてくれるなんて大人でも
ホイホイ色々話してみたくなるもんだ。私はこうやって
過去の事象としてこの流れを見ているが、その当時にこの現場で
この流れを体感していたら恐らく、結構ワクワクドッキドキであったろう。
怖いなぁ、この二人は天然なのか計算なのか解かんないけど
全力で取り組むために色んな知識を総動員しているのがほんっと怖い!
「まずは君達との共同生活となる。勿論、里のお仕事を手伝うのが
最優先ではあるけど此処で生活し、お互いを高め合う事になるからね」
「いきなり、実験と言う訳ではないのですか?」
「うん、最初はちょっとずつ〈ケイオス・タール〉をパンや粥につけて
不味くても少しずつ身体に慣らそうと思ったのだけど」
「無配慮に食事の〈娯楽〉を奪うなど万死に値します。
億回、死になさい。私が見ている間には絶対させません」
「……(ざっと千倍増えてるね)」
一緒に寝泊まりして連携を強めつつも相互監視?
うーん、邪推も出来るし、単純に管理のし易さとかの選択なのだろうか。
分からん、ほんっと頭が良い相手っていうのは怖い。
裏側にいくらでも悪意は透けて見えるし、善意として振る舞って
信じてしまうべきなのか悩ましい。
そんな事を悩んでいる間に気付けば、物凄い殺意を放つリリーサさん。
そのあまりの目の見開きっぷりと念に少年少女エルフ達も若干引いている。
「マン?お、オク?」
「そういう数字の単位があるんだよ。あんまし田舎じゃ使わないかな。
という事で初期案は僕の身体諸共、過去に蹴り飛ばされて却下されてる。
リリーサは食事にうるさくてね、いやーアレは飛んだもんだよ」
「ロシカが無頓着過ぎるのとろくに食べないから軽いんですよ」
「……(女子力高いではなく、食意識高い系なのか、リリーサさん)」
ああ、なんかオーガニックとかロハスとかこう、繊細そうなイメージがある。
『あてくし、名産ブランドの所しか食べませんことよ?』とか言いそう。
口調全然違うんだけど、言いそう。むしろ、ブランドをプロデュースしてそう。
そういった、謎の食への情熱を僅かに覗かせ、そのまま鎌首をもたげる
大蛇の如く、ロシカさんを睨みつけるリリーサさん。
なんで、此処の世界は視線が戦国武将女子が多いのだろうか。
何、訓練積んでるの? それとも流行かなんかの必修科目なの?
「ただ、経口摂取による習慣として定着化するのは妥当です。
なので、君達に常食として日々の生活を共にする
〈ケイオス・タール〉メニュー開発が最初の課題です」
「味だけじゃなくて魔力定着も配慮するから大変だよ。
という事で暫くは水で薄めた〈ケイオス・タール〉を一日1杯。
慣れたら、3杯かな? ソレくらいは?」
「分かっています。私も遊びに来た訳ではありません」
「……(あ、其処はやっぱ妥協するのね)」
リリーサさんの中でちゃんと食事を作るのが目標というのが
最大限の譲歩ということだろうか? まぁ、二人共エルフと仲良くしたくて
こんな事をしている訳じゃないのは当然なんだけどね。
料理を作る交流や味覚の確認もまたお互いの理解への一歩だろうし。
【チャプターの切り替え時間が迫っています。
次のチャプターシーンはそれから約一ヶ月後になります】
「……(お、チャプターで区切ってるのか。レンタルDVD?
えーと、BDの方が今は主流なのかな?
まぁ、どっちにしろそれっぽいね!)」
システムさんからの警告が入ると目の前の夫婦漫才説明会が
ぴたりと時間停止すると共に再び視界は暗転する。
組み立てられる風景と人物は大して変わらないが並べられたソレに
若干驚愕を覚えざるおえなかった。シーンは食事の最中だろうか。
場所は先ほどと同じ石造りの建物の外で大きい食卓と椅子が並べてある。
食卓には痛めた野菜とパンと粥があるのだが、それらとは別に
大きい鍋でつい先程まで煮立てられていたであろうソレ。
なんだか黒くてどろどろした中に芋や根菜が煮詰められている。
匂いは良いのだろうか? なんだろうこのリアル闇鍋。
肉とかも浮いているし、美味しいの?
イカスミとかもそりゃあるんだろうけど、この黒さってどーなの?
「みんな、手を洗ったかなー? 手を洗わないとリリーサが」
「「はーい」」
「何か?」
「おっと! もー怖かったね! さ、ご飯をガツガツ食べて
午後も遊んだり勉強したりしよーかー」
「ちゃんと噛んで下さいね。噛まないと消化に悪いです」
「「はーい!」」
そう言って、みんな木のスプーンと木の椀で
その黒々とした煮物をお玉で取り分けている。
凄い、絵面として黒いあのドロドロ煮が少年少女エルフ達が
我先にと取り合っている。各々自分のパンや粥にそれをぶち掛けているのは
紛れもなく真っ黒なんだけど、まーー、みんな美味しそうに食べる事食べる事。
凄い、男の子でおかわりをしている。これ、やっぱりあの
〈ケイオス・タール〉ってのが入ってるんだよね?
イカスミとかなんか別の炭を投入している訳じゃないんだよね?
「しかし、このなんだっけ。〈カレー〉っていうのは中々凄いね。
辛味も強いから味も大抵なんとかなってしまうっていうのも」
「〈ケイオス・カレー〉と名付けました。北西の国の煮込み料理ですが
そもそも煮込み料理全般を〈カレー〉と言うそうです」
「香辛料の飽和攻撃はいささか贅沢だが一番美味しいんだから仕方ない。
まぁ、味自体はあるからね〈ケイオス・タール〉も自然魔力の凝縮だし」
「週に一回の楽しみです。何より、暦を意識付けるにはこういう習慣は
良いでしょう? 曜日を忘れなくてすみます」
「……(これ、カレーなのか!?)」
思わず、鍋を見入る様に覗き込む。く、嗅覚と味覚が無いのは
軽く飯テロ感があって中々に厳しいね! しかし、考えたね。
カレーかー。まぁ、香辛料ぶち込めばみんなカレーになる――って!?
「……(待て、〈カレー〉だと?)」
え? 〈カレー〉って確か元に居た世界にあったあの〈カレー〉だよね?
インドでマ、ハラ~ジャ~でヨガァ!でタージマッハールなアレだよね?
そう、確かに香辛料をぶち込むインドの煮込み料理は〈カレー〉と言う。
翻訳の関係かな? システムさ~ん! どうなってんの?
【単語の呼称に関しては理解、発音出来る様に翻訳しています。
スキル等を用いて相手に伝える場合も相手の言語として受け止められる為
その際は自動的に翻訳されて相手に伝わる仕様になっています】
「……(お、おぅ。うーん、どっちだろう?)」
あくまでシステムさんは翻訳と言うがコレは一体。
たまたま、名前が一致しただけなのだろうか? そういえば、前世の世界でも
〈カレー〉は地名であったよね。フランスの港町だったっけ?
それなら別にこの世界の料理名がたまたまかぶる……全く煮込み料理で?
あ、それとも元の世界の文化や人物が流入している?
私一人だけがこの世界に来ている訳でも無い可能性もあるのか。
うーん、謎が深まるばかりだ。とにかく、なんかイカスミみたいな
黒ドロカレーとは言え、少年少女がガツガツ食う様と言うのは
「……(控えめに言って、素敵過ぎじゃね!?)」
うん、〈廃棄されし者の楽園〉の子達もそうだけど
こっちはより一層キャンプ感マシマシでお送りされている訳ですよ。
ああ、ほっぺとか服とかスミで黒いんだけど、それもまた味な訳!
ああ、よく分からない雑穀のおかゆがほっぺに着いてるとかかわいい!
解る? 解らない! 誰か解って!
【理解判断を欲求する基準が曖昧です】
う、其処は敢えて乗ってほしかったよシステムさん!
あ、なんかこのやり取りちょっと久しぶり!
最近はゆっくりこういうやり取りも減っちゃったよね。
まぁ、私がエルフさん達と話したり、色々作業する時間も増えたもの。
ただ、まだお世話になっております。ありがとうね?
【チャプターの切り替え時間が迫っています。
次のチャプターシーンはそれから約一ヶ月後になります】
「……(うん、ノーリアクションでも私はめげないよ!)」
そんな訳で再び、世界は暗転していく。大体、一ヶ月更新なのかな?
最初は実験の説明、次は食事の発展、そして次はなんだろう?
そろそろ、起、承と来ているから転が来るのかな?
まぁ、そんな都合良く展開を区分けしている訳がない――グハッ!?
「……(殺す気か!)」
……こう、私にも心の準備が要る訳なんですよ。不意打ちで!涙目で!
小刻み震えてそうなトップレスな美少年エルフのシツネ君の図とか!
いきなりかましたら、ときめいてキュン死しちゃうでしょうがぁあああ!
第八十歩「染まる身体」に続く




