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第七十八歩「混沌に染められる日々」

 意識がブラックアウトした後に、まるで飛び出す絵本の様に

景色や人物、家屋が飛び出してくる演出にも大分慣れてきた。

この[レガシーピース]の再生、過去の回想観覧も何度目だろうか?

原理もそもそも何故こんな機能があるかも解らないが

それでも見れるもんは見る、貰うもんは貰う精神で

今日も過去を覗き見にする私である。きっと何か役に立つ筈だ!


【データ読み込み終了。この[レガシーピース]の再生に際し

 特異事項が存在し、通常の再生と異なる演出になっています】


「……(特異事項? まさかR-18展開とか無いよね!?)」


 数日振りの[レガシーピース]再生。今回は最初に見た〘賢者の依頼〙で

大賢者と称されるロシカさんのエルフ強化実験交渉後の頃合いであろうか?

いかにも動きやすそうな服装を来た少年少女エルフ達が集められており

雑然と並んでいる。森の木々の中にまるで突然現れたかの様に

溶け込めない石床と壁で作られた建物は何処かコンクリートみたいな

印象を与えており、威圧感と冷徹さを感じさせる。

お化けとか出そうだね。今、私がお化けみたいなもんなんだけど。


そして、特異事項の言葉に思わず、息を呑む。どういうことなの?

エッチなの? ギリギリのラインを攻めていくの?

前回の際はこのタイミングでグロ注意の警告が来た。

それとは別の注意点ということだろう。やっぱり、エロか! そうなのか?


「この[レガシーピース]はダイジェスト形式で数年の経過を

 要所要所でお伝えする形式になっています。再生を開始しますか?】


「……(む、時間飛び飛びなのか。その分長いスパンって事なのかな?)」


【また、[レガシーピース]に性的娯楽要素を提供する趣旨はありません】


「……(あ、はい)」


 続く言葉に一瞬、頭が冷静になる。つまり、時間が飛び飛びって

事になるのか。今までのパターンからして大体、一回につき2~30分

あるかないかの体感ではあったが流石にそれだけだと本当に

ちら見覗き見の域を出ないのでむしろ、ありがたい。


 うん、それにえっちなのは期待するなと直で説教されちゃったよ。

べ、別に期待してた訳じゃないんだからね! むしろ、ココで逆に

ムラムラ来ちゃったら余計しんどいからね、ほんと。

さて、さっさと見てとっとと寝よう。明日もあるんだし!


「……(ま、始まらないとどうなっているか解らないからね。

    それじゃ、システムさん、再生お願いー)」


【[レガシーピース]〘混沌に染められる日々〙の再生を開始します】


 システムさんの掛け声と共に辺りの木々のざわめきや水の流れる音

そして、エルフ達の呼吸やひそひそと喋り声が耳を撫でて来る。

動き出す時の瞬間というのは何度やってもなれない。

びくっと私は小心者臭く震えてしまいつつも、ロシカさんとリリーサさんの

手元を見る。木製で出来た、メガホンの様なモノがある。

おお、なんか見覚えというか馴染みのある品が見れると言うのは

テンションが上がるものだね! あんまり縁があったとは思えないけど

なんというか科学の片鱗っぽいのを見れて、安心感も湧いてくる。


「では、集まりましたね? では、挨拶と諸注意から始めさせて頂きます」

「はい。改めてー、ロシカ・フィネークです。

 この度は皆の協力は大変感謝致します。

 君達を誠心誠意サポートさせて頂くね。痛いこと、辛いことはあるけれど

 君達の尽力により、私や君達エルフもそして、全ての人類、亜人類の

 未来の礎として後世に偉業として名を連ねるでしょう。上手くいけばね!」


ロシカさんが声を張り上げてらっしゃるのだけどこう、ダウナー特有の

元気の空回り感が半端ない。そんな無理しなくて良いんだよ、普通でね?

リリーサさんが司会進行の様な形という事だろうか。

きっとまるで蛇の様に鋭い視線でロシカさんを自制させた後

淡々と話しを切り上げさせ、大きく咳払いをして場を仕切り直す。

尻に敷かれてますな、ロシカさん。私は少年少女エルフの後ろ側に

まるで授業参観気分でその様子を眺めている。


「と、ではこちらは知っている方もいらっしゃいますがリリーサです。

 皆さんにご挨拶をお願いするね」

「では、ご紹介に預かり改めまして。助手を務めさせていただく

 リリーサです。女児も居ますのでロシカに言いづらい事は私に。

 そして、こちらは助手としてより私達二人の“元”人間から

 今回の実験で守って頂きたいことがあります」

「……(あ、この二人やっぱり人間辞めてるんだ)」


 さらっと宣言された中に混ざった言葉に思わず二度見する。

元と敢えてつける即ち、もう後戻り出来ない状態なのであろう。

ある意味、人間としての形状は私より全然近いのに潔いもんだね。

そして、うん。女性助手って必要なんだなーって場面である。

エルフの親御さんのお手伝いじゃアレだし、ロシカさんに何でもかんでも

ではかなり困難が予想されていただろう。女子側としてもね。

言いづらいとか見えない配慮もあるだろうしね?


「身体の不調が少しでも出たら絶対に報告して下さい。

 我慢はむしろ、他の子も我慢させて伝染していってしまいます。

 別に私は我慢強さを鍛えたり、君達を苦しめるのが目的じゃない。

 君達が結果、強くなることが目的です」

「強くなった後の事は相談に応じますが別に私達が戦争を仕掛けたいとか

 そーいうのは無いのでそこら辺は日々の行動で信用して下さい」

「アナタはむしろ、不信を生むことしかしなさそうですがね」

「え? あ、あはははは。参った参った」


 堅苦しいながらもしっかりと子供達を見据えたリリーサさんの言葉は重い。

なんというかほんと前から思ったが無駄にこの二人は対応を丁寧にしようと

努力している傾向が強い。その中、途端に始まった夫婦漫才じみたディスりに

思わずエルフの中から笑い声が漏れている。後、リトモさんの笑い声がでかい。


「ロシカ様、質問です!」

「あ、リトモ君だったかな? 質問する時は手を上げてくれ。

 これは生意気に言葉を選別している訳じゃなくてね。

 質問する側、される側の双方を見る準備を周りにさせる為に必要なんだ」

「なるほど! 流石、賢者様です!」

「ふふ、だろー?」

「私の入れ知恵です」

「ちょっとリリーサ! そこは格好付けさせてよ!」

「……(掛け合いが往年のソレである)」


 いきなり始まった漫才じみたそのやり取りに思わず、少年少女エルフ達の顔が

ほころんでいるのが見える。くそ、見た目の割に言動のコミカルさのギャップが!

なんというか改めて、以前見た[レガシーピース]での二人は

真面目なシリアスモードという事なんだろうか。子供相手にあんなにはしゃいで。

最初は緊張した面持ちだった少年少女エルフ達だが

笑いが聞こえる声が大きくなっていた。


「っと、では改めてリトモ君。質問をどうぞ」

「はい! で、我々はまず何をすれば良いんでしょうか!」

「うむ、積極的な姿勢は実に好印象だ。

 ただ、あまりに勇み足過ぎるのは良くないよ?」

「ロシカ。あまり、待たせ過ぎても不安が広がるだけです。手短に」

「そうだね。っと、では皆に我が秘術を見せよう。

 円陣を組むみたいに集まってくれるかな?」

「前の方の子は座って下さい。背が高い子は後ろで立って」


 リトモさんの少年期はほんとリトモ君しているな。

改めて、元気ハツラツな様子は以前見たのとノリがそのまんまなのは

やっはり、コレが素なんだろうね。元気なリトモ“君”も中々かわいい。

まぁ、逆にその後の血みどろ産婦人科は違い過ぎて年季を感じたけどね。


 それとは別にロシカさんとリリーサさんを取り囲む様に

ぐるりと少年少女エルフ達は集まり、じっとロシカさんを見つめていく。

うむ、なんか段取りが手慣れているね。


「さて、お立ち会い。これが我が秘術にして究極の一端!

 〈ケイオス・タール〉だ」

「……黒い、液体?」

「いや、なんかぬらぬら光ってる。ほれ、臭水って言うんだっけ?

 燃える水があるってのは聞いたことあるけど」

「……(どれどれ? おわ、ほんと石油みたい?)」


 ロシカさんの取り出した茶色の陶器の瓶。コルクで栓がされたそれに

リリーサさんが出した大皿へとソレは注がれていく。

ぬとぬとぬらぬらとした黒い液体はペンキよりも粘度がありそうで

見た目だけなら黒糖の水飴みたいな印象が受ける。

光に乱反射する時に虹の様な光沢が見える様子は正にタールなのかな?

何となく、言葉のイメージで黒っぽい液体の見た目と直結はしてるけど。

ケイオスってなんだろ? ケイオスさんが見つけたってこと?


「これはその[闇属性]の物質なのでしょうか?〈深魔海〉辺りの産物で?」

「ああ、一見禍々しく見えるだろう? 違うんだ、これは実はね」

「天然の魔力を凝縮しているのでむしろ、自然界の力を凝縮していると

 言っても過言ではありません」

「あ、美味しい所を!」

「ロシカがもったいぶって焦らすのが悪いのです」


 相変わらず、夫婦漫才を挟みつつも説明を続けていく二人。

しかし、そんな中でも彼らの手元から溢れ注がれるその液体は

異彩を放っていた。実際、匂いとかはどうなるか気にならないでもない。

この回想空間、匂いと触感等は再現されないが……まぁ、前の時みたいに

死体並んだ場所の匂いやら血溜まりの触感とかは勘弁したいので

そこら辺はメリット・デメリットそれぞれなのだろう。


「今回の実験は大雑把に言えば〈ケイオス・タール〉を摂取し

 身体に定着させる事です。それだけで劇的に能力は底上げされるでしょう」

「セッシュ? えーとつまり」

「身体に塗ったり、食べたり、飲んだり体内に入れる事ですね」

「「「えーーーー!!!」」」

「……(えーーーーー!!!)」


 思わず、少年少女エルフと私の声がシンクロしてしまう。

これを飲み食いしろってか! 思わず、少年少女エルフ達と一緒に

皿に注がれていたその黒い液体を見つめていく。

ロシカさんを指でその液体を突っ込んで引いて見せたりする。

完全に遊んでやがるぜ、このお兄ちゃん。

それを気持ち悪がるエルフ達のキャッキャとした騒ぎは

なんだか、科学館とかで理科の実験を眺めさせている様にも見える。


 しかし、私も体内が真っ黒液体であったんだけど……どうやらこの

〈ケイオス・タール〉とは色のニュアンスが違う様だ。

私の中のドロドロは真っ黒で光を反射しないのだが、こっちは油膜を張り

なんだか少し透かせばキラキラと琥珀色の様な色合いで反射光が

虹色掛かっている様にも見えた。どう見ても海に流しちゃダメな色合いだ。


「ま、では物は試しだ。皆、舐めてみると良い。

 私ももちろん、舐めた事はあるよ」

「では、自分が!」

「兄さん!? ぼ、僕も」

「なんか蜜っぽい? 美味しいのかな?」

「砂糖を煮詰めるとそーなるって聞いた事がある」

「へー、砂糖ってめっちゃ高くて甘い奴だよね?」


 興味津々だったエルフ達はそのまま指を皿に突っ込んでは

その黒々とした液体を指に掬っていく。最初の一人目は

流石のリトモさんだったが他の子も興味があるらしく

次々と後に続いていく様子はリーダーシップというか

蛮勇というかもうほんっと分かりやすいな。

皆が怖がっている中、進んでいくのは悪いことではないんだけどね。

さて、ある程度の人数が指で掬った後、その黒い液体を

リトモさんを始め、次々に口へと運んでいく。


「苦い!」

「辛い!」

「甘い!」

「しょっぱい!」

「舌がピリピリする!」

「ねとねと気持ち悪い!」

「「「まずいいぃーーーー!!!」」」


 子供達が阿鼻叫喚の死屍累々です。いや、まぁ如何にも

見た目はヤバイのに手を出したのはアレだが軽く舐めただけで

舌先を出しては涙目になったり、のた打ち回る子達が続出する。

おまけになんの性か因果かソレを見ても尚、子供の好奇心は勝るのか

次々と舐めては前のめりに倒れていく少年少女エルフ達。

若さだね、懐かしいね、そしてその愛しさが眩しいぜ。


「あ、美味しいなんて一言も言ってないよ? 原液は流石に無理だよー」

「今の感想は全て記録します」

「……(あ、コイツ想定以上にクズだぞ!?)」


 そう言ってにこやかに笑っているロシカさんが少年少女エルフから

一斉に視線を向けられた瞬間、ゴスッ!という音とともに後ろから

リリーサさんの奇襲手刀が叩き込まれる。しかもフルスイングだ!


 倒れるロシカさん、沸くエルフたち、しかぁしぃ、私は騙されないぞ!

リリーサさんだって皆が舐めに走った時に特に止めずに後ろで

めっちゃ邪悪な笑みを浮かべて、その一部始終を見守ってたんだからね!

                第七十九歩「キュン死ってもう古くない?」に続く

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