第七十七歩「ワイバーン・ラーニング」
「ぽぽぽっぽっ(大丈夫?)」
「アア、モウ痛ミハ無イ」
楽園生活二日目、私は起きると少し離れた所のスルスミちゃんも起きていた。
若干、筋肉痛でぐってりな印象を受けては居たが、そこら辺は律儀なのか
キビキビと足を動かしては他の子の野営地へと向かう。
さて、今日から〘ラジオ体操〙と〘筋トレ〙の導入だ。
朝は皆で起きて、それを済ませてから朝食という感じになる。
なんだか、夏休み感満載でとても気分が良いが、治療も終わるまでと
思うとなんだか寂しくもなっていく。まぁ、治療を初日にした子達の
体調は未だに戻らないとの事なので結構この日々も長引きそうだ。
「ぽぽぽっ(おはよー)」
「おはようございます」
「「おはよー」」
うむ、少年少女エルフ達の一斉の挨拶が辺りに響く。
ああ、なんか青春してんね、この間まで一人で悶々と明日を生きる事を
考えてたのが嘘の様である。やっぱ、人間は群れてこそなんだろうね。
今、私は人外の化け物なんだけど、細かい事は気にしない。
そう、例えばこうやってなんだか急に暗くなってくる事なんかも……ん?
「ウム。オ邪魔シテイル」
「ぽぽっ、ぽぽぽっ………ぽっ!?(はい、おはよ………ふぇ!?)」
ふと、覆う様な影が伸びてきたと思ったら
ドラ……ワイバーンさん達が数匹、野営地へと顔を出していた。
いや、顔って言うけどそりゃもう顔だけでもどえらいサイズな訳ですが!
え、なんか問題逢ったのかな? 騒音被害? 昨日ちょっと騒がしかったけど
あんな向こうまで聞こえるほど私たちはうるさかったのかな?
「不安ガラズトモ良イ。我等、森ノ友ノ友ノ〘レディオ・タイソー〙ニ興味ガアル」
「ぽぽっ!?(はい!?)」
「我等モ此処ニ来テ、日ガナ身体ヲ使ッテイルガ、鍛錬ハ我流故中々ナ。
コウイウ鍛錬ハ怪我ヲ防ぐ為ニモ良イト聞ク」
意外な珍客と言うかなんというか。頭を垂れ下げて私の方へと
それを近付けるワイバーンさん達。顔面圧力パないすね。
これ断るのはまぁ、無理としても私としても数点疑問はある。
聞いて良いのか悪いのか解らないので数度視線を動かした後
やはり、助け舟はイケヅキ君。うん、一番聴きやすいからね、仕方ないね。
「ぽぽぽっぽっぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽっ?
(うーんっとイケヅキ君が話した?)」
「あ、えーと違います。どうしよう」
「ウム、我カラ話ソウ」
「ぽっ、ぽぽぽっぽっ(あ、お願いします)」
わざわざ報告しに行ったのかなと思ったので尋ねてみると外れだった。
まぁ、いきなり集団で踊り出したらどうしたんだろうと思うが
ワイバーンさん的にはそれはOKなのかしら? 踊らにゃそんそんなの?
言い淀むとまさかの本人もとい本竜からの申し出である。
なんか、ワイバーンって言われているが私からすれば
そんな細けぇ区別はつかないので竜からのお言葉って言うと
なんだか身が引き締まって緊張してしまいますよ。
「我等ハ此処ノ守護モ生業トシテイル。故ニ、コノ一帯ノ〘霊話〙ハ
全テ我等ノ耳ニ入ル様ニナッテイル」
「ぽぽっ!?(なんと!?)」
「故ニ昨晩ノ話ハ僅カニ聞イテ居タ。何時モハ気ニ止メヌガ熱心ダッタノデナ」
「ぽぽぽっぽぽっぽっ(お騒がせしました)」
衝撃の事実を聞いた後、私は申し訳無くてぺこぺこと頭を下げる。
騒音被害って程度じゃないよ。丸聞こえどころかスピーカーみたいなもんじゃん。
いや、事前に教えてくれれば良かったけど、声を抑えたけど!
まぁ大抵は普通にやり取りするもんだと思うよね、普通。
私があまり喋れないとか〘霊話〙の事前情報は知っていたのかも知れないが
流石にあのプレゼンを来て二日目にやるとは私自身も思わなかったし!
「気ニスルナ。森ノ友ノ友ヨ。我等ハ知識ニハ敬意ヲ払ウ。
如何ニ小サクトモ、知恵ハソノ体躯ノ差ヲ凌駕セシモノ」
「ぽっ、ぽぽぽっ(いえ、なんか滅相も無い)」
「故ニ教エヲ乞ワセテ貰ウ。我等ト身体ノ作リハ違エド
其処カラ叡智ヲ紡グノ故、ソノママデ構ワヌ」
ワイバーンさん達はものすっごい丁寧で落ち着いた物腰で
語りかけてくる。こうエルフの老人やスルスミちゃんを見た後だと
この飛竜達も偉く紳士的と言うか穏やかと言うか。
〈骨の柱〉を叩き潰している所作からちょっと野蛮かと思ったら
ううむ、流石の知性と言った所か。そして、疑問を先に潰されてしまった。
流石にそのまんまやろうとしても関節やら重心やら筋肉の違いは
あると思ったが彼らなりにアレンジはする様だ。
「ぽぽぽっぽぽぽっぽっ(私は構わないので)」
「では、横で見てもらう感じで」
「ウム」
「ぽっ、ぽぽぽっ(じゃ、始めるねー)」
「「はーい」」
【〘ラジオ体操・第一〙を流します】
そう言って、ワイバーンさん見学の元私達は砂浜で
〘ラジオ体操〙をする訳です。いえ、特に邪魔ではないんですが
彼らが見よう見まねで翼を振る度に軽く突風じみた風が
飛んでくるのと単純な威圧感はありますが、それでも彼らは紳士的に
眺めて過ごすだけでしたのでもう、文句も何もありません。
うん、多分こーいった「しょーがないか!」の寛容さが仲良くなる
秘訣だと思いたい。我慢ではない。流す程度の度量なのだと!
「ぽっー。ぽぽぽっぽぽっぽっぽぽぽっぽっ。
(いやー、併走してるだけなのにすごかったね)」
「はははっ、悪気は無いでしょうし皆、ある程度慣れてますから」
「ウム。我等ト森ノ友ノ付キ合イハ人ノ子ノ一生ヨリモ長イ」
ええ、〘筋トレ〙が終わった後の走り込みにも
もちろん参加をしていただいた訳なんですがほんっと
デカイのが隣でドタバタ走ってるって、もう凄いアトラクションな訳ですよ。
おかげで私は全ての過程が終わった後、精神的疲弊も合間まって
皆が野営地で朝食を食べた後、のんびり休憩している中でもぐったりしている訳です。
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽっぽぽぽっ(けど、アレは危なかったよー)」
「毎度注意ハシテルンダガ、マァ子供ノヤル事ダ。
逆ニ痛イ目見ナイト覚エン」
「アレ位デ踏ム程、我等モ鈍クハナイ。
シカシ、意外ト心配性デアルナ。森ノ友ノ友ハ」
私がアレと話しているのは道中悲鳴に上げた件でした。
少年少女エルフ達もきゃっきゃとはしゃいで足の間潜ったりしてるし
もう、踏みつけられたら死ぬよね!?って事も軽々とやってのける訳です。
私は見てるだけでも心臓バクバクでしたよ! それを笑い話にしてる
この子達はもう……まぁ、言う通り付き合いの長さだろう。
エルフ達からすれば、巨大な隣人ならぬ隣竜と過ごすのが日常であり
里や此処では時折、逢っていたのかな?
「マァ、コイツラハアタシ達ヨリ長生キダカラ大シタ長サデモネーガ」
「森ノ友ノ娘ヨ。過ゴス時ノ密度ガ重要デアル。
娘ノ幼子ノ時ナド大変デアッタカラナ」
「ム、昔話ハヨセ!」
えっらく、フレンドリーに話しているエルフとワイバーン達。
ううむ、やっぱりワイバーンさん達も長生きなのか。
此処の世界、長生き多過ぎじゃないですかねほんと。
よく人類発展できたね。いや、私が人間であったであろう
世界よりも人類の生存圏は狭いのかも知れないね。
タワラやトゥータみたいなデカイ動物どころか
獣人、エルフ、ましてワイバーンさんまで居るとなると
そりゃ、物理的にも勢力的にも肩身は狭くなりそうだ。
「ア、ソウ言エバ、コイツ言語ヤ声ヲ勝手ニ覚エルスキルガアルゾ。
〘竜言語〙モイケルンジャナイカ?」
「ホホゥ。ナルホド、華奢ナノハヤハリ知恵ニ力ヲ振ッテイル所為カ。
フム、良ケレバ仕込ンデモ良イガ」
「〘竜言語〙をですか!? ええと、あれって貴重だったと聞いていますが」
ふと、スルスミちゃんが振った話題に周りもざわつき始める。
エルフ達も〘竜言語〙と言う言葉に大きく反応を示している。
なんだろう当竜達も〘古代エルフ語〙で会話を交わしているが
それとは別に母国語みたいなものでもあるって事かな?
何となく、聞いた字面では竜の種族の独自言語っぽい?
イケヅキ君からのリアクションと言葉からこの言語と申し出の
贅沢さが何となく垣間見えてくる。こ、これは受けとこう。
絶対、後でなんか得するに違いない!
「森ノ友ノ童子ヨ。我等モ、コノ地デ過ゴス時ノ中デ大分丸クナッタ。
日々〈骨の柱〉を折リ続ケル安穏ナ日々モ良イガ
汝等ノ成長ヲ見ルノモマタ楽シミナリ。ソレト同ジデアル」
「だそうですが、どうします? 実際、時間は幾らでも作れますが」
「……(『喜んで』『お受けさせて』『頂きます』っと。〘霊話〙で丁寧に)」
「ウム。良イ言霊デアルナ」
表情は解りづらいがワイバーンさん達はにこやかに笑った様に見えた。
爬虫類の顔、目はぎょろりと輝き、硬い鱗の顔でも感情というのを
表現しようとすると案外伝わるものなんだね。うむ、これは私も
頑張らないといけないよ。人外とは言え、人間の肉体に似てるだから!
その後はまた、私は楽園の日常へと戻る。ワイバーンさん達は
私が午前の治療の一部始終をついでに見ていくと自分たちの作業している
方向へと飛んで行ってしまう。私が〘竜言語〙を習うのは明日の夜かららしい。
今日は〘ラジオ体操〙アレンジで忙しくなるのかな?
うむ、想像するだけでなんともコミカルなものだ。
そのまま夜までは先日通り、未だに初日の子達の体調があまり優れないのは
心配では有るが、それでも私の勤めとして誠実に当たらせて貰っている。
ちょっとこの仕事だと皆とご飯があまり進まないのが唯一の欠点かな?
運動してお腹は減るには減るのだが、治療を進めたい気持ちもあるので
私は汁物だけで食事はほぼ済ませている。ちゃんと手伝いはしているんだけど
皆も食べない私を見ているのでどうにも遠慮が発生してしまっている。
ううむ、此処らへんは落ち着いたらなんとかならんもんだろうか。
「……(さて、それはそれとて)」
私は寝床へと着いた後にいつもの[レガシーピース]観覧を始める。
恐らく、明日からはワイバーンさん達との〘竜言語〙の授業もあるし
今のうちに余裕を作って見ておこうという算段である。
うむ、スケジュールがびっちり増えてきたのはなんだか
子供時代の習い事を詰め込まれた頃合いな勢いなんだろうか?
ま、それでも現代社会を生きるよりは全然スローライフなんだけどね。
【[パーストポータル]〘隠蔽されし森人の罪〙を展開します。
[レガシーピース]〘混沌に染められる日々〙を再生します。
舞台展開中。現在時刻より地球時間200年程遡ります。
詳しい年月日等は現段階では特定出来ません。
現在、データを読み込み、構築中です】
「……(お、200年って事はロシカさんの依頼と同時期。
やっぱり、実験内容についてのシーンなのかな?)」
前のロシカさん達の依頼やシィナさんとシツネ君との
甘酸っぱい青春模様やらと同じ頃合いだとシステムさんは告げている。
うむ、となるとそろそろそこら辺の過去に触れる訳か。
あの黒くてドロドロとした少年少女エルフ達を蝕んでいる理由も
解るのかも知れないというとちょっと緊張する。
明日からも顔を合わせる訳だ。ちゃんと気付かないふりをして
態度を悟られない様にする……うう、私には難易度高そうだなぁ、おぃ。
「……(って……コレはまた、病院か学校?)」
私が落ち込んでいる頭を上げた瞬間、ソレを見上げる事になる。
灰色の石造りの壁は一見コンクリートで出来ているかの様な
建物でその前にはぞろぞろと楽園に同行した少年少女エルフと
同程度の年代の子が並んでいる。リトモさんもシツネ君も居るね。
周りは森になっているが川沿いでもある。
うーん、私がイケヅキ君と住んでた小屋よりも下流にあるっぽい?
「……(あ、やっぱりこの二人が居る訳だね)」
その集団の前には大賢者ロシカ・フィネークと
助手のリリーサさんが立っていた。まーた、血みどろなのかな?
第七十八歩「混沌に染められる日々」に続く
〘竜言語〙[言語][竜]
竜、飛竜種に主に使われる共通言語。
極めて、専門的でなおかつ発音が難しい竜達に伝わる門外不出の言語と表向きは言われている。
習得となると竜達との信頼を得ることと長い学習期間を要する事から
取得した人類及び亜人類は極めて少ないとされている。
実態は確かに習得難易度はそこそこあるのだが
そもそも、竜種の殆どが知性が高く他種族の言語をすぐ取得してしまう事と
〘霊話〙によるコミュニケーションを得意とするため
彼ら独自の暗号、愚痴、陰口用の言語として、恣意的に秘匿しているだけである。




