第七十五歩「楽園での一日を経て」
朝焼けと同時に目を覚ます。ううむ、まだお腹がちょっと重い。
しかし、私は食べるもといスキルを使うのが仕事!
なんだか相撲取りとかラガーマンみたいな勢いだが仕方ない。
エルフの少年たちも寝惚けて寝癖立てながらも泉に連なって
顔を洗っている。おお、歯も指で磨いているしちゃんとしてるなぁ。
イケヅキ君もちゃんとやってたけどスルスミちゃんと一部の子は
適当に濯いで終わらせていた。うむ、スルスミちゃんに流されてる子も
ちらほらと居るみたいだね。
「ぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽっ?(さて、何しましょ?)」
「取り敢えず、僕達の朝ごはんが終わったら先日通り
治療の続きをお願いします」
「ぽぽっ。ぽぽぽっぽっぽぽっぽぽぽっ。
(はーい。じゃ、私はご飯抜きで)」
私はそのまま朝のご飯作りやらを手伝いながらも少しでも
お腹を減らしていく。流石に朝っぱらから焼肉というのは無い様で
鍋でお湯を沸かしては生肉スライムを湯通としして茹でている。
石の小刀で肉を抉り切ってはぼとぼとと鍋へと落としていくが
くぅ、こういう時に青じそドレッシングとか欲しいな!
棒々鶏のタレでも良いんだけど! 茹で上がった肉を見ては
そんな欲求にかられる。やっぱ調味料大事だよね!
「……(うむ、スープの味も悪くはない)」
「ありがとうございます。もうちょっと待ってて下さいね」
「ぽぽぽっー(ごゆっくりー)」
茹で汁に木の実やら色々入れてスープっぽいものを作っていく。
うーむ、コクはあるし味も多少付くんだけど、お塩が足りないのは
なんとも辛いものだ。味が締まらないし、胡椒も欲しくなる。
やっぱり、この位の時代って塩も胡椒も高級品なんだろうね。
スルスミちゃんは一体ドコから調達したのやら?
「……(やっぱ、子供がガツガツ食べてるシーンってこう
心がほっこりするよね! 大人しい子もわんぱくそうな子も良い!)」
皆がご飯を食べるのを眺めながらも私は淡々とお片付けをしていく。
嗚呼、いっそ孤児院とか教会とかそういうのに務めるっていうのも
アリなのかなとか思いもしたが、私自体が子供捕食系の化け物な訳で
まぁ、無理だよねー。むしろ、退治されるか追い返されるよねー。
「……(そういう意味だと此処って結構恵まれてるんだよねぇ)」
昨日、治療を済ませた子達に数人付き添いながらも少年少女エルフ達は
空の木や陶器で出来た椀を各々で洗ったりしている。
ふーむ、これって当番化したりした方が良いのかな?
後でイケヅキ君に相談してみよう。小学校とかではやってたし
難しい事ではないと思うんだけどね?
「ヨシ、今日モヤルカ」
「ぽぽっ(はーいっ)」
さて、そんな訳で昨日から変わらず、数人を背中に手を当てて
スキルを使い、黒い線を集めて剥ぎ取る治療を進めていく。
午前中に3人、そしてお昼を挟んで午後に3人のペース。
概ね、この予想は悪くなく、男の子と女の子の配分で調整していくと
難なく私もスキルを行使する事が出来た。
先日の子達と味の印象はそんなに変わらず
やはり種族や症状事に味は決められている様で新しい発見もない。
そして、午後3人の治療を終えて夕餉になっている訳なのだが
ココで私は一つ重大かつ、かなり深刻な問題に気付いてしまう。
「……(アレ、このままの生活じゃ私達激太りしない?)」
不味い、大変に不味い。私はそもそも皆の食事の手伝いをしているが
基本食っちゃ寝生活には変わりない。しかも栄養効率が良いのか
全然お腹が空かないのである。少年少女達もそうだ。
子供は治療以外の子達は遊んでいるか木の実採集、後は生肉スライムが
切れたらワイバーンさん達から貰いに行けば良いのだろうが
明らかに運動量が足りない気配がする! 特に女子連中は
力仕事を男の子に任せている節もある。勿論、ゴミ捨てや掃除とかも
やってるんだろうけど、それでも足りないと思うの。
本当はお勉強とかってのも良いのだろうが流石にそれは
長期的な話になってしまうし諸々大変だから割愛!
今はこんな子供のうちから食っちゃ寝生活に慣れてしまうのは危ない!
後、何より私がこのままだらだらスキルを使う日々では太る!
絶対に、確実に、太ってしまう! 化け物女で背が高いとか
子供から命を吸い取るとかでもやばいのに、更に太ってるとか
自堕落食っちゃ寝をしているとかを加えるのはもっとダメだ!
何が悲しくて異世界で化け物になってまでニート生活せにゃならんのだよ!
「ぽぽぽっぽぽっ! ぽーぽぽっ、ぽーぽっぽっ! ぽぽぽっぽぽっ!
(イケヅキ君! アーンド、ガールズ! 集合!)」
「え? あ、はい」
「〘ハッシャクサマ〙呼ンデル?」
「ナンダロ? 女ノ子ダケ?」
「男ノ子好キナンジャナカッタッケ?」
最後の言葉は聞かなかった事にする!
と言うか女子エルフまでもうそんな認識なのか私!
そんな風評被害(笑)を物ともせず、私は女の子とイケヅキ君を集める。
当然、女子なのでスルスミちゃんも来るがもう顔が半分眠そうだ。
あの娘、食った後すぐ寝るからな。そして、起きた後、泉に直行して
魚捕まえて戻ってくる相変わらずの野生児スタイルだからな!
「ぽぽぽっぽぽっ。ぽぽっぽっ、ぽぽぽっ、ぽぽっ、ぽっ、ぽっぽぽぽっ!?
(イケヅキ君。私、気付いたのだけど、太りそうで大変危ないよ!?)」
「え? あ、太る……ですか?」
「「太ル?」」
「ァ? ソレガダメナノカ?」
いつもスルスミちゃんが寝ている寝床付近で皆が座りながらも
私が高い位置から訴えかける様を見上げられている。
うむ、この人数の中で主張するなんて前の人生でもあったのだろうか?
学校の発表シーンとかもあったかもだけど、その思い出は思い出せない。
とにかく、思い立ってしまったのならコレは言っておかないと。
治療が済んだ後、贅肉まみれで怠惰が染み込んだ生活とか
それはそれで親御さん達に申し訳ないものね!
「ぽぽぽっぽっぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっぽっ?
(動きが少ないし、好きな時に休んで食べてだから皆太っちゃうよ?)」
「ま、まぁ確かに里の手伝いの時よりは少ないですが
冬の時期なんかはこの位かと?」
「ソウソウ。肥エナイト子供モ産ム時大変ダシ、冬辛イゾ」
「……(発想が越冬する時のクマと一緒か!?)」
いや、そりゃクマだの冬眠する動物は秋に肥えて乗り切るし
冬の時期なんて農耕、狩猟中心だと仕事も少ないだろうけど!
今はそうじゃないし、やっぱり私としては
こう、一人でもくもくと運動したりしても寂しいし
皆と一緒に動いて体型を維持していきたい訳ですよ。
食事の機会も大分減っちゃうしね。レクリエーションの意味も込めてね!
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっ、ぽぽぽっぽっぽぽぽっぽっ。ぽぽっぽぽぽぽっ?
(皆、可愛いんだし、太っちゃうのは勿体無いよ。戻すの大変だよ?)」
「ソウナノカナ?」
「オ母サンモ、同ジ位ダシ」
あー、エルフの里の親御さん達も皆すらっとした2.5次元スタイルだったから
確かにイメージし辛いのだろうか? うーん、人間だと太ったおばちゃんとか
そういうのが周りに居たから見本としては良かったんだけど
美男美女集団ってなると中々、太ったりする時の美醜差が分かり辛いのかな?
多分、美人エルフとややぽっちゃりエルフとかを私が見比べても
両方美人じゃん!? 格好いいじゃん! 綺麗じゃん!ってオチだと思う。
故に皆いまいち太ってしまうという事に対しての意識が生まれず
ぽかーんっとした表情である。クソ、思春期にはまだ早かったか!
私なんて記憶はないのにうっかり太った時の絶望と恐怖は
身体と魂に刻まれまくって今、怖くて仕方ないというのに!
「マァ、解ランデモナイ。狩リノ無イ時期ガ終ワッタ後ノ
始メノ狩リハダルイシ、獲物モ少ナクナルカラナァ」
「姉さん、そういう事じゃないと思うけど。うーん」
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽっぽっ?
(皆は、人間の太った人とか見たことないの?)」
「姉さんや族長は時々用事があって出ますが森を出る事はあまりありません。
周りには人間の農村と亜人の集落しかないので」
「掟ッテノモアルガ、内ノ規模ダト下手ニ関ワルト面倒事ノガ多イ」
スルスミちゃん曰く、ドコかの集落や賊と戦になっても絶対勝つし
物資的にも不足以外はお互い不干渉になっているらしい。
当然、何か大規模災害や疫病等の発生は協力する事もあるらしいが
この百年位は何も無かったそうだ。話が行き詰まっている中
ふと少女エルフの一人が手を上げる。
エルフも挙手してから発言するのか! ちょっと可愛いな!
「スルスミ姐サン。良イッスカ?」
「ン? ナンダ?」
「〘ハッシャクサマ〙ノ太ル云々ハピンット来マセンガ
身体ヲ鍛エルノハ良イカモ知レナイッス」
「フム。続ケロ」
うむ、なんか凄い後輩って言うか舎弟衆溢れる子だな。
確かあの子はスルスミちゃんとつるんでるっぽい子の一人だった筈。
私に矢を射ってたのを何となく覚えている。アレは怖かったなぁ。
――いや、そんな相手と寝食共にしてるってスゲーな私!?
どういう事だよ。射殺され掛けたんだよ、あの子に!?
ま、まぁ今は仲良しなのかな? うん、黙っておこう。
取り敢えず、その子含めて数人は目配せして意見を言う流れだ。
立ち上がってちょっとスルスミちゃんにビビってる感があるのが
なんとも謎の緊張感を醸し出している。
「ウチ等スルスミ姐サンニ色々教エテ貰ッタリシテマスガ
時折、上手ク出来ナイ子居ルジャナイデスカ」
「マアナ。得手不得手ハアルシ、最初カラ全部上手イ奴ハ居ナイ」
「姐サン出来ルマデ見テクレマスケド、ヤッパ身体鍛エテレバ
モット上手クッテノハアルッス。姐サンノハ実践系ガ多インデ」
「練習ト本番ノ回数重ネルノガ一番ダロ?」
「……(ああ、反復と経験で覚えろ系か。いや、まぁらしいけど)」
面倒見の良さはあるみたいではあるがそれでもスルスミちゃんは
こう指導とか上手そうじゃないものね。背中見て覚えろとか
技は見て盗めまではいかないけど、うーむ。
何となく、こくこくと相槌を打つ子が数名いるのが見える。
そう考えると私を射抜く(物理)目的で集まってた子はやっぱり
ヒビ割れの子が多かったんだねと改めて思うよ。
「マァ、ソレデ今マデヤッテマシタガ、アタシ達モ別ノ鍛エ方ニハ
興味アルッスヨ。〘ハッシャクサマ〙ノヤツ」
「ウーン、マァソウダナ」
「だね。折角の提案だし、無下に断るより、一度試してみるのも
悪くないと思うよ。考えあっての事だろうしね」
…………よし、ノープランだったんだけど、ピンチはチャンス!
頑張るぞーーー! 私!
第七十六歩「八尺様式トレーニング」に続く




