第七十三歩「OJT(お仕事、実際、大変)」
「おおー、お姉ちゃんたかーい」
「ぽぽぽっぽぽっー(どいたしましてー)」
私は少年エルフを肩車しては作業を手伝っていく。
〈骨の柱〉にくっついている生肉スライムを石刀で引剥しては
籠の中に入れる作業を数度。その度にイケヅキ君や少年エルフの
太ももが両頬に当たるのがたまりませんともええ、ほんと!
いやー、ラッキースケベ最高ですね! 八尺様冥利に尽きます。
「さて、こんなもんでしょう。姉さん達のところに戻りましょう」
「「はーい」」
「ぽぽぽっ(はーいっ)」
そう言って、さっき来た道を籠に肉を詰め込んだ後、帰っていく。
ドラ……じゃない、ワイバーンさん達は変わらずに〈骨の柱〉を
石や体当たりをして砕いては、巨大石臼を使ってゴリゴリと潰している。
うーむ、まぁこの生肉スライムで食事は足りてるっぽいんだけど
なんで、アレをやっているかがいまいち解らんさんである。
ただ、これは迂闊に聞けないよね。言語も〘古代エルフ語〙で
曖昧にしか会話出来ないし。そういや、他に喋れないのかな?
イケヅキ君に〘霊話〙で聞いてみよう。
「……(『ワイバーン』『古代エルフ語』『しか』『喋れない?』っと)」
「ん? ああ、彼らは独自言語の〘古代竜語〙はありますが
アレは発音がエルフでは出来ない言葉も多いので
〘古代エルフ語〙と〘霊話〙に統一して貰っています」
「ぽぽぽっー(なるほどー)」
「彼らは知能が高いですからね。此処に来る前は
色んな言語を覚えていたらしいです。詳しい事は聞いてませんが」
「ぽぽっ(へぇー)」
お、しっかり伝わった。会話の流れで喋る時は普通に聞こえるけど
単語や話題が新しそうなのはやっぱ〘霊話〙でやっといかないと怖いね。
そして、ワイバーンさん達は頭良いのかー。多国言語を習得してるって
相当なエリートさんなのかな? それともヨーロッパのラテン語みたいに
根幹の共通言語みたいなのが派生したとか?
まぁ、空飛べるんだからあっちこっち行くのも楽だろうしねぇ。
「……(うーむ、なんだか色々と謎が多いなぁこの楽園も)」
そう想いを馳せつつも野営地の砂浜に帰ってくると残っていた
他のエルフ達は竈を作ったり、火を起こしたりと食事の準備をしていた。
ううむ、こういう多人数共同作業ってなんか良いね。
学校のキャンプ合宿みたいな感じで青春を僅かに感じさせる。
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽっぽっ?(アレ、スルスミちゃんは?)」
「ア、スルスミ姉様ハ」
ふとトゥータは居るのにスルスミちゃんが見当たらない。
里に帰っちゃったかなと思ったら、近くに居た少女エルフが
泉の方へと指を指す。しばし、眺めていると水柱が立ち上がり
其処から目の瞑れているのか、真っ白い目に真っ白い鱗をした
なんか大人一人分位の体長がある魚が打ち上げられた。
それを水中から飛び出した人影が魚に向かって飛びかかっていく。
びちびちと跳ね上がる魚の脳天へと拳を叩き込めば、大きく跳ねた後
魚は完全に沈黙してしまっていた。パネェな。
「獲ッタゾーーーー!」
「……(お、おぅ)」
「スルスミ姉様、ソノ肉嫌イナンスヨ」
「不思議ですよね。普段、あんだけ肉好きなのに」
当然、その出てきた人影というのはスルスミちゃんな訳で
相変わらずのワイルドっぷりがもう眩しい。ほんと生活能力高いな。
女子力が壊滅的なのはその引き換えなんだろうか。
天は二物を与えずって奴なのかな? しかし、生肉スライムが
嫌いというのは意外だったがやっぱアレか。
自分で仕留めないと楽しめない系の嗜好なんだろうか。
「ま、兎も角食事を済ませちゃいましょう」
「「はーい」」
そう言って少年少女エルフ達とのバーベーキューが行われた。
まぁ、子供連中が多いのできゃっきゃとなかなか騒がしい様相を見せていたが
皆でわいわいとお肉焼いて食べました、以上である。
一つ変わったことがあるとすれば、あの焼いた生肉スライム。
脂肪も混じっているし、骨こそないがボリュームも肉汁もたっぷりだ。
でかい塊を竹串に刺してはガンガン焼いていき、子供達もばくばく食べていく。
少年どころか少女すら良い食いっぷりをしているのは見ていて気分がいい。
「……ぽぽっぽぽっ(ぴりぴりする)」
「ン? オマエモソウカ?」
「ぽぽっ(うんっ)」
「味付ケヲドバドバ使エバ良インダガ、贅沢言エナイカラナァ」
ただ、食べられない事は無いんだがこう辛いと言うか、苦いと言うか
獣臭いというか舌先がどうにも痺れる様な味がするのだ。
どうやら、スルスミちゃんや一部の子も同じ様な味覚だったらしく
苦手な子が居るのはちょっと嬉しかった。味覚が同じというのは
なんであれ、親近感が湧いていくものだ。なので魚中心で
やっぱり我慢出来なくて肉を喰らうというもうどうしようもない昼餉だ。
「ウシ、片付ケハ任セテ、一発ヤッテオクカ」
「ぽぽぽっぽっ?(もう始める?)」
「そうですね。人数が人数ですので。ええと、族長から段取りは
相談してまして、まずは女の子のこの子から試してみて下さい」
「オ、オ願イシマス」
「ぽぽぽっ(りょうかいー)」
うむ、大人数作業ってのは仕事が分担出来て逆に色々と忙しいね。
私たちは食後少しだらけた後、いよいよと私のスキルによる治療が始まる。
最初に女の子が前に出された。そういや、イケヅキ君とリトモさんも
両方男性だったから女性にやるのは初めてになる。
キャンプ場からちょっと離れた茂みの先に毛皮を敷いて
少女は上着を脱いではトップレスになり、背中を晒したまま寝転がる。
近くには木製のシャベルみたいなのと泉の水が入った桶を待機させる。
こう、イメージで言うと整体とかエステみたいなノリになりそうだ。
「ぽぽっぽぽぽっー(じゃ、行くよー)
「何か変な事があったらちゃんと言ってね?」
「ハ、ハイ!」
そう言ってイケヅキ君が女の子に手を握ると相変わらず戦国武将みたいな
視線がぶっ飛んで来る。おちおち落ち着こうかスルスミちゃん。
一応空気は察してくれたのかその気配もすぐ引っ込めてくれたが
これ、イケヅキ君毎度こんなんで大変だね。
相手の少女エルフも若干緊張している。一発目は誰でも怖いもんね。
さ、それはさておいて私は少女エルフの背中に手を置く。
スルスミちゃんよりはひどくはないが体中に黒い線が入っていて
他の子よりも深刻という感じなのだろうか? コレがどの程度生活に
支障をきたしているかさっぱり解らないが、見た目の差異は抑えておきたいのが
人情?(エルフだけど)なのだろう。さて、スキル発動。上手くいってね?
「……(スキル〘魂削りの愛撫〙発動!)」
【スキル〘魂削りの愛撫〙を発動します〙】
「…………んんっっ!!」
ちょっと艶めかしい声を出すがすぐに口に布を含んで耐えていく少女エルフ。
私としては……アレだ。リトモさんほど不味くはない味の感覚で
アレ、黒糖の麩菓子みたいな味と触感がする。イケヅキ君の時の様な
強い甘味や満足感は無いが噛めば噛むほど程よく味わいがあるが
全体的にスカスカな食感を感じさせていく。
そんな感想とは裏腹に暴れない様に手足を抑えられながらも少女エルフの
身体は異変が見て取れた。黒く入り込んでいたヒビの先端が
少し薄くなっては全体的に当てた背中の部分に集まっていく様な色になっていく。
手のひらの部分をまるでインクを付けた張り手の様に其処に黒い墨色が集まって
其処には黒ずんだ大きな濁りの水たまりが出来ていた。
「ぽぽぽっぽっ?(こんなもの?)」
「大丈夫?」
「ナ、ナントカ……フワァアットシマス」
「ヨシ、ジャア水掛ケルゾ!」
そう言って、スルスミちゃんは桶で汲んできた泉の水背中にぶっかける。
大きな白煙とじゅくじゅくと熟れて蠢く黒い墨の塊が背中で踊る。
次第にその動きは小さくなっていっていくが見るからに痛そうなソレに
もんどり打つ少女エルフがそれを左右でスルスミ、イケヅキ両名が
手を抑えていく。私も背中にかざす手に力を入れて抑え込むのは
こう、絵面的にもうなんかダメなんじゃないか!?
「ンゥッッーーーー!!?」
「しっかり!」
「泣クナ。スグ終ワル!」
中々にヴァイオレンスな光景である。うーむ、もがき苦しむほどではないが
アレだ、歯医者で虫歯削られてる位の痛みのこらえっぷりで
手足がびくっびくっと震えていく様は妙にやらしーかも?
まぁ、そんな邪念を挟む余地なんて殆ど無く
涙目でつっぷす少女エルフはもう可哀想で仕方がない。
しばらくすると巨大なカサブタになった黒いそれを引剥せば
まるで日焼けした皮を無理矢理剥いだかの様に赤白い肌が背中から出てきた。
「ぽぽぽっぽぽっ?(大丈夫ぅ?)」
「ハイ……フラフラシマス」
「少し薄くなったかな?」
【[レガシーピース]〘混沌に染められる日々〙を習得しました】
「……(お、ココで[レガシーピース]取得か)」
システムさんの声に思わず、声を上げそうになった口を
真一文字に閉めていく。うむ、やっぱりこの黒い奴の
ルーツ的なのを探れるのかな? 引剥された黒い塊は
砂の上に置くと水を掛けられた時同様に白煙を吐き続けて
そのまま、どんどんと収縮していって最後には消えてしまった。
この砂浜にもなんか効果があるのかな? 目を凝らしてみるが
新しい情報は得られなかった。
「よし、じゃあ埋めますね。こっち転がって」
「ハ、ハイ!」
頭の付近に布に小さい毛皮を敷かれるとそのまま、砂浜の砂を身体に
掛けていく。砂風呂みたいな状態になっており、こんもりと盛り上がる
砂の山の中に少女エルフは固められていた。
「一応、コレが時折僕達がやっている治療の手順です。
気分を悪くしたり、黒いヒビが妙に増えた時は
此処の泉の水を掛けて、砂の中で寝かせる」
「ぽぽっぽっー(なるほどー)」
「コンナノデモ、ソコソコ効果ガアッタンデナ」
妙に原始的な気もする処置が一通り終わり、私もほっと一息つけた。
こう、河豚毒に当たったら砂浜に一晩埋めろみたいな勢いだし
なんだかハワイアン系健康ランドの一幕みたいだ。
しかし、現実に此処の水や砂はなんだかそれっぽい効果がある様だし
これも彼らの試行錯誤を経て会得した一つの答えなのだろう。
「ヨッシ、大丈夫ソウダシ、ドンドンヤッテクゾ」
「ぽぽっ(はーいっ)」
「えーと、次はこの子ですね」
そうして、同じ様な流れでもう一人少女エルフに同様の処置をやった後
次は少年エルフに同じ治療の処置を行ってみた。
味わいは初めてイケヅキ君に対してスキルを使った時同様に
なんとも甘味の深い。若干、この子は苦味が薄くてがつんっと
解りやすい味になっており、こうビターチョコとミルクチョコレート位の
差を感じるに至った。しかし、ココで私に想定内の変化が起こる。
「ぽぽっ(ちょっと)」
「どうしました?」
「ぽぽっ、ぽぽっぽっ。ぽぽぽっぽっぽっぽぽっ。
(もう、吸えない。お腹一杯だよ)」
「ああ、スキルで空腹を満たしているんでしたっけ。
お昼食べた後でしたし、3人やりましたからね」
「ぽぽっー(うんー)」
流石に砂風呂作成くらいではお腹は減らないのか、
スキル使用3人目で早くも私の胃と言うか満腹感が限界に近かった。
うう、お腹が重いし、体の動きも鈍くなる。脳が完全にスキルの拒否信号を
発信している。流石にお昼食べた分もあるがもう吸えないっす。
私は口元を抑えて頭を左右に振る。
「ヨシ、解ッタ。両手上ゲロ?」
「ぽっ?(へっ?)」
「要ハ入レタモン出セバ良インダロ?」
「ぽぽっぽぽぽっ!?(ちょ、待って!?)」
そう、無警戒にも私が両手をホイホイ上げてしまうんです。
ソレを狙い済ました様に鋭いスルスミちゃんの回し蹴りが
見事に私の腹部へとクリーンヒットをするのですよ!
第七十四歩「ゲロインは嫌だって言ったじゃないですか!」に続く




